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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
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 葦原長屋。

「……フレイ、来たぞ」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に呼び出されフレンディスと忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が住む家にやって来た。苦労の予感を胸に抱きながら。

「マスターよくぞお越し下さいました! 見て下さい。この度双子さんがこのような素敵な物をお作りになられたようで頂いて来ちゃいました。素敵な初夢が見られるそうですよ。もちろん、マスターの分もあります」
 ピコピコと『超感覚』の耳と尻尾を楽しそうに動かす満面の笑みのフレンディスが待ってましたとばかりに家から登場し、双子から貰った人数分の夢札を取り出した。
「……新年早々、あいつらの騒動に巻き込まれるのか。幸先悪いとしか思えねぇな」
 フレンディスから受け取った夢札を不吉そうに見るベルク。今日は大晦日、明日は新年、年を跨いでの騒動。いつもの事ながら巻き込まれる方はたまらない。
「心配ありませんよ。今回はエリザベートさんとアーデルハイトさんが安全だと許可を出したそうですから」
 フレンディスは夢札配布の際、双子達が触れ回っていた事をベルクに伝えた。
「……二人が安全を保証しているのか。まぁ、あいつらにしては裏に注意書きも入れてあるし……大丈夫、なのか? 札使用者間の夢干渉可能の項目に嫌な匂いがするんだが」
 ベルクは札の裏を確認しながら、双子にしてはまともに見える物を作るなと思いつつも気になる事が少々。

 しかし、フレンディスは気にしないどころか好奇心絶好調。
「ですから、私とマスターとポチで夢札を使って一緒に素敵な夢を見ましょう。丁度、ポチはお勉強に疲れてお部屋でお休み中ですから。こっそり使って」
 忍者稼業で普段は警戒心が強く眠りが浅くなりがちな上に夢を見たとしても心に抱く将来の不安から来る悪夢ばかりなのでフレンディスはせめて今夜は夢札を使い大切な人達と素敵な夢を見たいのだ。それにパートナーがいれば安眠も出来るから。
「……あぁ」
 フレンディスの頼みを断れないベルクはため息をつきながら承諾し、諦めて一緒に使うしかないなと覚悟を決めた。
「それでですね、その今宵はお部屋をお貸ししますのでどうでしょうか。確実に一緒の夢を見るために」
 フレンディスは体を避け、ベルクが家の中に入れるようにする。
「……もしかしてそのために俺を呼び出したのか」
 ここで呼び出された本当の理由を知るベルク。
「はい、マスターなので何も問題ありませんよ。どうぞ」
 天然思考のフレンディスはベルクに即答。
「……はぁ、俺が居ない所で勝手に使われるよりはいいか。しかし……」
 口から出るのはため息だけ。確かフレンディスと恋人同士のはずなのにそれを意識しているように見えない。鈍感天然なので仕方が無いのかもしれないが、何とも言えない寂しさを感じながらベルクは家の中に入った。
 フレンディスは耳をピンと立たせ尻尾を振りつつ大喜び状態で夢札を枕の下に忍ばせる。もちろん、ベルクの寝床も用意し、夢札を枕の下に入れる完全無防備の様子にベルクは何とも言えぬ顔で見守っていた。
 そして、夢の時間はやって来た。

「ここがフレイの夢、どこにいるか捜してみるか。どんな夢か興味あるしな。ワン公は容易に想像つくが……ここだな」
 ベルクはフレンディスの夢に来ていた。目の前には葦原の長屋があり、その一つからフレンディスの楽しげな声が聞こえてきた。ベルクは気付かれないように家の中に入り、様子を盗み見て繰り広げられている小芝居に言葉を失った。

 長屋内。

「……どうですか、マスター?」
 フレンディスはちゃぶ台から乗り出して手料理を食べるベルクを楽しそうに見ている。
「いつも通り美味しいぞ。それよりフレイ、もうそろそろマスターはやめてくれねぇか。一緒に生活を始めてから随分経つんだぞ」
 白米の茶碗片手に焼き魚を突き、味噌汁をそそった後、ベルクはため息をつきながらツッコミを入れる。フレンディスが生み出したベルクもまた気苦労を抱える運命の人らしい。
「……」
 それを見る訪問者ベルクは、まるで自分の未来を見ているかのような既視感に言葉を失い中。
「……マスターはマスターです」
 フレンディスは即答した。夢の中でも従者精神は抜けていない模様。
 そして、フレンディスは自分達を見守るもう一人のベルクの存在に気付いた。
「……あ、マスターが二人……あぁ、あの」
 見守っている方が本物のベルクだと知ったフレンディスは羞恥心から言葉を失い、自分の夢を飛び出してしまった。
「フレイ!」
 ベルクは急いで逃げるフレンディスを追った。

