校長室
悪戯双子のお年玉?
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「……これが夢札。今回は夢が実体化して大変な事になるとかじゃないみたいだし。今回は説教は無しで終わるかな。何よりきちんとした保証付きだし」 清泉 北都(いずみ・ほくと)は念入りに夢札の裏書きを確認した後、使った。 「……これは」 北都は夢に入るなり言葉を失った。広がるのは草原でのんびりと過ごすアルパカや犬猫、ウサギ、羊などのもふもふ動物の姿ばかり。 「……」 北都は近くで和んでいる犬にそっと手を伸ばした。北都は動物が好きなのだが、逃げられる事が怖くて現実ではあまり近付かないようにしている。動物から近付くのは別だが。 「……人懐こい」 北都の手は犬の頭をわしわしと撫でた。犬は逃げず、嬉しそうに尻尾を振っていた。 「……ん?」 犬をもふっていた時、足元に別のもふもふ感を感じ、確認すると小さなウサギが体をこすりつけていた。 「……これはあの二人にお礼を言わないといけないね。いつもこうだったら株も上がるのに」 珍しく双子に感謝しながら近寄って来たウサギを抱っこした。 これからもふもふを楽しもうとした時、双子を追跡するエリザベート達とザカコが現れた。事情を聞いた後、自分の夢にはいないが白銀の夢にいるかもしれないという事で三人と共に白銀の夢に行く事に。北都自身、白銀の夢に興味があったり。 北都が自分の夢を本格的に楽しむ事が出来たのは白銀の夢を楽しんだ後だった。 「こんな変なアイテムを作りやがって、あの双子は……まぁ、今回はしっかりした保証もあるしトラブルが起きなければ問題無いか。よし、ちょっと試してみるか」 双子をよく知る白銀 アキラ(しろがね・あきら)は少々呆れ気味に夢札の裏書きにため息をついた後、夢札を使った。 「一面、岩だらけだな……何かあるぞ」 白銀は火山と岩だらけの景色を一通り見渡した後、大量の肉がいくつもの大皿に並べられている事に気付いた。肉の種類も様々でありふれた肉から架空巨大生物の肉の輪切りまであった。その横にはあらゆる種類の焼肉のタレが揃い、肉を焼けるように焚き火まである。 「……さすが夢だ。用意がいいな。タレもいろいろある。というか、何だこの肉」 白銀は肉の種類を確かめた時、とある架空巨大生物の肉に目を留めた。 「……色がおかしいよな。まぁ、あるという事は食えるって事だよな。夢だし、架空生物の肉でもいいか」 肉は、食欲を減退させるほど不気味な青紫色。しかし、白銀は気にしない。ここは夢の中、白銀の思い通りに出来る。食べられると思えば何でも食べる事が出来る。 「この焼ける匂いが堪らないぜー」 白銀は不気味色の肉をいくつも串に刺し、焚き火で豪快にあぶる。それはまるで初めて火を覚え獣を狩っていた時代を思い起こさせる光景。 あぶってしばらく、 「何だこの匂い」 見た目とは裏腹に食欲をそそる匂いが白銀の鼻を刺激した。 「やっぱり、肉だよな」 白銀は焼き上がった肉に豪快にかぶりついた。狼の獣人だけに肉が好きでこの通り満足な様子。もちろん人が食べる物も食べるが。 白銀の至福の時、 「うまそうな匂いじゃん」 「すげぇな」 双子が現れた。電気羊の夢から逃げて来たところだ。 「おまえらも食って行くか?」 白銀が食べるのを中断して訊ねた。 「当然!」 「その肉、何の肉だよ?」 ヒスミは即答し、キスミは白銀が頬張っていた不気味色の肉に眉を寄せた。 「さぁ、そんな事関係ねぇだろ。なかなかうまいし」 白銀は適当に答え、がっつりと肉を平らげてから言った。 「まぁ、夢だしな」 ヒスミも白銀と同じように肉の正体については気にしない。 「オレ、このタレがいいな」 キスミは様々なタレを味見して品定めをした結果、どす黒い液体を選んだ。 そして、三人で火を囲みながら 「……おまえらもいつもこう大人しくしてりゃ、怒られる事もないのにな」 白銀は肉を食べながら双子に言った。 「……そ、それは……俺達はただ、なぁ、キスミ?」 「そうそう、面白いのが一番だって。というか、この肉、うまいな」 美味しく肉を食べていた双子の挙動が少しおかしくなる。 「……また、何かしてるのか? 他人の夢を引っかき回したり」 白銀は双子の様子を見逃す事なく軽く問い詰めた。 「……」 口を閉ざす双子。白銀にはそれで十分。 「おまえら、本当に懲りねぇな。まぁ、今回オレは満足だから怒りはしねぇけど。他の奴らには謝っておいた方がいいんじゃねぇか?」 