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リアクション
■昼 〜色恋人情悲喜交々〜
祭りを訪れるお客達が増えだすと共にお客達が抱える様々な感情が渦巻いていた。
「……人も増えて祭りらしい体裁になりましたね。様々な感情が渦巻いて」
狐樹廊は一人遠くから人が増えて嬉しい楽しい恥ずかしい恨めしいなどの感情が増えていく様子を眺めていた。
クレープ屋『天使の羽』。
昼前から並んでいた近遠達にようやく順番が回って来た。
「あたしはこのプチロールクレープを選びますわ。色んな味のクレープが入っていますのね。新商品に出会えるとは長く待ったかいがありましたわ」
ユーリカはリース考案のクレープを選んだ。
「わたくしは苺のクレープにするでございますよ。生地もピンク色で可愛いでございます」
アルティアはマーガレット考案のクレープを選ぶ。
「我はガレットにしよう」
イグナは隆元考案のクレープを選ぶ。
「せっかくですからボクも新商品を食べてみましょうか。このプチロールクレープをお願いします」
近遠は食べ易そうなリース考案のクレープに決めた。
「あ、はい。ありがとうございます」
「少々、待っておれ」
リース、隆元はすぐに自分の考案したクレープを作り始めた。
「すぐに作るからね。お願い!」
マーガレットはそう言って野良英霊:赤川元保に作って貰った。
クレープはすぐに出来上がり近遠達の手に渡された。
「ありがとうですわ」
「ありがとうございます」
「美味しそうでございます」
「美味しく頂こう」
ユーリカ、近遠、アルティア、イグナはクレープを受け取り、ゆっくり食べようとオープンテラス風の休憩所に行った。楽しくクレープを食べてから『露店グルメ大食い大会』を見学しに行った。
その後、
「……」
マーガレットは少し神妙な顔をしていた。
「ど、どうしたんですか?」
「桐条さんのクレープと接戦だから」
リースが事情を訊ねるとマーガレットは不満そうに声を上げた。マーガレットは不満そうにリースに言った。開店してからこっそり売れ行きを数えていたのだ。
「ほう、小娘」
隆元は目を細めた。
「あ、あのお客さんです」
リースはマーガレットと隆元に来客を告げ、販売勝負の話を終わらせた。
「いらっしゃいませ!!」
「ふむ」
マーガレットと隆元は快くお客を迎えた。
中央広場。
恋人になったばかりの初々しいカップルの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が恋活祭を楽しむために来ていた。
今は、ちょうど係員から金銀の記念ベルを貰ったところだ。
「……何か照れるね」
手にある金のベルを照れながら見ている美羽。
「……そうだね」
コハクも同じように手の中の銀のベルを見ている。
「これ、二つ同時に鳴らすと共鳴し合うんだよね」
「やってみようか」
美羽とコハクは金銀のベルを同時に鳴らし、共鳴させた。
不思議で美しく澄んだ音が生まれ、二人の耳を楽しませた。
その後、
「次はどうしようか。美羽はどこに行きたい?」
とコハク。ベルが終われば早速本格的なデートだ。
「クレープ食べたい……コハクと一緒に」
美羽は来る前から楽しみにしていた事を即答するも隣に恋人がいると思うと言葉尻は小さくなる。
「……じゃ、行こうか」
可愛い美羽に思わず照れてしまうコハク。先ほどから照れてばかりの可愛らしい二人。
「……人が多いね」
美羽は改めて中央広場を見回す。どこもかしこも人ばかり。
「……美羽」
コハクは勇気を出して組んだ腕を美羽に差し出した。
「……うん」
美羽は周囲を見回した後、コハクの腕を見つめてからゆっくりと腕を絡め微笑ましげにクレープ屋『天使の羽』へ。二人にはまだまだ人前で腕を組むには勇気がいるようだ。
長蛇の列を長々と待ってクレープを買った後、美羽とコハクは近くにあるオープンテラス風の休憩所で一休みをした。
「美羽、美味しいね」
「そうだね」
コハクと美羽は向かい合って仲良くクレープを食べていた。美羽は苺のクレープでコハクはガレットだ。当然、『天使の羽』オリジナルベルも貰っている。
「……」
ふと美羽は手を止めて向かいに座るコハクをじっと見つめていた。今目の前に最愛の人がいると考えると恥ずかしくて嬉しくて顔が自然と赤くなってしまう。
「……美羽、どうしたの?」
コハクは様子のおかしい美羽を心配して訊ねた。
「……コハク、これからもずっと私の傍にいてね」
美羽は少し照れたように今の気持ちを素直に口にした。
「……もちろんだよ」
コハクも美羽につられて頬を染めて力強く言った。
「……」
話しが終わっても美羽は苺のクレープに口を付けずにガレットを食べるコハクを見ていた。
「どうしたの?」
コハクは首を傾げながら訊ねた。
「コハクのクレープ、美味しそう」
美羽は少し物欲しそうに言った。
「……食べていいよ」
コハクはガレットを美羽に差し出した。
「うん、私のと交換しよう」
美羽はうなずき、ガレットを受け取るなり自分が食べていた苺のクレープを差し出した。
二人は仲良くクレープを楽しむ事に夢中で吹雪達にベルを奪われた事に気付いたのはクレープを食べ終わった時だった。
「……いつの間にかベル奪われたみたいだね。まあ、お祭りのイベントだし。コハクがいるからいいかな」
「そうだね。僕もベルよりも美羽がいるいる方がいいよ。それに『天使の羽』で貰ったベルがあるから」
美羽とコハクはベルを奪われた事でさらにラブラブになっていた。
