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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
悪戯双子のお年玉? 悪戯双子のお年玉?

リアクション

「……あのお騒がせ兄弟から貰ってきたけど。やっぱりろくなものじゃないかも……でも」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は双子から夢札を配られ、貰って帰るもなかなか使う気持ちにはなれない。今までも散々双子の悪戯に振り回されたため疑いは消えないのだ。
 しかし、その反面もしかしたらという思いもある。
「……今回はしっかりした保証もあるみたいだし」
 さゆみはふと配布の際、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が保証しているから大丈夫だと触れ回っていた事を思い出していた。
「せっかく初夢を見るなら素敵な夢が見たいし、使ってみよう。双子の事はいつもの事」
 意を決したさゆみは夢札を使った。もし、双子の悪戯に巻き込まれても何とかなると少々、馴染んでいた。

「……ここは」
 夢札を使ったさゆみがたたずむ場所は、薄暗く打ち捨てられた遺跡のような廃墟じみた場所だった。
「……どこかしら、パラミタでも地球でも当然ニルヴァーナでもないみたいね。もしかしたら不吉な夢かも」
 さゆみは心細そうに周囲を見回す。
「……?」
 突然、耳にヘッドセットが装着される。さゆみは両手を当てヘッドセットを確認する。少しでも自分がどんな夢にいるのか知るために。
「……私、一体どんな……」
 さゆみは疑問を最後まで言葉にする事が出来なかった。突然、差し込んできたまばゆい光が邪魔したのだ。
「……!!」
 さゆみはまぶしさのあまり目を閉じた。
「……何が」
 落ち着き、ゆっくりと目を開けたさゆみはさらに驚く事に。

 さゆみの周りに広がるのは拍手の波と自分の名前を叫ぶ声、立っている場所は、打ち捨てられた遺跡は様々な光に包まれたステージに変わっていた。
 当然、変わったのは舞台だけではない。
「……これが私……信じられない」
 いつの間にかさゆみは美しいドレスをまとっていた。

「さゆみ!!」
「歌姫さゆみ!!」
「奇跡のさゆみ!!」

 観客は声を上げ、さゆみの歌を求める。
 アナウンスが流れ、さゆみの簡単な紹介がされる。それによれば、ここは未来でさゆみは世界を席巻する伝説の歌姫だそうだ。
 紹介アナウンスが終わり、とうとう歌う時が来る。

「……」
 さゆみは目を閉じ、呼吸を整え早鐘のように打つ鼓動を落ち着けてからゆっくりと目を開け、歌い始める。

 『演奏』を持つ美しいさゆみの歌がワンフレーズ紡がれる度に観客の心を幸福で満たし、厚い雲を晴らし、月を輝かせ、きらめく星を走らせる。ステージの遠くから動物の鳴き声が響いてくる。人だけなく動物や自然さえも感動させる。
 歌声はステージにとどまる事なく数多の奇跡の奔流となり世界を満たす。
 寂しさで涙する少女の心を元気づけ、争う兵士達の武器を地面に捨てさせ、病で伏した少年を外へと導く。あらゆる場所であらゆる奇跡が起きていた。荒唐無稽でもここは夢。如何なる事象も起きる世界。

 歌声は世界を駆け巡り、終わる。
「……」
 さゆみは丁寧に頭を下げ、一曲目を終わらせた。アナウンスが流れ舞台袖へ移動して少しの休憩を取る事に。

 舞台袖。

「……ふぅ、夢だからかな、現実以上に素敵に歌えた気がする」
 ヘッドセットを外して椅子に座り休憩するさゆみは上気した様子で夢に感動していた。
「……今回ばかりはあの二人にお礼を言わないとけないかもね。こんな素敵な夢を見られたから」
 さゆみは毎度痛い目に遭わされている双子の事を思い出し、クスリと笑みをこぼした。
 そんな時、慌てたスタッフがさゆみの所にやって来た。
 事情を聞いたさゆみは舞台の方に視線を向け
「……あの二人は」
 ため息を洩らして泣き声と悲鳴が聞こえるステージへと急いだ。

 さゆみが休憩のため引っ込んでいた間。
 不穏な二人が訪問。

「ここは誰の夢なんだろうな」
「主らしき人もいないな、ヒスミ」
 さゆみがいなくなった事で夢の主を知らないままの双子。

「ちょっと遊んで行くか。人もたくさんいるし」
「だな」
 顔を見合わせた双子は悪戯を胸に抱き、ステージへと駆け出す。

 ステージに立つ双子。
「へへへ」
「やるぞ、ヒスミ」
 ヒスミの手にはシンバル、キスミの手にはフルートがあった。
 観客達は見知らぬ少年達に眉をひそめたりブーイングを投げつける。

