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祓魔師たちの休息1

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祓魔師たちの休息1

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第13章 たまには休息を…モーントハナト・タウンStory1

「クスクス…今日は久しぶりに王天君お姉ちゃんと一緒にお食事するの♪」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は初めて会った思い出の場所で待つ。
「よお…」
「王天君お姉ちゃん!」
 久々に見る懐かしい顔を見つけ、ハツネは嬉しそうに駆け寄った。
「今日はね、あの料亭でお食事会なの。いっぱい頼んでいいの!」
「ククッ…よぉ!久しぶりだな、王天君」
「鍬次郎か?」
「怪我の具合はどうだ?…まあ、その様子なら怪我の方は大丈夫そうだな。今日呼んだのは他でもねェ、あの時の晩酌の約束を果たしに来たんだよ」
 不老不死を手に入れてパラミタを征服する野望を邪魔されてしまったが…。
 深手を負った時に改めて約束した晩酌のことを、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)はまだ覚えていた。
「フッ、そうだったな」
「ハツネはね、料亭の場所を覚えてるの。こっちなの」
 まるで昨日の出来事のように、鮮明に覚えているハツネは王天君を連れて行く。
「……む、久しいな、王天君」
 予約されていた個室に入ると、東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)の姿があった。
 葛葉はぺこりと会釈する。
 部屋もあの時と同じ場所だった。
 初めて会う時の会食は、この店の近くにある店舗だったのだが、予約ミスでここになってしまったのだ。
 落ち着いた静かな雰囲気とは程遠い…、座席がブランコの店だ。
「―…背、少し縮んだか?」
「オレ様たちにやられたいやつがいるな、ハツネ」
「うん、お仕置きなの!」
「……すまない、王天君、冗談だから…お嬢もやめてください…これ以上は…綿が出る!?」
 場を和ませるための精一杯のギャグのつもりだったが逆効果だった。
「やめてやってくれ、2人共」
「ちっ、鍬次郎に免じて許してやる」
「綿が散ると料理に入りそうです」
 葛葉の態度に新兵衛は、“外道め…”と心の中で呟いた。
「お酒はもう頼んでおきましたよ。僕は未成年なので、残念ながらジュースですが」
 集まってから注文するのでは、ハツネが待てない!と騒ぎそうだから気を利かせてリンゴ酒を頼んでおいた。
「あの時のハツネは子供に近かったけど、今のハツネは大人なの、お酒だっていくらでも飲めるの」
 運ばれきたボトルをハツネがグラスに注ぐ。
「俺たちの今日までの無事と…死んでった他の十天君の弔い酒だ…乾杯」
「じゃあ、乾杯なの♪」
 5人はグラスを手に、グラスを合わせてカンッと鳴らす。
「…で、王天君よォ…てめぇはこれからどうするんだよ?いつまでも俺たち悪人商会の所に居るわけにもいかねーだろ。…タダ飯食らいを何時までも置いておくわけにはいかんだろ?」
「―…鍬次郎、つまんない、話はやめてなの。…ハツネだってお姉ちゃんと遊びたいけど…でも、お姉ちゃんと一緒の方がいいの!」
 紛いものの最期だったとしても、自分の死は怖いものだと分かったし、大好きな人に会えなくって死ぬのはいやだったし、本当に王天君を失うのものいやだ。
 ハツネは掴みかかりそうな勢いで鍬次郎を睨みつける。
「オレ様はな、今の世の中に納得なんてしちゃいない。戦争なんて傍観してもどうせ起こるんだ。恐怖でもなんでも征服して、死のない世界のほうがいい。そのためなら、何人だろうとぶっ殺して掴み取ってやりたい」
「ハツネたち、とてもいいことしていたのに。理解してくれる人が他にいないの…」
「…ま、俺たちとてめぇとの契約はまだ続いてる…。悪事を為すっていうなら手伝うし、他にやりたい事があるなら面倒見てやる」
