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祓魔師たちの休息1

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祓魔師たちの休息1

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第8章 自習時間Story8

「カティヤさんに集中させる感じにしましょうか。今後、術の能力上昇も目指したいですからね」
「リーズ、囮頼んだ」
「おっけー♪」
 木の上で休んでいたリーズが再び飛ぶ。
「あー…。陣くーん、取り憑く前の魔性を祓うってさ、タイミングムズくない?ボクが参加すれば、カティヤさんが憑かれる前に〜ってのはアリだと思うけど」
「メンバーに入りたいんか?」
「だってボク以外、白の衝撃を持ってないじゃん♪修練を積まなきゃいけないから入れないけどね。んーそうだね、エレメンタルリングがあればいいかも」
「探知の宝石も加えておくといいよね、リーズちゃん」
「うん、それがないといけないね。雨の効果が切れちゃったら、魔性が見えないと外しちゃうし。雨にかかってない相手が来る可能性もあるからね」
「私が引き受けてあげるから遠慮なくかけていいわよ♪」
 カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)はうきうきと楽しげに微笑む。
「ねぇ、私が最後に唱えればいいのかしら」
「そうだね!」
「分かったわ♪」
「陣さんのエレメンタルリングに集中させて、陣さんが最後にカティヤさんへ効力を与える流れにしましょう!リングを使う役割は、状況を見て変更すればよいですからね」
「流れはだいたい固まった感じやね。まずは、アークソウルからのやな。フレアソウル、強化ホーリーソウル、強化エアロソウル、哀切の章、悔悟の章の順番なんかな」
「んー…詠唱が長くなるので分担しましょう♪羽純くんがアークソウルを使って、陣さんがフレアソウル…、私が強化した宝石を2つ使いますね。それで…、悔悟の章は磁楠さんとジュディちゃんにお願いして、カティヤさんが哀切の章でどうでしょうか!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は魔道具の詠唱が長くならないように、それぞれの役割を提案する。
「それでやってみるか。詠唱は…こんなのや」
 考えてきた言葉を陣が歌菜たちにノートを見せる。
「―…覚えてました!」
「最初は俺からだな。…我と共に在る眷属よ。(大地の力を陣のリングへ…)」
 羽純は静かに詠唱し、アークソウルの気を彼のエレメンタルリングに送る。
「我らが持ちし祓魔の祝福を受け、纏え!(炎の魔力をオレのリングに…)」
「…聖者の気質を!(2つの宝石の力を、陣さんのリングに!)」
 ホーリーソウルとエアロソウルの力をリングに送り込むと、それは琥珀・紅・白・黄緑色へ、ゆっくりと色を変えながら淡く輝く。
『悟れ!祓魔の理を!』
 ジュティと仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は宝石使いたちに合わせて、悔悟の章を終えると重力の力を陣のリングに吸収させる。
 陣は全ての力を混ぜ合わせた術を手に集中させると、そこに白き風が渦を巻き、灰色の重力がバリバリと音を立てて風にまとわりつく。
 仲間の力をカティヤに託すべく彼女に向かって放つ。
 全てを受け止めた彼女のスペルブック、哀切の章のページに新たな文字が勝手に記される。
「セイクリッド・ハウル!」
 カティヤは聖なる紅の風を纏い、祓魔の力を行使して雄叫びを放つ。
「うにゃー、何も見えないっ」
 白き叫びは魔性を引き付けていたリーズまで届いた。
「大丈夫か?リーズ」
「へーき、なんともないよ。それよりも、魔性はどうなったかなぁ?」
「ちーーさくなったみたいやな」
 陣の視界の先には手の平サイズまで縮んだ魔性の姿があった。
「これでモノから祓えるんか?なんかに憑依してくれって頼んでないけど」
「大丈夫じゃないの?カティヤさんは章使えるわけだし」
「そんならいいんやけどな」
「ねぇねぇ、カティヤさん。魔性の位置、分かった?」