「俺達の演奏を聴け!」
「響け!」
 双子達は楽器を演奏する。二人が流す音は不愉快な不協和音。音楽にさえなっていない。
 決して双子達の演奏が下手という訳ではない。不協和音を出す事しか知らない楽器に双子の観客達を驚かせようというものからだ。

「よーし、もう一曲」
「おう」
 観客達の様子を満足そうに眺める双子。
 あまりの音に耳を塞いだまま気を失う者やびっくりして飛び上がる者、妙な悲鳴を上げる者と様々。

 双子は再び不協和音を奏でるも今度は観客達を苦しめなかった。
 なぜなら双子の横から流れる美しい歌声が不協和音を包み込み、優しい音に変えてしまったのだ。

「……ありゃ、おかしいぞ」
「変だなって、ヒスミ」
 優しい音しか出さなくなったシンバルに眉をしかめるヒスミ、陽気な音を出すフルートをおかしく思うもさゆみの存在を見つけ青くなりながら知らせるキスミ。

「……げっ」
 双子は青い顔のままさゆみを見る。

「……ほら、二人共、観客の前なんだから演奏を続けないと」
 さゆみは小さな声で青い顔をしている双子に耳打ちした。

「……キスミ、逃げられそうにないな」
「だな」
 二人は仕方無く演奏を始めた。

 優しいシンバルの音色、陽気なフルート、そして奇跡の歌声がステージと世界を奇跡に包んでいく。
 何やかんや言いながらも演奏を楽しんでいる双子。その様子に安心と満足のさゆみ。
 さゆみの歌は終わり、観客達の感動は絶頂に達し、拍手はいつまでも止まらない。

 演奏が終わり、背後にいる双子に振り返るも影すらも無かった。
「……いない。せっかくお礼を言おうと思ったのに。またどこかで悪戯をしているはずね」
 さゆみはため息を吐きつつもとりあえず良い初夢になった事を双子に感謝しようと思ったのだが。
 この後、さゆみは観客達に応え、再び歌い始めた。

「……やはり現実と違って夢では色々試せますね」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は夢の中で節分の恵方巻の試作を色々作って楽しんでいた。
 夢のため普段なかなか入手が難しい材料も簡単に使える上に材料が尽きる事が無いのでいくらでも作る事が出来る。
「……なかなか素晴らしい物が出来ましたね。ついでにいくつか別のお寿司も作りましょうか」
 最高の恵方巻を作り終えるなりエオリアは鉄火巻きや目で楽しめるようにと花模様の巻き寿司も作った。
「これで二月初めの巻き寿司パーティーも大丈夫です。後は試食だけ」
 寿司が載った大皿を持ってエオリアはドアを開け、台所を出て行った。

 台所の外に広がるは溢れんばかりのカラフルな植物天国。
「……現実でも夢でも同じですね」
 エオリアは外の様子に呆れたようにため息を吐いた。
「……エオリア、それは違うよ」
 エオリアのツッコミにエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は即反応。
「自宅で育てている花木や観葉植物は耐性温度や湿度に応じてきちんといくつかの部屋に分けておかなきゃならないし。何より季節によって咲く花は基本的に決まってるだろ」
「……そうですね」
 エオリアは適当にエースの話を受け流しつつテーブルに大皿を置き、小皿と箸も用意する。
「しかし、ここでは桜が咲けば向日葵も咲く。その足元には百合と鈴蘭が彩って水仙に竜胆がこんなにも美しく咲いている」
 エースの植物話はまだ終わらない。
「……そうですか」
 エオリアはこれまた流しながら用意したコップに飲み物を注いでいく。
「このヒマラヤノアオイケシが花開くなんて簡単には出来ない事なんだぞ。この素晴らしさが……」
 エースは一通りの熱弁を終えてエオリアの方に振り返るが、エオリアは小皿に巻き寿司を盛っていて聞いている様子は皆無。
「とりあえず、食べてみて下さい」
 エオリアは巻き寿司を盛った小皿と箸をエースに渡した。
「……あぁ」
 エースは受け取り、試食を開始する。
「美味しいよ。この巻き寿司はなかなか凝っているじゃないか」
 恵方巻の感想を言ってからエースは花模様の巻き寿司に目を向けた。薔薇に紫陽花に紅葉にパンジーなど様々な花を刻んだ巻き寿司があった。『調理』を持つエオリアの料理はどれも現実同様美味である。
「どうですか。見て楽しめる物を作ってみたんですが」
 エオリアは飲み物をエースに渡しながら言った。

