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リアクション
★第二話「裏での弘法は筆を選ばず……?」★
※こんな言葉はありませんので、テストに書かないように!
◆不穏な輝き
「みなさん! そろそろスタジオへ移動してください」
スタッフが声を上げ、皆が動物とのふれあいを惜しみつつ、部屋を出ていく。
そして招待客が外へと出て言った後、動物たちを順にスタジオへと運ぶため、籠や檻を準備していく。
「おーい。こっちの檻運ぶの手伝ってくれ」
「あ、はい」
手伝いを名乗り出た笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)もその1人である。大きな檻を運ぶため、檻へと近寄り、何かを見つけて「ちょっと待って」と持ち上げようとしたスタッフに声をかける。
「どうした?」
「んっと」
紅鵡は檻の中へと手を入れ、それを取り出した。鉄格子の隙間に挟まっていた銀色の、針を。
先ほど、照明に反射したのが見えたのだ。
「おいおい、こりゃ」
スタッフが慌てて他の檻も確認する。念入りに調べた結果、他の檻にはなく、安どしたのだが。
その後、衣装係のハリが一本ないことが判明し、衣裳係が針を落としたと言うことになった。
怒られている衣装のスタッフを見ながら、紅鵡は本当にそうなのかと首をかしげる。
今回の番組をするにあたって、動物たちの安全についてはかなり徹底されている。動物たちの近くで針仕事は禁止されていた。なのに針が落ちていた。
(念のため、知らせとこうかな)
紅鵡はそう判断し、警備を担当している仲間たちへと伝えることにした。
◆
「針が? ……了解。――うん、まぁいつも通りなら妨害が入らない訳がないよな。あの親子の場合」
報せを受けて、驚くよりもむしろ納得していたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。今までの経緯を考えると当然だろうと思った。
やれやれと息を吐きだしながら、物陰に潜んでいる。
しかしただ突っ立っているわけではなく、スタジオに張り巡らせた不可視の糸で索敵をしていた。
中々敵らしい姿は捕捉できないが、糸から「ぶぅん」という虫の羽音らしい音が聞こえ、唯斗は顔を少ししかめた。
もちろんただの虫ならばなんてことはないのだが。
(この音からして、かなり大きいな……それと)
さらに周囲を探ってみれば、数人が倒れているのが分かった。そして分かると同時に足を踏み出した唯斗だったが、視界を通り過ぎた人影に違和感を覚え、足の方向を変えた。
「まったく。ほんと、あの親子の周囲は騒がしい」
その人物は自然とスタッフの中に紛れ込んでいたが、一瞬。ほんの一瞬だけ手の一部が反射で輝いた。先ほど聞いた針のことを思いだす。
どこかへ向かおうとしている後を追いかけながら、虫の方は他の仲間へ頼み、男の動向を探る。まだ怪しいだけで証拠はない。それにここで倒してしまえばおおごとになり、撮影が止まってしまう可能性もある。
辛抱強く待ち、唯斗は男がジヴォートの楽屋のドアに針を仕込むのをはっきりと目でとらえ、風術を発動させた。男の身体が浮き上がった。
張った糸の間を男がふよふよと飛び交う。唯斗の意思どおりに。
◆
「了解。そちらへは俺たちが向かうであります」
唯斗からテレパシーで報せを受けた佐野 和輝(さの・かずき)は、アニス・パラス(あにす・ぱらす)と共に現場へと向かっていた。
すると、報告通り数名が倒れているのを発見した。
「おいっ大丈夫か?」
「ぅ、あ」
怪我と言う怪我はなく、息もしている。命に別条はなさそうだが、どうやら軽い麻痺状態で動けないらしい。回復のすべを持つ仲間へとテレパシーで応援を頼む。
首筋に何かに刺されたような跡があった。報告にあった虫のせいかもしれない。周囲にそれらしい姿はない。
「アニス!」
「うん。皆、お願い。教えて欲しいことがあるの」
アニスが周辺にいた幽霊に協力を頼み、その場で起きたこと。そして虫の行方を教えてもらう。
応援に来てくれた仲間に倒れたスタッフたちを頼み、すぐさま虫を追いかける。アニスが走りながら殺気を感知し、さらに速度を上げる。
「……いた! 和輝!」
「ああ、分かってる」
