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リアクション
★第四話「健全な番組です!」★
◆
「思っていたよりも広いな」
「たくさんの動物を出演させるから、広めの空間を用意したんだろう」
スタジオを見回したグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の言葉に、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)がそう返した。喜んでいるグラキエスに対し、ベルクは胃薬を握りしめる。
今回は……今回もというべきか……フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がジヴォートの社長就任&テレビ番組の視界を務めることを聞きつけ、手伝いに行こう! と弟のように思っているグラキエスを誘ったのだった。
この世間知らずトリオ(フレ+グラ+ジヴォ)がそろった時、どうなったのかを知っているベルクの口からため息が漏れ出る。
「グラキエス。とにかくスティリアたちから目を離さないようにな」
「ああ。スティリアたちに何かがあっては大変だ」
「……そうじゃなくて」
グラキエスが連れてきたのはドラゴンにヒュドラ。本来は人慣れしない種族。彼らが暴走しないように、というベルクの心配も、グラキエスには通じない。
「まあまあベルク殿。落ち着いて」
「って言われてもなぁ」
なだめの声を上げたゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は、動物たちを見て微笑んでいるグラキエスを、まるで親のような柔らかい目で見つめていた。
「不安も分からぬでもないが、ここは譲って貰いたい。
グラキエスには記憶を失った分、いやそれ以上に様々な経験を積んで欲しいのだ。
貴公らとならばそれは良き思い出ともなるだろう」
ベルクもそこまで言われてしまえば、強く反論できない。分かった、と頷く。
「ここが『すたじお』ですか。さまざまな生き物がいますね。あ、ポチ、グラキエスさん。あちらにジヴォートさんがおられます。ご挨拶に行きましょう」
フレンディスとグラキエスが動けば、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)とアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)も動く。
「へぇ、あれがジヴォちゃんさね?」
「マリナ姉」
「ベルちゃんも元気出して。ほら、皆で挨拶いくさね」
明るいマリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)に背中を叩かれ、ベルクも少し気持ちを浮上させた。
「ジヴォードさん。お頭様になられたようで、おめでとうございます」
「え? お頭様?」
「……社長のことだ」
「なるほど。ありがとう……っつっても、分からないことだらけだけどな」
「初めての社長に司会。大変だな。疲れていないか?」
「大丈夫だ。ありがとな」
「僕が犬の頂点に立つ為の布石として、番組を利用してあげるのですよ。べ、別にジヴォードさんの為ではありませんからね?
ご主人様のために、優秀なハイテク忍犬の愛くるしい姿を世間の皆様にアピールし、お茶の間に癒やしを差し上げるだけですからっ? エロ吸血鬼は僕のおまけです」
「ポチも出てくれるのか。それは心強いなぁ」
「……(俺は嫌な予感しかしない)」
「っと、そっちははじめまして、か?」
「はじめまして、ジヴォちゃん。あたしはマリナレーゼ。よろしくさね」
「ちゃんっ? あ、ああ。よろしく」
ジヴォートは慣れないちゃんづけに驚きつつ、全員と挨拶を交わす。
するとゴルガイスがそっと傍により、魔力に抵抗がある動物がいないかと尋ねる。ジヴォートは首をかしげたが、グラキエスの周囲に動物が近寄らないのと、その寂しげな顔になんとなく察する。
「今日ここに来ているマリモリスはある魔女から預かっててさ。普段から魔力に接してるから抵抗力は高いはず。
あとはパラミタリビンノとかな。大きなカメなんだけど、いろんなことに鈍いから……」
「すまないな。助かる」
「いや、俺の方こそ……楽しんでいってくれよな」
「ああ。貴公もがんばってくれ」
「おう!」
◆
「今回は初回ということで、スペシャル特番としてお届けするぜ」
「……番組名と自分の名前を忘れています、以上」
「おおっ? と」
「ジヴォート君とアニマル王国。進行はジヴォート・ノスキーダ。アシスタントその1として、私エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が務めさせていただきます。以上」
「……アシスタントは途中で変わるから、見逃すなよ」
いきなりぱにくったジヴォートを、着ぐるみを見につけたエリスがフォローし、その間にエドワードがカンペで指示を出す。
「まずはゲスト紹介だ。ゆる族のモップス・ベアー(もっぷす・べあー)!」
