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祓魔師たちの休息1

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第2章 自習時間Story2

「観光かー…。お土産もろくに買えなかった感じだし、遊べなかったものね」
 前回の授業の終了時に、教壇から持っていったパンフレットをテーブルに広げ、日堂 真宵(にちどう・まよい)はどこに行こうか悩む。
「こら、真宵。今は自習の時間なのですよ」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が無慈悲にそれを奪い取ってしまった。
「返しなさいよ、テスタメント!」
「自習が終わるまでこれは没収します」
「はいはーい、分かったわよっ。…なーんか、術のよい運用法とかないかしらねぇ」
 不機嫌そうに顔をムッとさせるものの、すぐに自習を始めた。
「わたくしたちが普段使っているスキルじゃ、魔性に対抗するのは不可能だったわね。んー…どうにしかして今までのスキルを利用出来ないかしら…」
「よい結果だった人を見ませんでしたね。自爆されて憑依された対象が、死ぬ可能性だってあるようですし」
「うーっ、さすがにそれは困るわ。あー、確か必要以上に苦痛を与えたり、消滅させてしまうのよね」
「えぇ。特に力が弱い相手だと、その消滅の可能性もありますね」
「じゃあ逆に、わたくしたちが考えて…」
 今までの授業について纏めたノートを広げて、覚えた方法以外で行使出来ないか考えてみるが…。
「無理では」
 希望をテスタメントに横からあっさりと砕かれた。
「やっと魔道具を開発したところまできたのですよ?」
 まるでパートナーの心を読んだかのように言う。
「魔道具を使って実戦で学んでいくという、日々の修練が大切なのです」
「わ、分かってるわよ、そんなことっ」
「大丈夫です。真宵は魔道書を偶然作る才能位はあるかもしれません!」
「―…何の確信があって言ってるのよ」
 “そんな才能が本当にあればよいのだけど”と思いつつ、真宵はノートに視線を戻した。
「真宵、それは何ですか?」
 パートナーのノートには授業と関係ない脱線したものまで書かれているようだ。
 目敏く発見したテスタメントが覗き込む。
「プライベートなことはNGだなんて。ああ見ててオープンな性格じゃないようね。わたくしたちに隠さなきゃいけないことでもあるのかしら!?…はっ、テスタメントには関係ないことよ!!」
 ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)への質問を見直し、纏め直しているところをテスタメントに見られてしまった。
「それは、授業の復習に関係ないような…」
「わたくしのノートなんだから別にいいでしょ!」
「もしかして、提出する気ですか?」
「と…、当然よっ」
「ふむふむ。あとはテスタメントが纏めておくのです。真宵はこれでも見ていてください」
 みっちり書き込まれたノートを自分の方へ寄せ、観光パンフレットを返してやる。
「じゃあ任せるわ。んー、どこに買い物に行こうかしらね」
「―…完成です!」
「早っ。もう終わったの?さっさとわたくしのノートを返してちょうだい」
「ついでにラスコット先生へ提出しておいたのですよ」
「は、はぁああ!?まだチェックしてないのに!なんてことしてくれたのよ、もうっ」
 どんな風に纏めたのか一切見せてもらえないまま、勝手に提出されてしまったようだ。
「早く観光に行きたいのですよね?」
 “手間を省いてあげたのです”と聖女のような微笑を浮かべ、“観光”の言葉で真宵を黙らせた。