この後、二人はまたぎこちなく腕を組んで仲良く祭りを楽しんだ。
中央広場。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! この俺を一人で来るようにと呼び出すとは! おのれ、さては先ほどのメッセンジャーは、正義の組織の者か、もしくはライバルの悪の組織の手のものに違いない!」
たまたま恋活祭が開かれている町に来ていたドクター・ハデス(どくたー・はです)は何かの手違いで『絆誕生サービス』に登録され、係員から待ち合わせ場所の指定をされるも勘違いしながら向かった。
待ち合わせの場所である商店街。
「……ほう、呼び出したのは貴様か」
ハデスの眼前にいたのは
「やぁ、ハデスさん」
明るく挨拶をする下川 忍(しもかわ・しのぶ)だった。
「ちなみに呼び出したのはボクじゃないよ。でも、せっかくだからとっておきの秘密を教えてあげるよ」
忍もどうやらハデスと同じ目に遭遇したようだ。忍はこれも何かの縁とばかりにふふと意味深な笑みを浮かべた。
「何だ? さっさと話せ」
ハデスは勿体ぶった忍に苛々しながら促した。
「……実はボク、男なんだ」
忍は普通の人なら十分に驚く告白をした。
しかし、
「それだけか、つまらんな。下川忍よ。お前の性別が男だったからといって、なんだというのだ? 別に、俺の研究には関係ないしな……」
研究にしか興味を持たない、いや恋愛自体興味のないハデスの反応はあっさりとしたものだった。
「……まあ、友人同士だと割引になる店も多いと聞く、せっかくだ一緒に食事でもしていくとしようか」
ハデスは割引の事を思い出し、せっかくだから有効活用しようと考え、歩き始めた。
それに対して忍は
「まさか僕が男だって事より、そっちが大事なんて面白い人だよ」
と周りに聞こえないように囁き、ハデスを追い越し先を歩いた。
その二人を嫉妬の目で見守る者達がいた。
「一人でどこに行くのかと思ったら下川さんとデートなんて」
「ハデス殿と下川殿が待ち合わせじゃとっ!? 許嫁のわらわが居るというのに、咲耶ならまだしも、下川殿と逢引きなどと…!」
一人でどこかに行くハデスを尾行して来た高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)と奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)だった。
「何を話したのかしら」
「ハデス殿を誘惑などしてなかろうな」
咲耶と神奈にはハデス達の会話は遠い上に人混みで聞こえなかった。だからこそ余計な妄想がふくらんでいる。冷静な第三者から見れば、ハデスがデートなんて有り得ないと判断出来るのだが、重度のブラコンの咲耶と許嫁の神奈には冷静な判断をする余裕は皆無だった。
「こ、こうなったら、兄さんのあとをつけなければ、こ、これは、妹としての義務ですから!」
「そうじゃ、わらわも行くぞ。許嫁の義務としてな」
咲耶と神奈は尾行を開始。
ハデスと忍が喫茶店に入ると咲耶と神奈も独り身割引で入店。ライバルなので友人割引は見当違いなのだ。
「ふふふ、なんだか面白いことになっているようですわね」
独り身割引を使用して喫茶店で優雅に紅茶を飲んでいたミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)はハデスと忍、それを追って咲耶と神奈は入って来るのを発見し、面白そうに笑んでいた。
「どうやら咲耶さんと神奈さんはデートだと勘違いして、ハデスさん達の邪魔をしようとしているようですわね」
食事をするハデスと忍、それを戦々恐々と観察する咲耶と神奈の様子からミネルヴァは状況を理解した。
四人が出て行くのを確認するなりミネルヴァはカップを置き、
「面白そうですわね。せっかくですから私もあとをつけましょうか」
ミネルヴァは咲耶と神奈を尾行する事にした。
「ご馳走したからと言って何も出んぞ」
ハデスは裏があるのではと忍をにらむ。忍を利用したのは友人割引を使うためだけで支払いは自分の分は自分でと考えていたので奢ってくれた忍に裏があるのではと怪しんでいる。
「そんな、別に他意は無いよ。ただ、ハデスさんが面白い人だったから」
忍は面白そうに笑いながら答えた。
「どうする? ハデスさん、食後のデザートに何か食べる?」
「いや、遠慮しよう」
軽く誘う忍にハデスはこれ以上は関わりたくないのか断った。
ここで解散となると思いきや。
この様子を見ていた咲耶と神奈には恋人の語らいに見えたらしく
「兄さん、それ以上は不潔です」
「わらわという許嫁がいながらふしだらな」
怒りが頂点に達した咲耶は『天のいかづち』、神奈は『毒虫の群れ』をハデスにけしかけた。
「ふふふ、女性の嫉妬は怖いですわね」
ミネルヴァは面白そうに事の顛末を静かに見守っていた。
ハデスは雷に打たれ黒こげになっただけでなく毒虫により猛毒を食らって片膝をついていた。
「ハデスさん、大丈夫?」
忍は『ナーシング』を使って回復させた。ハデスは敵だが、今日は楽しませて貰ったので。
「秘密結社オリュンポスの大幹部たる俺に塩を送るとはな」
回復したハデスは立ち上がってそう忍に言うなり、自分を狙ったのはどこかの組織の人だと勘違いして捜しに行った。咲耶と神奈はハデスを追いかけ、ミネルヴァも尾行を続けた。
忍はハデスを見送った後、ゆっくりと祭りを楽しんだ。
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