「えぇ、アークソウルの力のおかげかしら。通常通りの視界範囲なら、不可視の相手も見えちゃうもの♪」
「アルトとネーゲルは残念じゃったのぅ」
 しょんぼりする2人をジュディが慰める。



「誰か叫んでたけど、な…何かかしら?」
 カティヤの叫びに驚いたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、驚いたように目を丸くした。
「あっちで陣たちが術考えているみたいだったぞ。術が完成したのかもな」
「―…そ、そっか、カルキ。突然だったからちょっとびっくりしちゃった♪ルカたちも頑張らなきゃね」
 叫ぶ術って何かな…と気になりつつ、自分たちの自習に集中しようとはりきる。
「潜在解放のスキルってマグヌスの力に影響ないかな?」
「あー…それ、俺たちが普段使うスキルだろ?それじゃ何も影響ないな」
「うにゃー、残念っ。でもでもっ、術を完成させた時の効力分なら問題ないわよね。例えば、ダリルが唱えた章の力と白の衝撃を使って、マグヌスを強化出来たらルカたちも同じ効力ならおっけーってことだもの♪」
「正解だな」
「フフッ、やったね♪」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に金色の髪をぽむぽむされる。
「さっそく特訓あるのみよっ!」
「ルカルカさん、私たちも入れてもらえますか?」
「ベアトリーチェさんと美羽さんだっけ?成功するか試してみるから、完成したら組んでみようね♪」
「先に俺が白の衝撃の力を発動させておかないとな。……これで、いつでも発動可能になったのか?」
 詠唱してみると清き白い光を纏った。
「ダリルが真っ白になった!」
「本気になると、白く光るってやつか?」
 からかうようにカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)がケラッと笑う。
「白夜叉…いや、なんでもない。睨むなって」
「さっさと訓練を始めるぞ。裁きの章から唱えるわけだが、効率よく術を吸収させることを考慮し、俺は4番目に唱える。哀切の章も同様だ」
「淵からやったらどうだ?最初のほうが目立つだろ」
「別に…目立ちたいなどとはっ。……分かった、そこまで言うなら仕方あるまい」
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の視線に気づいた夏侯 淵(かこう・えん)が、まず最初に唱えることにした。
 淵は強化した裁きの章のページを開き詠唱する。
 ページから赤紫色の霧が現れ、それは召喚の魔方陣へと取り込まれる。
「―…もう一度やり直しだ。淵、もう少し落ち着いたらどうだ?」
「お……俺は平常心だが」
「いいや、そんな状態では失敗してしまう」
 ダリルの厳しい指導に“優しくしてあげてっ”とルカルカが小声で言うが、彼は“そんなこと関係ない…”という態度を取る。
「なぜ、顔を真っ赤にしているんですかぁ?」
「あわわ、エリザベートッ。そこは触れないであげて…」
「いえっ!訓練に影響が出ることはいけませんよぉ〜!!」
「(哀れだな)」
 2人の鬼に指導される淵を、カルキノスは見守ことしか出来なかった。
 口を挟んだりしたら確実に被弾するからだ。
「もう1度、淵からだな」
「あぁ…」
「頑張ってください!」
 見学しているオメガはエールを送った。
「(応援してくれているのだろうか!)」
 皆に対してのエールだったのだが、淵には自分に送ってくれているように見えた。
「(くっ、今度こそオメガ殿によいところ見せねばっ)」
 高鳴る気持ちを抑えて詠唱を試みる。
「いいだろう。次、ルカ。…カルキ」
 ダリルは淵の表情をじっと観察し、進めてよいか判断する。
 最後に自分も裁きの章を唱え、2度分の術を魔方陣へ吸収させる。
 哀切の章も同じ順番で行いマヌグスエクソシストを発動させ、2種類の章の力を得たリトルフロイラインが召喚された。
「リトルフロイライン。銃の形状は何種類も出来ますの?もし可能なら、その違いによる性能差は有るのしょうか」
「ハンドガン、ショットガン、スナイパーライフル、マシンガン、バズーカ、固定砲台…ですか。基本的にどれも威力は変わりませんが、例えばバズーカの弾を普段使っている弾の集合体として想像してください。範囲砲弾として固まったものであって、威力のそのものを集結して能力が上がるわけではないんです!」