 戦力を大量に殺がれてしまったから征服はもう難しいかもしれないが、それでも何かやるというのなら手を貸してやると言う。
「その時は頼むぜ」
「―…そのお話は、終わりにしておこう?ハツネ、ずっと会いたかったの」
「寂しい思いをさせちまっていたか?オレ様もハツネにすげー会いたかったぜ」
「んー、王天君お姉ちゃんかわいーの。抱きついてなでなでしちゃうの」
「(くぅ、苦しい…。)元の小さくて可愛いハツネのほうがいいな」
「ダメなの?じゃあ、小さくなるの!」
 自分の手から逃れようとする王天君を逃がしたくないハツネは、ちぎのたくらみでかつての姿に戻る。
「えへへ、お姉ちゃん〜♪」
「元気か心配だったんだぜ」
 すりすりしていくるハツネの頭を撫でてやる。
「そうだ、お姉ちゃんにチョコなの!はい、どうぞ。頑張って作ったんだよ、ハツネ…偉い?褒めて〜♪」
 一生懸命作ってきた本命チョコを王天君に渡す。
「ありがとうな、ハツネ。…ん、美味いな。ハツネはお菓子作り上手なんだな」
「王天君お姉ちゃんに褒められちゃった♪」
「じゃあ、オレ様もご褒美だ」
「これ…作ってくれたの?嬉しいの!」
 ハツネは大事そうにぎゅっとチョコを抱きしめる。
「あぁ、ハツネのためにな。おい、鍬次郎」
「材料盗んだのかよ?」
「しねぇよ。偽名でちょっとな…」
「(見た目は上手くもなく、へたでもない感じだな。ほう、日本酒入りか…?)」
 もらったチョコはウィスキーボンボンの日本酒版だった。
 本命のハツネのほうはもちろんノンアルコールだ。
「僕にもくれるんですか、ありがたいですね。ジャムが入ってますね」
「王天君…」
「あ?葛葉に渡しただろ、分けろ」
「すみません、全部いただいてしまいました」
 その言葉に新兵衛はがっくりと肩を落とした。
「こういうものが作れるとは、初見だな」
「てめぇ……。オレ様が何も作れねぇと思ってたのかよ。料理だとか普段は作るやつがいたからな、めんどくせぇから作らなかっただけだ。…ハツネのためなら別だがな。このオレ様が作ってやったんだ、よく味わえ!」
 ハツネには一生懸命作るが、あとはついでだ!と言い放つ。
 鍬次郎は苦笑しつつも、感謝の気持ちがいっぱい込められていることを感じた。
「(…あれから…幾何かの時が流れたが…皆変わられた…。あの外道ですら丸くなったし、お嬢も…年相応の心身になられて…)」
 今は王天君の要望で少女の姿だが、本当は年相応の大人の姿だ。
「ずーっとチョコ、とっておくの♪」
「お嬢…それは……。食べるものですから、早めに…」
「ハツネがもらったチョコなの。触らないでほしいの!」
「(…いや、本質は変わってないか…)」
 怒ったハツネに耳を掴まれて振り回され、壁にぶん投げられてしまう。
「(…ただ、葛葉…彼だけが異様な変貌を遂げてしまったか…。……暴走しなければいいが…)」
 静かにジュースを飲みながら静観する葛葉に視線を向ける。
「おい、新兵衛。てめぇ、ハツネに何をした?」
「な……何もしていないが」
「ウソつくんじゃねぇ。あんなにキレてんじゃねぇかよ!」
「いや、王天君…それはお嬢が、チョコを…」
「ああ゛?このやろう…。このオレ様に、口答えするとはいい度胸だな?」
 刀を鞘に納めたまま、新兵衛の腹を突きまくる。
「わ、綿が…っ」
 鍬次郎へ視線を向けるが、彼は手酌で酒を飲んでいる。
「僕みたいに不老不死じゃないんですから。少しは抵抗するか避けたらどうですか」
「そ、そのようなことすれば、…倍返しが……っ」
 2人がかりで何十倍もの威力で返されると知っている新兵衛は抵抗出来ないのだ。
「ちっ、飲み直しだ」
「ウェイトレスの人を呼ぶの♪」
 呼び出しのボタンをハツネが押す。
「貴腐ワインを飲んでみるか」
「……このお酒が欲しいの。お料理も頼んでおくの…」
 ハツネがメニューを指差してウェイトレスが告げる。
 酒と料理が来るまで、2人は新兵衛でひまつぶしする。
「ん、王天君お姉ちゃん。お酒と料理がきたの。ハツネが注いであげるの♪」
「―…っと、それくらいでいいぜ」
「美味しい?」