見つけた虫は、蚊のような姿をしていたが、人の顔ほどもある大きなもの。明らかに異常だ。
そしてその時、たまたま近くを通りかかった女性がそれをみて悲鳴を上げた。虫は悲鳴に反応するようにそちらへと方向を変えて猛スピードで迫る。和輝たちも全力だが、銃の届く距離ではない。このままでは間にあわないだろう。
そこで和輝は、女性が持っていた携帯電話を操り、アラームを鳴らした。虫がぴくりと反応して一瞬だけ動きを止めた。
一瞬で距離を詰めた和輝が銃を手にし、躊躇なく撃ち抜いた。銃弾は見事に虫を貫き、壁へとめり込んだ。
「ふぅ」
床に落ちて動きを止めた虫にホッと一息。
「わわっ」
したのもつかの間、ドシンと建物が揺れる。続いて「ぱおーん」という鳴き声が聞こえてくる。再び顔を引き締めてそちらへと向かえば、なんということか。パラミタゾウが暴れている。
事情を聴くと、どうやらパラミタゾウも同じくあの虫に刺されたらしく、混乱して暴れているようだ。
「僕がなんとか鎮めるから、君たちは周りの子たちを守ってもらって良いかい?」
「え? あ、ああ」
天音が和輝にそう言って、パラミタゾウへと向かっていく。ドブーツの付き添いとしてスタジオに来ていてたまたま現場に居合わせたらしい。
人見知りなアニスだが、周囲の動物たちを守るべく動きだす。
「アニスはあちら側の動物たちを頼む」
「分かったよ。皆、大丈夫だからね〜」
発見が早かったことと対処が良かったこともあり、すぐに収まった。だがドブーツが事態が収まったことに、隣にいたブルーズを睨むがブルーズは何食わぬ顔で
「怪我なく終わってよかったよがんた」
とパートナーを出迎えた。ドブーツも人前で問い詰めることができず、楽屋へと向かった。
◆
事態が収まったのを見届けていた小さな影があった。
「ま、今回はこんなところかのぉ」
辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。
実はあの虫は彼女が放った毒虫であった。ドブーツからの依頼を受け、番組の妨害をしていたのだ。
妨害が依頼内容だったため、毒虫といえど死ぬような毒ではない。数時間しびれ、痺れが取れた後は痒さが残る程度だ。
「こちらに引きつけることは成功じゃな」
自分の役目は終えた。後はここから脱出するだけ。
「悪く思うなよ。これも仕事じゃ」
小さな影は、周囲に溶け込むように姿を消した。
コンコン。
「ん? 開いてるぞ?」
「失礼します」
ジヴォートが楽屋で寛いでいると、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)がやってきた。首からはスタッフ証を下げている。
「少し予定が変わりまして、リハーサルを早めに行うことになりました。スタジオに来てください」
「え? そうなのか……でも連絡はきてな」
「そうですか? でも私も呼びに行くよう言われただけなので」
ジヴォートは首をかしげつつ、早めに行く分はいいかと腰を上げた。するとファンドラがジヴォートの服を見て、「その格好で出るんですか?」と問いかけた。
「駄目か?」
「はい……途中の衣裳部屋によって他の服を探しましょう」
そして部屋を出る。
「社長、そろそろリハーサルを……あれ?」
数分後、ジヴォートを迎えに来たスタッフがそこに誰もいないことに首をかしげていた。
ファンドラに連れられたジヴォートはというと、あれこれと着替えさせられた後、時間がないからと結局最初の衣装に戻って建物内をうろうろしていた。
「ここさっきも通らなかったか?」
「……すみません。まだ入り立てで」
「ああ。それで見たことない顔だったのか」
「ええ」
顔を覚えていたことにファンドラは少しひやっとしたが、顔には全く出さない。そしてそれをまったく疑わないジヴォートは、やはりイキモの息子なのだろう。
そうしてファンドラにあちこち連れまわされたジヴォートは、ろくにリハーサルできぬまま、本番へと突入することになったのだった。
「どこに行ってたんですか」
「え? このままの衣装じゃだめだって言われて」
「誰にですか?」
「ほらここに……あれ? どこ行ったんだ? 迷子になったのか?」
スタッフに発見された時には、ファンドラの姿はどこにもなかった。
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