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祓魔師たちの休息1

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祓魔師たちの休息1

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第5章 自習時間Story5

「オヤブン、2人だけなの?」
「今日はもう呼びかけは難しいな。…可視化してもらうか」
 それぞれ練習に集中してそうだから声をかけても集まらないと判断し、持ってきたペンケースへ魔性に憑依してもらうことにした。
「オマエ、テ…イウカ、…物理攻撃、…ダッケ?」
 ペンケースに憑依した魔性は、口の留め金を硬質な歯に変形させた。
「来るぞ、コレット」
「罪に惑わされし魔の子らよ、その手にせし罪は偽りの力…」
 静かに頷いたコレットは哀切の章を唱え始めると、魔性が大口を開けて遅いかかる。
 詠唱するパートナーの前にいる一輝が龍鱗の盾で立ちはだかり、魔性はそれを噛み砕こうとガリガリ噛みつく。
「―…せめてあたしたちの声が聞こえるまでは、その手を休め罪を見続けなさい」
 スペルブックはコレットの清らかな精神に反応し、哀切の章のページから放たれた白き光が一輝を包み込む。
 光は霧状に散り、盾に噛みついてた魔性は慌てて退いた。
 …が、すぐに章の力を行使するコレットを狙う。
「まだ来るか。…なっ!?」
 パートナーを守ろうとする一輝だったが…。
 彼女を守る盾へ噛みついた魔性が、盾ごと彼を振り回す。
 コレットが詠唱を終えた頃には、一輝は床に叩きつけられていた。
 魔性を退かせることに成功したものの、協力相手がいないままで3度目は厳しいと感じ練習を中断した。
「一応、形にはなったからこれくらいにしておこうよ、オヤブン。章の元々の効果を考えると、1度の術で守れるのは1人だけかな。拡散させる時のこともあるし」
「長く維持するのも難しいんだっけ?」
「うん、祓うための章ってこともあるからね」
「なるほどな。…ん?エリザベートさんからメールが送られきてたみたいだな」
 メールを開くと…。
 “実戦ばかりで疲れてるでしょうからぁ〜、観光してきてもいいですよぉ〜!”と書かれているようだ。
 文面の下のほうを見ると観光地の名前などが添付されていた。
「オヤブン、座敷わらしを誘って遊びに行こうよ!」
「あぁ、たまにはいいかな」
「お手紙送らなきゃっ」
 コレットは大急ぎで便箋にキレイな文字で場所と時間を書き込む。
「早く手紙出さなきゃ。オヤブン、早くっ」
 パートナーの手を引っ張り、コレットは教室を退室した。



「この前の実戦と、逆の使い魔を呼び出してみない?」
「俺のほうはポレヴィークを呼び出すのは始めてだな」
 今までクローリスを扱っていたクリストファーだったが、今日はポレヴィークを呼び出してみることにした。
 紙に魔方陣を書き、床に置いて彼はニュンフェグラールを掲げて祈りを捧げた。
 木の聖杯に零れ落ちた涙に、自分の血を1滴混ぜて魔方陣へ落とすと、そこからいくつもの花茎が伸びた。
 それは互いに絡み合い、人の形になっていく。
 13、4歳頃の少女のような姿へと変わり、涼しげな黄緑色の瞳でクリストファーを見る。
 花茎と黄色の花で髪留めを作り出したポレヴィークは、瞳と同じ色の長い髪を纏めてアップヘアースタイルになる。
 可愛らしさよりも、金光花を思わせる凛とした美しさを感じさせる姿だ。
「―…貴方が私のご主人様?まぁまぁかしらね」
「よろしく。俺の名前は言わなくても分かってる…のかな」
「えぇ、もちろん。血の情報でね…。私の力を使うには、相応の精神力をいただくわ」
「その辺はクローリスくんに力を借りていた時に学んだよ」
「基本的なことは分かっていると判断させていただくわ。貴方の実力に合わせて、私の力を貸してあげてもよくってよ」
 鮮やかな黄色と黄緑のドレスを纏ったポレヴィークは、上から目線な物言いで言い放った。
「なんかそういう性格の子を、引き当てる確立が高いね…?」
 呼び出された使い魔の態度にクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、彼が使役しているクローリスの性格を思い出してしまった。
「あの子も可愛いから問題ないよ」
「え?あ、…そうなんだ?」
「俺としては今日呼び出さなかったクローリスくんが、拗ねたりしないか心配なんだけどな」
「そう不安がることはないよ。使い魔は基本的に、呼び出した相手の頼みを聞いてくれるし。なんだかんだいって、頼みごとを聞いてくれてるようだから大丈夫なはずだよ」
 真剣な眼差しで考え込むクリストファーに、クリスティーはくすりと小さく笑う。
「2人を同時に呼び出せたらいいんだけどね」
「それは難しいかもな、倍の精神力が必要になってしまうよ」
「うーん…、そうだね。ボクは久々に、クローリスさんを呼び出してみようかな」
 忘れられていないか不安だったが、呼び出しに影響が出てしまうと感じたクリスティーは、不安という感情を抑えた。
 呼び出されたクローリスは、すぐに彼へ飛びつく。
「ボクのこと覚えてるよね?」
「げーんきだったー?クリスティーくんのこと、ちゃーんと覚えてるのらぁ!」
「フフッ、それは嬉しいね。ボクはこの通りだよ。クローリスくんは元気だった?」
「うん!げーんきいっぱい〜!クリスティーくん、遊ぼうっ」
「じゃあ……、このままどこかへ出かけようか?」
「やったやった〜、わぁーいっ」
 クローリスは大はしゃぎし、ぴょんぴょん跳ねる。
「待って、俺の練習が終わってないよ」
「でも…遊びたいって言ってるし。ほら、泣いちゃいそうだから」
「う…うん」
 可愛らしい瞳を潤ませるクローリスを見下ろし、やむを得ず自習を終えて遊びに行くことにした。
「そろそろ、静香さんが森のほうで待っていそうだね」
 クリスティーはペンフレンドの桜井 静香(さくらい・しずか)を、魔性と人が共存する都へ招待していた。
 そこへはクリスティーたちと一緒でないと入れない。
 先に着いていたら何もない場所で、ここで合っているのか悩んでいるはず。
 退室しようと扉へ向かった。