「あぁ。ハツネが入れてくれたからもっと美味く感じるぜ」
「わーい、また褒められちゃったの!」
 王天君に抱きついて頭を撫でてもらう。
「あれからもう1年近くですか…。趙天君さんに金光聖母さん…惜しい人たちを亡くしたものです」
「そうだな、あれほどの能力を持っているやつはそういねぇぜ。技術もそうだが、扱うための魔力も必要なんだ」
「彼女たちの遺志を継いで、僕も魔科学を研究してますが…所詮は紛い物です。さて、僕はやることがあるので少しだけ先にお暇しますよ」
 葛葉はそう告げると個室を退室した。
「それはそうと…王天君…飲みすぎだ。まだ完治はしてないだろ……どんな道を歩むにしても…体は大事にしろ」
「じゃあね、今日はハツネと一緒に寝よう?」
「ハツネがよければな」
「やったの♪」
「何だったら契りの酒でも飲み交わすか?」
「2つ意味があると思うんだが。これからもオレ様に手を貸すということか?それとも…。まぁ、意味は今度聞くぜ」
 契りの酒が手を貸すという意味でなく、そこれから先のことなのかどうか。
 直接言ってくれた後で考えることにした。
「フッ…分かった」
「もしそうなら、一応…言っておかねぇといけねぇこともあるしな」
「そろそろ帰るの。ハツネ…眠いの……」
「お嬢、…背中にどうぞ。王天君、…運んでやろう」
「くくくっ、俺でもいいが?」
「―…っ!んな恥ずかしいことできるわけぇだろ」
「むにゃむにゃ…王天君お姉ちゃんは、ハツネのなの。とっちゃいやなの!怒るの!!…すやすや……」
「暴れると、傷が開く…」
「ざけんじゃねぇ。このやろうっ、離せ!!」
 新兵衛に抱えられた王天君はじたばたと暴れた。



「あ…、ルカだからだ」
 携帯のメールを開くと、“先を越されちゃった〜!”と書かれていた。
「オメガさんも携帯を持っているんだね?」
「いえ。これは淵さんから借りているんです、エースさん」
 やっと通話ボタンというものを理解した程度なため、個人的に持っても扱いきれないから買っていない。
「なるほど…。おっとそろそろ時間だ。お手をどうぞ、椿のプリンセス」
 チロル衣装に着替えたオメガの手を取り、会場までエスコートする。
「たくさんの人に見られるなんて、なんだか恥ずかしいですわ…」
「ほら、お互いを引きたてて、とても綺麗だよ。青い髪と紅の椿の色の対比が凄く素敵だ」
 丹念に育てた椿をオメガの青い髪に飾る。
「エース!オメガちゃんはオイラとケーキを食べる予定だよ」
「聞いてない、そんなの聞いてないから」
「オイラの中で決めてたのにゃ。ていっ」
 クマラはパートナーの手からオメガを連れ去る。
「おや、強引だね」
 写真係りのメシエがそのシーンをばっちりカメラで映す。
 木造のカフェへ入ったクマラは、チョコレートケーキを注文する。
「お会計よろしく、エース」
「たまには退いてくれ」
 強奪された椿のプリンセスの隣をクマラから奪い返した。
「むーっ」
「ケーキがきたぞ、クマラ」
 隣を取られないように、くいしんぼうのパートナーの注意をケーキへ向けようとする。
「―………!まだ早いよ」
 3人とケーキの写真を撮ろうするがその瞬間、くいしんぼうがケーキにナイフを入れてしまった。
「オメガちゃんの分もお皿に取ってあげるね!」
「ありがとうございます」
「袖をお持ちしましょう、椿のプリンセス」
 服にチョコがつかないように、エースが袖を持ってあげる。
「助かりますわ、エースさん」
「うん、いいショットだね。プリンセスとプリンスみたいな感じがするよ」
 2人の様子をメシエがパチリと写す。
 淵が聞いたら激昂しそうだが、そんなことはメシエが知るはずもない。
 ケーキを食べ終わった3人は、カフェを出てコンテスト会場へ行く。
「大時計は陶器かな?街並みも歴史の感じられるいい所だね」
 継ぎ目がどこなのか見えない石造りの建物をメシエが見上げる。
 コンテストに優勝して人々に注目されるオメガの写真も撮る。
「そろそろ、ルカたちのところへ行くかい?」
「えぇ…。また誘ってください」
「あれ、メシエは?」
「すまないね。土産物を買っていたんだ」
「椿の形をした石鹸か…」