 豪華な一軒家に見える犬小屋。

「えへへー、ついにこのハイテク忍犬の僕が犬の頂点に立ちましたよ! これで沢山のほねっぽんにプレミアムドッグフード食べ放題、ふかふかの犬ベッドでゴロゴロしながらネットし放題だし研究し放題」
 尻尾を振りながら犬ベッドでゴロゴロするポチの助。周りにはほねっぽんや最高級のドッグフードが転がり最新型のノートパソコンがいくつも並んでいる。これがポチの助の夢。
「なんて最高なのでしょー、これも当然ですねー。僕は犬の頂点ですからー」
 寝っ転がりながら満足げにポリポリと最高級ドッグフードを食べる。
 しかし、至福の時間は長くは続かなかった。

「フレイ!」
 逃げるフレンディスと追いかけるベルクが現れたのだ。
「な、なんで僕の素敵空間に居るんですか!? ここは僕の夢ですよ」
 夢札の事を知らないポチの助は驚くばかり。
「……申し訳ありません」
「……こんな夢か」
 フレンディスはポチの助に謝りベルクは到着場所を確認する。
「ご主人様、謝る必要はありませんよ。どうぞ、寛いで下さい。エロ吸血鬼はさっさと立ち去って下さい! でないと僕がエロ吸血鬼を気にしているように見えるではありませんかっ」
 ポチの助は立ち上がりピンと背筋を伸ばしてフレンディスを快く迎えるもベルクに対しては内心認めつつもツンとする。

「……言われなくてもすぐに行く。フレイ、悪かった。俺は記憶喪失の影響であまり夢を見ねぇし、見たとしても忘れてしまう。だからお前が普段どんな夢を見ているのか気になったんだ」
 ベルクはポチの助の相手を煩雑にこなし、フレンディスに謝った。悪気が無かったとはいえ大切な人を傷付けた事には違いない。
「……マスター」
 フレンディスはじっと切なそうな目でベルクを見た。羞恥心はどこかにいってしまった。自分はみんなと素敵な夢を見たかった。自分もポチの助も素敵な夢を見たが、ベルクだけは見ていない事に気付いたのだ。耳と尻尾がしゅんとしている。
「そんな顔をするな。俺にとって大切なのは現実だ」
 フレンディスの気持ちを知ったベルクは夢を見て出た結論を口にした。フレンディスが自分の傍らにいる現実の方が夢よりもずっと大切だ。

 ベルクの言葉を聞き、何事かを思いついたフレンディスは
「……マスター……そうです! 新年をお祝いましょう。そして、起きたらまたお祝いをするんです。正夢ですよ。正夢は一番幸せなんです。マスターが夢を忘れても私が覚えていますから心配いりません」
 耳をピンと立て尻尾を振りながら思いついた素敵な提案を言葉にする。
「……正夢か」
 とベルク。ベルク自身が覚えていないとベルクの正夢にならないと思うが、元気になったフレンディスに余計な事を言いたくないためあえてツッコミは入れなかった。
「行きましょう。私の夢でお祝いです。マスター、何が食べたいですか? おせちですか、お雑煮ですか。何でも用意しますよ」
「……それは任せる」
 お祝いする気満々のフレンディスを疲れたように見ながらベルクは答えた。当然、耳と尻尾は大喜び状態。
「はい。ポチも一緒にお祝いしましょう。正夢は一番幸せな夢ですよ」
 フレンディスはポチの助にも声をかけた。
「ご主人様のために盛大にお祝いしますよ」
 とポチの助。自分の素敵夢もいいが、フレンディス達と過ごす夢も好きだから。
 三人はフレンディスの夢で盛大に新年を祝い、目覚めの世界でも新年を祝った。
 今回は珍しく双子の邪魔も無く無事に過ごす事が出来た。