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【若社長奮闘記】動物とゆる族とギフトと好敵手、の巻

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【若社長奮闘記】動物とゆる族とギフトと好敵手、の巻

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★第三話「可愛いは正義!」★


 ジヴォートがあちこちをさまよい歩いている頃、スタジオでは着々と準備が進んでいた。
「こんな可愛いアシスタントが他にいるはずがない!」
 大きな声でスタッフへアピールしているのは十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)だ。……別に、自分自身を可愛い、と言っているわけではない。宵一はきりっとした顔をしながら、パートナーのリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)をスタッフへと示す。
 こてんと首をかしげてスタッフを見上げるもふもふとしたその獣……花妖精は、宵一が自慢するだけあってなんとも可愛らしい。スタッフも一瞬目がなごむも、ハッいけないいけないと首を横に振って再び宵一に向き直る。
「アシスタント……すでに2名いらっしゃるんですよねぇ……う〜ん」
「リイムは愛らしいだけではない。このもふもふ具合も最高で……」
 熱烈に高所をう続ける宵一の隣で、リイムは興味深そうにスタジオを眺める。大きなカメラやセット、動きまわっている人々や観客席で客に反応の仕方などをレクチャーしている様子など、あまり見ることの無い舞台裏がそこにはある。
 とはいえ、動物たちが待機できる場所(中に入って触れるのも可)もあるので、普通の番組とは少々異なるかもしれないが。

「わー、動物がいっぱいー!
 もふもふもふもふもふもふもふもふ」
 そんな中響いたスタッフとは異なる声に、リイムは目をそちらへ向けた。ふかふかの毛並みに顔をうもらせていたのはセルマ・アリス(せるま・ありす)だ。存分にもふれると聞いてやってきたのだ。
「もふもふも……ふ?」
「なんでふか?」
 もふっていたセルマとリイムの目が合う。セルマの目が輝く。
「可愛い……も、もふもふさせてもらってもいいかな?」
「構わないでふよ」
「ありがとう。わぁ、すごい。もふもふ」
 笑顔でモフるセルマに、宵一はそうだろうそうだろう、と頷き、どこか誇らしげだ。もふられているリイム本人も、セルマが喜んでいるのを感じれば悪い気はしない。
「ってあれ? ミリィ? メリー? レーレ?」
「どうしたんでふか?」
「うん。一緒に来ていた子たちがいなくて」
 セルマは3人の特徴を宵一とリイムに話して尋ねる。
「……いや。さっきこちらに来た時からいなかったな」
「そうでふね。僕がセルマさんを見たときには、もう1人だったでふ」
「そっか……あ、もふもふさせてくれてありがとう。じゃあ、またどこかで……おーいミリィ! メリー、レーレ! どこだー?」
 はぐれたパートナーを探しに行ったセルマへと手を振っていると、今度は怒声が聞こえた。

「まったく。もう少し自覚を持て。お前は社長で、番組の司会者なんだぞ。ちゃんと成功させたいんだろ?」
「う。すまない」
 怒られているのはジヴォートであり、怒っているのはエドワード・リード(えどわーど・りーど)だ。リハーサルに遅れてきたジヴォートを周囲のスタッフがあまり怒っていないのを見て、代わりに怒っていた。
 何よりも、エドワード自身がこの番組を成功させてやりたいと強く思っていたから。

(親から受けた任務をこなせなければ、名誉だけでなく心も傷つく。
 私は父から、ねぎらいの言葉すらかけて貰えなかったからな。
 彼と親の絆を壊すような真似はできない)

「残りの時間では全部通してのリハーサルはできないな。……仕方ない。カンペを出すから、その指示に従うようにな。
 くれぐれもカメラの位置には注意しろ。後頭部をさらしても仕方ないからな」
「分かった」
 反省して、まっすぐに顔を上げたジヴォートにエドワードも頷きを返す。
「父に任された、初めての番組司会なのだろう? 失敗は避けなければな。……父のためにも」
「……ああ。ありがとう」
 礼を言うジヴォートに軽く頷きを返したエドワードは、機材に触れる見学者を見つけてそちらへ向かった。
「見学はかまわないが、触れる時はスタッフに声をかけてくれ」
「あ、すみません。えっと、その、音響さんの仕事に興味があって」
「分かった。少し待ってくれ。呼んでくる」
 悪意があったわけではないらしい見学者を軽くたしなめた後、要望通り音響を呼びに行く。成功させるためにも、エドワードはそうした対応を率先して引き受けていた。
 
 宵一がジヴォートの元へと向かう。直接交渉を、と思ったのだ。
「アシスタント? それは助かるな。たくさんいた方が俺も心強いし」
「ふむ……コーナー毎にアシスタントが変わっても面白いかもしれないな」
 ということで、リイムのアシスタントが決まったのだった。ジヴォートがリイムの頭を撫でる。
「よろしくな、リイム」
「こちらこそよろしくでふ!」
 宵一はその決定に満足げに頷きつつ、少し思った。
(俺……賞金稼ぎよりもリイムのプロデューサーの方があっているのかな)
 彼が転職する日も近い……のかもしれない。