「香りも椿らしいよ。使うのがもったいないものだね」
「町を出ようか、メシエ」
 エースたちは会場を跡にし、モーントナハト・タウンから出る。



「たくさんアトラクションを回りたいわよね」
 チケット売り場で座敷わらしと猫又の2人と、待ち合わせていた美羽とベアトリーチェはパンフレットを眺める。
「美羽さん…。時間的にあまり回れないですよ。ホラーハウスに行ってみませんか?」
「え…?うん」
 本物の悪霊などと戦ってきたから、平気になったのだろうかと美羽が首を傾げる。
 しかし、ベアトリーチェは全然平気じゃなかった。
 ホーラハウスを進んでいく4人だったが…。
「いきゃぁああぁ!!?」
 突然、壁から現れたゾンビメイクの者に絶叫してしまう。
「アチェ、く…苦しぃのにゃ」
 ぎゅっと抱きしめられた猫又がもがく。
「はっ。す…すみません!」
「驚きすぎにゃ、アチェ」
「うんうん。面白いけど、おどろかないねアチェおねーちゃん」
「アチェ?ベアトリーチェのことね。私は?」
「みわわん」
「みったん」
「みゅ?じゃー、みったんでー」
 作り物の恐怖に耐性のある3人は楽しく話しながら進む。
「あれ、ベアトリーチェがいない。…ベアトリーチェ?」
「はーい…美羽さん」
「えええー!?どうしたの!!」
 アトラクションで借りたレインコートに、グリーンスライムがべっとりついてる。
「スライムの池に転んでしまったんです……うぅ」
「ま、まぁ。服は汚れないから大丈夫よ。手は…洗えばいいじゃないの」
「置いていくなんて酷いじゃないですか、美羽さん!」
「そんなつもないって、はぐれちゃっただけだから…。来ないでベアトリーチェ!きゃーーー、やめて!いやぁああっ!!」
 ベアトリーチェに腕を掴まれ、私服にスライムがべっとりとついてしまう。
 ホラーハウスを出た頃には、2人は泣き顔をしていたが、招待した2人は元気いっぱいだった。
 美羽のほうは仕掛けなどに驚いたわけじゃないか、驚くベアトリーチェに抱きつかれる度に服へスライムをつけられて号泣した。
「私の服…すごいドロドロ……」
「ご、ごめんなさい美羽さん!」
 へこむ美羽にベアトリーチェが必死に謝る。
「着替えもないし、このまま遊ぶしかないわね」
「フードショックマンションへ行ってみましょうか。美味しい料理も食べられますよ」
「ご飯…そうね!」
「えっと、ヴァイネン…にしましょう」
 ベアトリーチェがモードを決めてアトラクションへ入る。
 席に座るとアナウンスが流れ、勝手に金色の蓋が開く。
 その下にはパスタやステーキなどがった。
「食えよ、食って、くれよ…ぐすん。食ってくれぇええ」
「はぐっう!」
 美羽の口の中にパスタが号泣しながら突撃してきた。
「おいひぃ…むぐむぐ。むーーっ!?」
 まだ食べきってもいないのにサラダまできてしまう。
「むふぉ、ほにほふぇふぁひー。(もう、飲み込めないー)」
 噛むことも飲むことも出来ず、吐血するように…爽快にぶはっと吐き出す。
「ひぁ!?」
「ああぁああーっ。ごめん、ベアトリーチェ」
「2人とも、ドロドロだね」
「面白くっておいしーのにゃ!」
 大騒ぎしているうちに号泣料理タイムが終わった。
「私の服も終わってしまいましたね…」
「もういいじゃないの、ドロドロでも!服なんて洗濯すればいいのよ。お土産屋行こう」
 ショップに入ると…。
 ドロドロな服の2人をじろじろと客が見る。
「なんでかしら?目立っているわね!」
「えぇ…それはもう、目立つでしょうね…」
 開き直って堂々としている美羽が、ベアトリーチェには勇者に見えた。
「無添加の乾物?お魚みたいですね」
「にゃーにゃんにゃん♪」
 猫又にとってはそれがお菓子なのだろうか、尻尾をぱたぱたさせている。
「これが欲しいんですか?いいですよ、買ってあげます」
「渋いお土産ね」
「はい。お家に帰ったら、2人で仲良く食べてくださいね」
「ありがとーなのにゃ、アチェ」
「アチェ、ありがとう」
「にゃー、アチェ。お洋服」
「はいはい♪…ご自分で買いましょうね、お洋服は洗えばキレイになりますから」
 猫又のマネをして強請る美羽だとすぐに気づき、ベアトリーチェが却下する。