 血の情報で読み取った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の考えを説明する。
「連射速度、命中率、威力、弾数による魔力の消費量…ですね?先ほどのものに当てはめて言いますね。さきほども申しました通り、威力は基本的に変わらないのですよ。例えば固定砲台ですと、範囲砲弾となるため撃つ速度が遅くなります。いつものモードの弾を集結させたような感じになりますので、威力は変わらなくてもそれよりも広い範囲攻撃となるのですよ。なので、1発の弾丸はいつもより消費が多くなります!命中は…綾瀬様のご命令通りに撃ちますが、どれも必ず当たるわけではありません!連射速度はマシンガンが1番早いですね」
「ふむふむ。撃つ速度は私たちが知っている銃と、あまり変わらないのですね」
「私が使っているのはハンドガンというものでしょうか。両手で連射しやすいタイプなので、これにしています」
「コルトSAAに似ているな、早撃ちするならその形がよいだろう」
 ダリルがリトルフロイラインの銃を観察する。
「召喚された後は、章の魔力による精神力もいただいてますが。少なくなってきてしまったら綾瀬様からいただいています。綾瀬様の精神力が尽きない限り使えますし、弾を補充する動作も必要ありません!」
「さきほど命中率はどれも変わらないと言っていましたが…。スナイパーライフルもそうですの?」
「確実というわけではありませんし、その先が見えるわけではありませんからね。綾瀬様の情報にある宝石を使える方がいればよいのですが…」
「なるほど…分かりましたわ。特訓を始めしょう、リトルフロイライン」
「はーい、綾瀬様!」
 リトルフロイラインは二丁拳銃モードで木を的に撃つ。
「エリザベート様、質問よいですか?」
「何でしょう〜?」
「悪魔の装備でデモニックナイフというものがありますが。悪魔が用いる食卓用ナイフで、犠牲者の魂を切り刻むためのもの…らしいです。通常の物理攻撃は無効で霊魂なども攻撃できて、暗黒属性を持つナイフのようです。この効果は魔性にも有効なのでしょうか?」
「私たちが相手にする者には効きません〜。皆さんのように学んでいる人でないと、対処出来ない依頼しか受けていないのですよぉ〜?魔性は基本的に、暗黒属性と他の属性を持っていたりしますからぁ。相手によって暗黒攻撃は、栄養を与えるような感じになっちゃう可能性もありますねぇ。刃物系などの形状で戦うと、生命の危機を感じた魔性が全力で襲ってきますからねぇ。ちゃんと覚えておいてくださいよぉ〜…?綾瀬さんだって斬られそうになったら、必死で抵抗するでしょう〜?」
「確かに…鋭利な刃物は命を奪う道具のイメージが強いですから」
「あー、それで人で言えば致命傷的なところをわざとはずしてるのね」
 実戦のことを思い出した漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が言う。
 この術を知らない魔性にとっては、器の生命など気にしていないようにも見えてしまうのだ。
 憑依したモノを盾に、わざと脅してくる可能性もある。
「いのちをだいじにってことかしらね」
「―…えぇ……1つしかないものですし、魂も1つしかありません。…術の練習に戻るとしましょうか」
「綾瀬、もう1度召喚してルカたちの精神力で補給させる?」
「そうですね…。お待たせしている方もご一緒にやりましょうか」
「うん!…お待たせーっ、2人ともおいでー♪」
 にこにことルカルカがベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)たちを手招きする。
「どの章を使ってるの?」
「私たちは哀切の章だけですね」
「先に裁きの章を魔方陣へ吸収させなきゃいけなくってね、哀切の章はその後なのよ。美羽さんは淵の後でお願い。ベアトリーチェさんはダリルの前に詠唱してね」
「見ていたからなんとなく分かるわ」
「唱えるタイミングと順番があるんですよね」
 ルカルカたちが練習している様子を、平らな岩に座って観察していた2人は十分理解している。
「リトルフロイライン、帰還してください」
 綾瀬の声に少女はぺこりとお辞儀をして帰還する。