ぱちぱちぱち、と指示通りに拍手が鳴り、モップスの姿が映像に移される。
「ありがとうなんだな。今日はよろしく」
「よろしく頼む。
そしてギフトから、普段は中継基地にいる猿型ギフト、サ・ルルー!」
今度は小さなサルの姿がディスプレイに映し出され、観客席から拍手と「可愛い!」という悲鳴が上がった。モップスの時には全くなかったそれに、「別にいいんだな。どうせボクはそういう役目なんだな」とやさぐれていた。
『すたじおって初めて来ました。よろしくお願いします』
「はじめまして。……俺、ギフトについてはあまり知らないから、よろしく頼むな」
『っはい! 任せてください!』
つぶらな瞳をきらきらと輝かせてサ・ルルーが頷く。
◆
様子を見ていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、苦笑気味に顔を少しゆがめた。あの猿型ギフトが引き起こした事件に巻き込まれた身としては、また何かしでかすのではと不安に駆られる。
「猿型ギフト……油断は禁物」
「というかサ・ルルーとか適当すぎねぇか?」
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が隣でそう言うと、リカインのいつもより長い髪が同意するようにうごめいた。
実はこの髪、シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)だ。細かい触手が金色をしているため、そうしてリカインの頭に乗っていると、髪の毛伸びた? というくらいにしか見えない。
「おおっ良い返事だな。心強いぜ」
『はい! 任せてください』
アストライトはそんな会話をしているジヴォートとギフトを見て、思う。
「こんな感じで事件を起こして行ってるのか、この親子は」
「そうかもしれないわね」
いつぞやのお化け屋敷の時といい、親友だと思ってた相手が実は敵だった父親といいどうにも不安のぬぐえない親子なので、今回も何かあるのではと周辺をすでに探っていた。その際、ジヴォートから懇意にしていて且つ今回の番組に関係している人がいるかどうかを尋ねている。
名前があがったのは
「ドブーツ・ライキ、ねぇ」
15の時に父が病死し、社長を継いだ少年。ワキヤの時とは違い、特別黒い噂などはないが。
「ま、油断せずに行きましょう」
「だな。あの親子だし」
その一言で皆が納得するのは、なんでだろう?
◆
スタジオの隅には、ダンボールがあった。
「…………」
もちろん、ただのダンボールなら問題はない。しかしそれからは身体が生え、そして動いている。何よりもそれで気配を消している! 怪しすぎる。
「フフフ。誰も気づいてないであります」
ほくそ笑むダンボール。もとい葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。本当に周りは気づいていないのか。気づいていないふりをしているのかは分からない。
怪しすぎる吹雪だが、別段妨害しようとしているのではなく、むしろジヴォートの護衛のために待機していた。
激しく何かを間違えている気がする吹雪に、頭を押さえるのはコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)だ。もういっそのこと他人のふりをしたい。しかし本当に他人のふりをしたとしても、結局巻き込まれる気もして。それなら最初から……いや、どちらもごめんこうむりたいが。
「我をもふる良い!」
「ぎゃー」
「うわーん。怖いよー」
「……なぜだ。なぜ皆逃げるのだ」
コルセアの頭痛の原因は吹雪だけではない。イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の存在も大きい。
紫の肌は少しぬべっとしていて、それがうねうねと動くわけだから、これはテレビで放送していいものかとスタッフが頭を抱えるのも無理はない。隣ではコルセアも頭を抱える。
「モザイクをかけるか? いやしかし。それは余計にアレな気も」
たしかにモザイクをかけたら余計にアレだ。え? もっとkwsk? そ、そんな。私の口からはとてもアレなので言えないよ、だってアレだもの!
「どうしろって言うの、私に」
どうにかしてくださいコルセアさん。
そんな天の叫びもむなしく(?)、吹雪さん(ダンボール)が「む?」と何かに反応した。わずかな休憩時間に台本片手に打ち合わせをしているジヴォートの後ろに、人影が。
「させないであります」
吹雪が銃を撃った。
「我は「バキュンっ」だ」
それが奇しくもイングラハムの台詞と被ってセルフピー音になるという軌跡を起こしつつ、銃弾(ゴム)は人影の額に当たり、「ぷへっ」という声と共に後ろへ倒れ込んだ。
女性だったが、手には水の入ったペットボトル。念のためにと成分を調べると、中には睡眠薬が入っていたのだった。
ちなみに、相談の結果。イングラハムの所はオールカットとなった。
当番組は子供から大人まで楽しんでいただける、健全な番組です。
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