白銀は呆れたように言い、肉を食べる。 「……今回は迷惑を掛けてるみんなに日頃の感謝を込めてるつもりで……」 「……謝ると言ってもなぁ。少し見て回っているだけだし……ヒスミ、行くぞ」 双子は白銀から顔を逸らしながらしどろもどろに弁解をした後、早々に消えた。 「……あいつら」 白銀はため息をつきながら双子を見送った。別の人が追っているはずなので今回は追わなかった。 双子が消えてすぐ 「美味しそうですねぇ」 「豪快じゃな」 電気羊の夢からやって来たエリザベートとアーデルハイトが登場。 「凄い肉の量ですね。正体不明の物もありますし」 とザカコ。 「……肉ばっかりだねぇ」 エリザベート達を連れて来た北都は肉ばかりの大皿を眺めていた。 「せっかくだから食って行くか?」 白銀は大量の肉を楽しそうに見ているエリザベート達に声をかけた。 「食べるですぅ」 エリザベートは即答し、肉とタレを選び、白銀に焼いて貰う。 「……食べてみたらどうですか?」 ザカコは肉を食べるエリザベートを眺めているアーデルハイトに言葉をかけた。 「うむ、そうじゃな。少々夢を楽しんでも良かろう。では、これにしようか」 アーデルハイトはザカコの言葉にうなずき、適当な肉を選んだ。 ザカコは手早く肉をあぶり、食べやすい温度まで冷ましてからアーデルハイトに手渡した。 「……どうぞ」 「おぉ、すまんな。ふむ、なかなかの味じゃな」 アーデルハイトはザカコから礼を言いながら肉を受け取り、美味しそうに頬張った。 「……美味しいですよ〜」 美味しそうに頬張るエリザベート。 「どんどん食って大きくなれよ」 白銀は肉を食べるエリザベートを満足そうに見守っていた。 「……ところで双子を捜しているんですが、見かけませんでしたか?」 ザカコが皆の代表で白銀に訪問の目的を訊ねた。 「もしかしたらと思って連れて来たんだけど」 北都がザカコの言葉に付け足した。 「……あいつらやっぱりやらかしてたのか」 白銀はため息をつきながらぼやいた。 その時、 「お邪魔するのだ」 「双子を捜しているんだが、知らないか」 「おや、大人数だね」 薫、孝高、孝明が現れた。 「おいおい、賑やかだな」 白銀は立て続けの来訪に苦笑した。 「それでおるのか?」 アーデルハイトは登場した薫達に視線を向けた後、白銀に問いただした。 「いや、さっき来て消えた。オレが問い詰めた途端」 白銀は肩をすくめながら答えた。 「逃げ足だけは速いからねぇ」 馴染みの展開に呆れる北都。 「……困ったのだ」 薫は困り顔でため息を吐き、吹雪達の事を知らないエリザベート達とザカコに自分達の計画を話し、仕置き人に加わって貰う事に。 「確かに困るね。現実なら見当が付くけど、夢だからねぇ」 北都は薫に同情した。 「だが、夢だからこそいい面もある」 孝明は口元に笑みを浮かべながら言った。 「……確かにねぇ」 孝明が何を考えているのか察した北都はうなずいた。好き勝手に出来るのは双子だけはなくこちらもである。つまりは現実以上の地獄が待っているという事。 「いないなら用は無いな。薫、孝高、別の夢を捜しに行こうか」 「分かったのだ。またなのだ」 「何かあったら頼む」 孝明は薫と孝高を促し、別れの挨拶も早々に双子を追って行った。 「美味しかったですぅ。私達も行くですよ〜」 肉を食べ終わったエリザベートはようやく動き出す。 「そうじゃな。ザカコよ、すまんな。おまえも落ち着いて初夢を見たかったろうに」 アーデルハイトはエリザベートにうなずいてから行動を共にしているザカコに申し訳なさそうに言った。 「いえ、こういう賑やかな初夢もいいですよ」 ザカコは笑顔で言った。ザカコにとって今回は本物のアーデルハイトと一緒なので最高の初夢である。エリザベート達とザカコは双子追跡を再開した。 来訪者が一気に減り、白銀と北都だけになった。 「一気に静かになったな」 白銀は周囲を見回した。 「そうだねぇ。せっかくだから僕も何か食べようかな。さっきまで動物と遊んでいたけど、夢の中だし架空生物の肉なら問題無いかな」 北都は大皿に載っている肉や様々な種類のタレを確認しながら食べる事に興味津々。 選び抜いた肉を串刺しにして火であぶる。 北都は心なしか楽しげに変色し、食欲をそそる煙を出す肉を眺めていた。 そして 「……これが漫画肉」 出来上がった肉をいつもは見せない満面な笑みで見た後、がぶりとかぶりついた。 こうして白銀と北都は心ゆくまで肉を食べていた。存分に食事を楽しんでから北都はもふもふ王国に帰還した。