「そろそろオメガ様もエクソシストとしての道具を選ばれてみては如何でしょうか?ミニ台風の存在から伺えるように、使い魔との相性が良いのかも知れませんわね?」
 傍で見学しているオメガに、綾瀬は使い魔を扱うほうが慣れやすいのではと言う。
「えぇ…。この前の授業でも淵さんに言ったのですが。使い魔を扱ってみようと思いますわ。次はわたくしも呼び出してみようかと…」
「そうでしたか。次回が楽しみですわね」
 どの魔道具にするかオメガはすでに決めていたようだった。
 使い魔を扱う者として共に学ぶ時が楽しみだ。
「練習といえど…、キレイなものを用意してあげなくては」
 魔方陣を地面に置いた綾瀬は、ニュンフェグラールを掲げる。
 彼女の詠唱に合わせて淵が裁きの章を唱えて章の力を吸収させる。
 ルカルカ、カルキノス、ダリルの順番に与えていく。
 淵が哀切の章の祓魔の力を陣へ送ったのを確認し、ゆっくり詠唱していた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はタイミングを見計らって送った。
 またルカルカ、カルキノスの順に唱えていくと、ベアトリーチェも章を唱えて送り、最後にダリルが章の力を与えた。
「エリザベート、相手になってくれる魔性いないかな?」
「えぇいいですよぉ。魔性さーん、かもーんですぅ〜♪」
 幼い校長に呼ばれた不可視の者たちがテケテケと歩いてくる。
「見えるように…その木に憑いてくださぁ〜い」
「大きい的ね!よーし、練習再開っ」
「リトルフロイライン、お願いしますね」
 綾瀬の頼みに元気に返事した少女が、大きな的を狙って撃つ。
「ルカルカさん、章の力を与える時に少しでも前後の相手と被ってしまったら、失敗してしまいますか?」
「んっと。同じ効力ならいいんだけどね。裁きの章と哀切の章が被っちゃうと、吸収適用するまでの時間がかかっちゃうみたい。ベアトリーチェさんとダリルが後だったのは、術の能力適応の関係かな。だから同じ章なら、4人のうち誰が先でもいいんだけど…。一応、アイコンタクトのタイミングくらいは欲しいね」
「分かりました」
「―…ん、今日はおやつ持って来てなかったかな」
「食べますか…?」
「オメガさんが作ったの?食べるー♪」
 キレイな包みの中のチョコクッキーを掴んだルカルカは口に入れる。
「私もいただきますわ」
「ぇ…ぅぅ」
 綾瀬に装着しているドレスは食べられず小さく呻いた。
「ここで解除したらどうなるかしら」
「やめてください、ドレス」
「うにゃー、美味しいっ」
「バレンタインという存在は知っていましたが、よく分からなかったのですが…。陣さんたちにバレンタインというものを、詳しく教えてもらったことがありまして…。お友達にあげるものとして学びましたわ」
「そうだったのね?」
 “友達にあげるもの”という言葉に、ハテナと首を傾げる。
 それも正解なのだが、もっと大切なこともある。
 もしかしたらその辺はまったく理解していないのかもしれない。
「ル、ルカ…それは……」
「はみゅ?む、食べちゃった♪淵のなくなっちゃったね」
「―……ルカーーーッ!!!」
「ごめんなさい淵さん…。そんなにクッキーが好きだなんて知りませんでしたわ」
 怒号する淵にオメガがしゅんとして謝る。
「い、いや、オメガ殿は悪くないのだ。ルカが…」
「小さいこと根に持つと、好かれないわよ♪」
「くっ…!……あ、あ、その…オメガ殿。別に怒ってはいない。クッキーのことはよいのだ」
 キッとルカルカを睨みつけた淵だったが、すぐに表情を戻してオメガのほうを向く。
「…お嫌いでした?」
「そういうわけではっ」
「はーい、自習おしまーい♪」
 ルカルカが容赦なく会話をぶった切ってしまった。
「オメガさん、エリドゥに観光行かない?」
「えっと…エースさんから先にお誘いがあるので…」
「(また先手が!!)」
 実戦の後のことも考えると、淵は嫉妬に燃えそうになった。
「んんーっ、ぬかりがないわね…」
 どこからか“先に声をかけたもの勝ちだよ”と言うエースの声が聞こえそうだった。
「―…?」
「ううん、こっちの話♪その後ならいい?」
「えぇ、大丈夫ですわ」
「淵の携帯を貸しておいてあげるね」
「お借りします。ではまた後ほど…」
 ぺこりと頭を下げてオメガは地下訓練場から立ち去った。