「えと、いろんなひとが、れんしゅう、してるの?…すごいなぁ」
 特別訓練教室の様子を見ようと、マイシカ・ヤーデルード(まいしか・やーでるーど)は扉の窓硝子に張り付く。
 メアリー・ノイジー(めありー・のいじー)と旅の途中だったマイシカは、魔法学校に立ち寄り見学しにきた。
「見えるの?」
「―…ほとんどみえないけど、なんとなく…かな」
 曇り硝子越しでは見えなかったが、こんな雰囲気かも…と思って言う。
「あらら、教室に入らないんですかぁ〜?」
「すみません…。ここに入るための免許を持っていないんです」
「ちょっと、いってみたいなぁ、とおもって。きただけ、なんだよ」
「ふむふ…。なるほどですねぇ〜」
「名簿ってあるんですか?」
 ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)が来ていないか確認しようと、メアリー・ノイジー(めありー・のいじー)の体を奪ったグレゴリーがエリザベートに聞く。
「えぇありますよ〜」
「……あれはいないようだね」
「ん、だれが?」
「ううん、何でもないよ」
 首を傾げるマイシカにグレゴリーはかぶりを振った。
 ニケは寝る間も惜しんでメアリーをずっと探していて、ここへは来ていないようだった。
「(チ、やーな雰囲気だよ…こういうのはどうにも苦手だね。まったく…マイシカはよく飽きないね。僕はこんなところ、早く離れたいのにさ)」
 マイシカは夢中で扉の窓を覗いていたが、グレゴリーにとっては居心地が悪い。
「きょうしつのなか、もっとよく、みえないかな。あ、ひらいた」
「…ほら、生徒さんの邪魔をしてはいけないよ。図書館も見に行ってみようか?」
 扉から離れようとしないマイシカをグレゴリーが自分の方へ寄せた。
 教室から自習を終えたクリストファーたちが出てきた。
「お疲れ様でしたぁ♪」
 エリザベートは去っていく彼らに言い、教室の扉を閉めた。
「うわん…。なにも、みてないのに」
「ほら、もう行こう」
「機嫌が悪そうですけど、どうかしましたかぁ〜?」
 グレゴリーは一刻も早く立ち去りたいのだと、ようやくエリザベートが気づく。
「いえ、そんなことは…」
「私にはそう見えますよぉ。好まないところに、なぜいるのですかぁ〜。好きでもない場所にいるなんて、おかしな人ですねぇ」
「おにいちゃんを、わるくいわないで…!いじわるなひと」
 大好きな兄を侮辱されたと感じたマイシカは、ぷんぷんと怒りグレゴリーの手を引いて立ち去る。
 図書館は本の整理中だったため、特に見るところもないと思った2人は魔法学校から立ち去った。