 その時、
「あら、花の模様なんて素敵じゃない」
「賑やかだね」
 吹雪の夢からやって来たフランソワとオデットが現れた。
「良かったら食べて行きませんか」
「この子達の美しい姿も見て行ってくれ」
 エオリアとエースは快くオデット達を歓迎した。エースは夢でも女性への挨拶は忘れず、オデットに薔薇を一輪手渡していた。

「あら、薔薇の模様ね。食べるのがもったいないわ」
 フランソワは薔薇が刻まれた巻き寿司に浮かれていた。
「美味しいよ。そうだ、ヒスミさんとキスミさんを見かけなかった?」
 オデットは鉄火巻きを食べた後、双子について訊ねた。
「……また何かやらかしたんですか?」
 エオリアはオデット達に事情を訊ね、オデットは自分達が遭遇した事、吹雪の伝言などを話した。
「相変わらず懲りないね。でも今回ぐらいは大目に見てあげてもいいんじゃないかな。良い事もしているし。まぁ、捕まえるというなら少しは協力するけど」
 事情を全て聞き終えたエースは懲りない二人にため息を洩らすも今回は優しい。やはり植物天国の効果は絶大だ。

 噂をすれば影。
「おっ、うまそうな恵方巻に花の模様か」
「すげぇ、花ばっかじゃん」
 双子が現れた。ヒスミはエオリアの巻き寿司をキスミは植物天国に目を向けた。ちょうど賑やかな演奏を終えたところだ。
「どうですか?」
 エオリアは双子のために小皿に巻き寿司を載せて渡した。

「うまいぞ」
「もう一つ」
 エオリアから小皿を受け取るなりあっという間に平らげる双子。
「悪戯をしていると聞いたけど」
 さり気なく双子の悪戯を取り上げるエース。
「!!」
 エースの言葉に喉を詰まらせる双子。
「大丈夫ですか」
 エオリアが急いで双子に飲み物を手渡した。
「……じゃ、俺達行くから」
「それじゃ」
 喉を潤した後、嫌な予感を感じた双子は出て行こうとする。エース達に恐い目に遭わされた事があるので速やかに離れようと考えているようだ。
「あっ、ヒスミさん、キスミさん!」
 オデットが逃げる二人を止めようとするが、二人の足は止まらない。
「本当に逃げ足は速いな」
 エースが『エバーグリーン』で近くのツタを自在に操り、双子を捕らえようと追いかける。

「げっ、キスミ、行くぞ!」
「おう!」
 双子は慌てた様子でツタに捕まる前に姿を消した。

「私達も行くね。とても楽しかったよ。ありがとう」
「素敵だったわ」
 オデット達はエース達に礼を言って別の夢に向かった。他の人の夢を楽しむついでに顔見知りである吹雪の頼みを達成するために。
「夢では現実のように簡単には捕まえられませんね」
 エオリアは双子が消えた方に目を向けた。もし現実であれば、とっくに双子は捕獲済みなのだが。
「そうだね。せっかくだからこの子達を成長させてもっと華やかにしてみようか」
 エースは意識を双子から花達に向けていた。『エバーグリーン』を使い、植物達の成長を促進し、もっと華やかな世界にしようと考えている。
「……エース、魔法だけはやめて下さい。絶対に現実の方にも影響が出てしまうはずですから」
 エオリアはエースの発言に即止めようとする。なぜなら睡眠中のエースは賑やかなので。

 しかし、植物の事で頭がいっぱいのエースにエオリアの声は届かなかった。植物達はエースの『エバーグリーン』で美しく花開き、一層世界が色鮮やかになった。

「ほら、どの子も綺麗じゃないか」
 エースは満足と嬉しさが混じった声でにエオリアに言った。
「こんな事をして、もし寝室に幾つか置いてある植物に寝ぼけて魔法を使ってたらどうするんですか。どこかのお城みたいな大惨事ですよ!」
 エオリアの気掛かりは目覚めた時の事だ。植物で広間を密林化したとある最凶の古城を思い出していた。あの時の後片付けは本当に大変だったのに新年早々の仕事が片付けかと思うと怒らずにはいられない。
「ははは、俺に限ってそんな事は有り得ないさ」
 エースはさらりとエオリアの危惧を流し、心ゆくまで植物達とお喋りをしていた。
「……はぁ、寝室が密林に」
 エオリアはため息をつきながら植物と会話するエースを見守っていた。
 この後、エオリアの危惧は現実になり、寝室の後片付けに忙しくするはめになった。