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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
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第一章 夢楽しむ人々


「……手を繋いで寝たら一緒の夢に入れるかな?」
 雲入 弥狐(くもいり・みこ)は夢札を使用してぐっすりの奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)の寝顔を見つめていた。
「……」
 自分の手にある夢札と沙夢を見比べ少し考える。使っても別々の夢だと少し寂しいと。
 そして、
「むしろ一緒に寝れば……うん、そうしよう!」
 決意を固めた弥狐は沙夢を起こさないように静かに潜り込み、夢札を使い深い眠りへ。

 枯れ葉が寂しく付いた木々が立ち並ぶ小道。どこか秋の終わりを連想させる世界。

「……うーん、これが夢の中? 沙夢はいるかな」
 弥狐は道端に広がる枯れ葉の絨毯を眺め、傾いた太陽を見上げてから周囲を見回すも沙夢はどこにもいない。
「……もう少し歩いたらきっといるよね」
 少し寂しい気持ちを抱きながら弥狐はゆっくりと歩き始めた。

 歩き始めてしばらく後。
「……沙夢、どこにいるんだろう。いないのかな」
 弥狐は足を止めてもう一度周囲を確認。ただ寂しげな道が続いているばかり。孤独感を感じ足は止まったまま。
 その時、足元から猫の鳴き声。
「……ネコ?」
 弥狐は鳴く黒猫に気付き、屈む。
「ねぇ、沙夢知ってる?」
 弥狐は猫に訊ねる。ここは夢だから猫でも何か知っているかもしれないと思いながら。
 猫は弥狐をじっと見つめた後、鳴いた。
「知ってるんだね」
 弥狐は猫の答えにほっとした。なぜだか猫の言葉が分かるが、ここは夢の世界。
 猫はもう一度鳴いてからゆっくりと歩き始めた。
「……ついて来いって、案内してくれるんだね」
 弥狐はゆっくりと立ち上がり、黒猫の後ろを元気に歩き始めた。
「……ネコの案内人……どこかで聞いた気がするけど気のせいだよね」
 弥狐は先頭を歩く黒猫の後ろ姿を見ながら言葉を洩らしていた。
 弥狐が案内されたのは少しばかり屋根が色褪せた小さな喫茶店だった。

 弥狐が黒猫に出会う少し前。
「……夢の中での喫茶店……思い通りの古き良き喫茶店」
 沙夢は周囲を見回しながら言葉を洩らし、珈琲を楽しむ。いつも運命の人と出会えたらと妄想する時に思い描く場所そのままの世界。
 店内を照らすのは窓から差し込む西日だけのほの暗い世界、流れる音楽は随分昔に流行したと思われるジャズやクラシック。漂う空気は珈琲の香りで染められている。
「……夢でも猫がいるのね……これが夢なら会話出来ないかしら」
 沙夢はカップを持ったまま西日の差し込むテーブルの上で眠っている白猫と黒猫に微笑んだ。店内にいるのは沙夢と2匹の猫だけ。
 沙夢の言葉が聞こえたのか白猫は目を覚まし、鳴いた。
「あなた達、ここの看板猫なのね」
 自分達の正体を教える白猫に微笑む沙夢。白猫はまた眠り始めた。
「……素敵ね」
 沙夢がのんびりと言葉を洩らした時、ぴくりと黒猫が目を覚ましてテーブルから飛び降り、店の出口に向かう。
「……どうしたの?」
 沙夢が訊ねても黒猫は答えず、静かに店を出て行った。
「……無愛想な子なのね」
 気を害した様子もなく沙夢は黒猫を見送った。
 それから
「……自分で珈琲を作り、出すというのもいいかしら」
 沙夢は珈琲を味わいながら色々考えていた。
「……お客さんが来るわけでもないのに」
 沙夢は口元に笑みをこぼした。

 黒猫が出て行ってしばらく後。
 店のドアが開き、チリンとドアの上部に取り付けられている鈴が鳴った。
「沙夢!」
 現れたのは黒猫に導かれてやって来た弥狐だった。
「あら、弥狐? 夢が繋がっていたのかしら」
 思わぬ訪問者に少々驚く沙夢。
「うーん、それは分からないけど。ネコに案内して貰ったんだ!」
 沙夢に再会出来てほっとする弥狐。黒猫は仕事を終えたとばかりに定位置に戻り、一眠り。
「そうなの」
 沙夢は眠る黒猫を見ながら一言。
「毎日、ペットの2匹を見てるからだね」
 弥狐は今頃眠っているだろうペットの2匹の猫を思い出していた。
「そうね。弥狐が来たのなら私がマスターをやってもよさそうね」
 沙夢は弥狐にうなずくなりいそいそとカウンターのスタッフ側に移動した。
「あたしはお客だね!」
 弥狐はカウンターに立つ沙夢に笑った。
「いらっしゃいませ、私の夢の中へ。軽食やデザート、それに様々な珈琲を用意していますよ」
 沙夢はマスターらしく振る舞って見せた。
「それじゃ、あたしはここに座るね!」
 弥狐は沙夢の真ん前にちょこんと座った。
「メニューをどうぞ」
 沙夢はメニューを弥狐の手元に置いた。夢の中なので何でもある。手に入りにくい珈琲豆から食材など様々。

 メニューを一通り見た弥狐は
「ケーキと珈琲!」
 元気良く注文。
「はい。少々、お待ち下さい」
 『調理』を持つ沙夢は現実以上に手際良く料理を準備。ここは夢世界なのであっという間に思い通りの物が用意出来る。
「はい、どうぞ」
 沙夢はケーキと珈琲を弥狐の前に置いた。
「ありがとう!」
 甘い物好きの弥狐は料理を受け取りなり、真っ先にケーキを頬張った。
「沙夢、美味しいよ」
 弥狐はケーキを食べ終え、クリームと砂糖たっぷりの珈琲を飲みながら嬉しそうに沙夢に言った。
「お客様、ありがとうございます……なんちゃって」
 沙夢は丁寧に頭を下げて対応したかと思ったらいつもの調子に戻った。
「……本当に静かね」
 頭を上げた沙夢は心地良い静けさに思わず言葉を洩らし、まったりと眠っている猫達に視線を向けた。
「うん」
 弥狐もうなずきながら沙夢と同じ方向に顔を向けた。

「沙夢」
 ふと弥狐は何を思ったのか沙夢に声をかけた。
「何?」
 聞き返す沙夢。
「いい初夢だね。今年もいいことあるといいなぁ」
 弥狐はにっこり笑顔で答えた。
「そうね」
 沙夢も笑顔で答えた。
 二人だけのまったりとした時間が過ぎていった。