 さて場面は変わり、セルマが探しているパートナーの1人。ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)は、いなくなったセルマに「しょうがないな」と呟きつつ、牧場の精 メリシェル(ぼくじょうのせい・めりしぇる)レーレ・スターリング(れーれ・すたーりんぐ)に声をかけた。
「ルーマは平常運転みたいだから自由にさせておこうかー。
 メリーとレーレは、はぐれないようにワタシと一緒に居てね!」
「めー」
「くー」
 元気よく返事を返すメリシェルとレーレだが、小柄な2人は大勢がひしめくスタジオ内ではすぐに見失ってしまいそうだった。ミリィは少し考え込み、そうだっと手を叩く。
「はぐれないように肩車しちゃおうか。メリーがワタシの肩に乗って、レーレはメリーの頭の上ね!
 そうそう。上手上手」
 クマとヒツジと鳥の3段重ねの完成である! 何これ可愛い!
「よーし合体完了!
 ちょっと目立つかもしれないけど今日はこれで行動だよ! スタジオに迷惑かけちゃ駄目だからそれには全力で注意だよ」
「めー!」
「くー!」
 ミリィの声に、了解! と言わんばかりに声を上げるメリシェルとレーレ。
「他の出演動物さん達もいいけど、許可を取って機材とか見せてもらいたいねー。
 メリーとレーレは何を見てみたい?」
「めーめー」
「くーく!」
 言葉がしゃべれないメリシェルとレーレだが、必死にカメラの方を示す。
「カメラだね。うん。ワタシも見て見たいし、行こうか」
 3段重ねのまま行進する微笑ましい3人を、密かにカメラが追いかけていた。これは後々許可をもらって、番組でも使われることになる。
「カメラ、見させてもらってもいい?」
「ん? ああ、構わないよ。良かったら、レンズ覗いてみるかい?」
「めめー!」
「くーう」
「わーい、ありがとう」
 喜んで覗かせてもらう。同時に3人共は無理なので、順番に見ていく。カメラ越しに見た世界は、どこか違うように見える。
「……んっと、このくらいで見える?」
「くー♪(ようやく見えました! これで満足です♪)」
「めーめ(良かったね、レーレ)」
「くー!(はいですわ) くーくー!(さあ、3人(?)のブレーメンの音楽隊(違)で今度はどこへ向かいしょうか?)」
「そうだねー。次はどうしようかー」
 3人(?)の姿は、本番前のピリピリしたスタジオの空気を和ませた。



「わぁっふふ、見てください三月ちゃん、海くん。可愛らしいですね」
「ほんとだ。仲が良いね」
「……ブレーメン?」
 歓声を上げた杜守 柚(ともり・ゆず)の声にそちらへ目をやった杜守 三月(ともり・みつき)高円寺 海(こうえんじ・かい)は、各々の感想を述べつつ頬を緩めた。
「ん? どうかしましたか?」
 微笑んでいた柚のスカートがくいと引っ張られた。見下ろすと犬がうるうるとした目で柚を見ていた。それはまるでかまって、と言っているようで
「も、もふもふしてもいいですか?」
「わん!」
「よかったね、柚。良いってさ」
「ありがとうございます! わわっ」
 抱きつき、柔らかい毛並みに顔をうずめた。なんとも幸せそうな柚に、三月がカメラを向けた。最近写真にはまっているのだ。もちろん、写真を撮るだけでなく自身ももふもふを堪能する。
 今も近寄って来たパラミタアルパカのふかふか毛並みに頬を緩めている。
「海くんももふもふしてますか?」
「……その言い方はやめろ」
「いいじゃないか。もふもふ」
「三月……」
「ははは。でも楽しいからって、間違って柚ももふらないようにね〜。小さくて見えにくいけど」
「なっ」
「そっそんなに小さくないです!」
 からかいの声に柚はとっさに反論するが、はたと周りを見回すと、アルパカやユニコーン、喋る猿、など柚よりも大きい動物たちも多数いて、たしかに大きい動物に囲まれたら見えなくなりそうな気がした。

(もしもの時は助けてもらいましょう)
「三月ちゃんも狼の姿になると毛並みが良くてもふもふしたくなるんですけど、最近狼になってくれないし……その分、ここでいっぱいもふもふして帰るつもりですっ!」
(それに海くんも一緒だともっと嬉しくなって幸せ気分です)

 ふふっと笑って海を見る柚。視線の先では、海が飛びかかって来た猫を受け止めて笑っていた。その瞬間、ぱしゃっとライトがともる。
(もふもふしている海くん、すっごく可愛いです。……三月ちゃんに写真を後で貰おうっと)

「一度動物たちを入れ替えます。見学者の方は観客席へ移動してください」
「はい。三月ちゃん、海くん。行きましょうか」

 スタジオの雰囲気に少しずつ慣れさせるのと、疲れないようにするため、動物たちを入れ替える作業が始まった。



『つーわけで、色々問題おきはじめてるみてーだ』
「分かった」
 洋孝からの連絡を受け、みとに無言で合図をおくった。みとも静かに頷き、ぐらりとかしいだセットをサイコキネシスで受け止める。その間に洋がセットへと駆け寄り、釘が緩いことを近くのスタッフに指摘。きちんと釘が打たれるのを確認して、観客席へと戻ってくる。
「予想通りと言えば予想通りだが」
 セットの崩落や乱入者などは想定内だ。しかし
「何も起きないことにこしたことはないのですが」
「まったくだ」
 2人は観客席に普通の客としてまぎれつつ、スタジオ全体へと目を配り続けた。