「ということで、魔性クン!よろしくね〜♪」
 地下訓練場に入ったアニス・パラス(あにす・ぱらす)はアークソウルの気配を頼りに、にこにこと饒舌に魔性へ話しかける。
「アニスも魔性と仲良くなるのは良いが、ほどほどにな?」
 親しげに近づいて、それが原因でいつか利用されるのではと気が気でない。
「甘言に惑わされる危険もあるんだぞ。聞いているのか、アニス」
「まったく聞こえてないようだな、和輝。いざという時は、私たちや周りの者が止めるしかあるまい」
 必要以上に接近させなければよいし、相手が騙そうとしているならそれも教えればよいだろうと言う。
 それもパートナーである彼の思惑通りに行動するような気がし、少々尺だがアニスのためにはそれも仕方ないことだった。
「説得するためには、アニスみたいな考えも必要なんだろうけどな…。まぁ、その時に考えるしかないだろう」
 自分や禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)たちのように、慣れた相手以外の女の子とかに対しては、少しずつ人見知りが解消されてきているが…。
 年上の異性に対してはまだ怖いらしく、和輝に変わりに伝えてもらっていることがある。
 だが、魔性などには饒舌に話し、警戒心が薄い気がして苦労が絶えない。
「何か憑けるものないかな…。あっ、アニスのペンに憑いてみてよ」
 魔性が憑依するところを見てみようと、筆箱からペンを取り出して土の上へ転がす。
「ほうほう、そんな感じなんだ〜。アニスがやってる神降ろしも、魔性クンが憑りつくのと似てるね♪」
 しゃがみこむと自分のペンが異形化していく様子を観察する。
「む〜。新しく手に入れた宝石も試したいなぁ。ねぇ、和輝?」
「―……何だ、その目は」
 楽しげに笑みを向けるアニスの眼差しにいやな予感がした。
「魔性クンに追いかけられてくれるかな?エターナルソウルで速度を上げる効果を試したいんだよね。アニスは術者だから、疲れた感覚があるわけだし。和輝に効果をあげたらどうなるかなぁってね」
「何も追いかけられる必要はないと思うが」
「えー、それじゃ練習にならいよ!魔性クンも和輝を追いかけるだけだし、いいよね?」
「まぁ、そういうことならな」
 どこかの女子力に勝てない者みたいに、“攻撃の的になって!”と言われると思ったが、アニスが言うはずもなくほっとする。
 追われる程度ならいいか…と頷く。
「(むー。憑依しない状態の練習もしたほうがいいのかも。ちょっと止めるねっ)」
 和輝に与えた速度上昇の効果を解除したアニスは、魔性にペンから離れるように言う。
「(おっけーっ。再開するよ!)」
 魔性が器から離れたことをアークソウル探知し、エターナルソウルの力を行使する。
 気配の位置を把握しながら、精神感応で和輝に避けるポイントを伝えていく。
「(和輝っ、後ろ!…ん〜と、次は右っ。あ、上にいるっぽい。やばやばだよ、木がいっぱいあるところに追い込まれちゃうかも。前へ逃げてっ)」
「レイカも和輝で試してみてはどうだ?対象がいたほうがやりやすかろう」
「あ…、はい。ありがとうございます。(最初はゆっくりめにしましょうか…)」
 ペンダントに祈りを込めると、エターナルソウルが藍色に輝く。
「スピードが変わらないようですが」
「む。アニス、和輝にかけた効果を解除してもらえるか?少し休憩したほうがよかろう」
 リオンの声にアニスはエターナルソウルによる速度上昇を解除する。
「では…。もう一度、試させてもらいますね」
 速度を上げたり解除の繰り返しを試みる。
「和輝さん、身体に負担などはありませんか?」
「ぁあ、問題ない」
「追跡だけでなく、魔性の攻撃をかわす時などにもよさそうですね」
 レイカは瞬間的に上げて避けることにも使えそうだと考える。
「リオンさん…。私が宝石を使い始めてから、どれくらい経ちますか?」
「2分ほどだな」
「そうですか……。まだあまり精神力を消耗した感覚はありませんが、自分でも試してみたいので解除します」
 術者であるレイカ自身でも試すための余力を残そうと宝石の行使を中断した。
「確か…箒などには無効でしたっけ」
 普段よりも遥かに早く動ける自分をイメージし、藍色の宝石に秘められた力を放出させる。
「(もっと、より早く…加速を……っ)」
 徐々にスピードを上げながら地下訓練場を駆け回る。
「ふぅ……これくらいにしておきましょうか。だいぶ疲れてきましたね…、感覚的に私の箒と同じくらいでしたけど。瞬間的に回避するなら、もっと速くしてもよさそうですが」
 長く持続させるならスピードを落とすべきだが、避けるだけなら自分の箒よりも少し速く動けそうだ。
「今、どれくらい持ちましたか?」
「8分程度のようだ。(アニスが和輝にかけた時よりもスピードが速いな…)」
「合わせて10分ほどですか」
「(いいなぁ、アニスもあれくらい使えるようになるかな?あれで瞬間移動みたいに動けるようになったらいいよね。ねぇ、和輝っ)」
「(それだとかなり修練が必要かもな)」
「(うー、頑張るっ。もっと使いこなせるようにならなきゃ!)」
 “守ってくれる和輝のためにも、いっぱい頑張ってみせるよっ”といふうに精神感応で告げる。
「エレメンタルリングも使ってみますね」
 レイカは大地の宝石の輝きを、指はめたリングに送り込む。
「―…えっと、私のペンに憑依してもらえますか?…ありがとうございます、いきますね。(威力を下げておきますか…)」
 平らな石にペンを置き、不可視の魔性が憑いたのを確認すると、アンバー色の光を纏った拳で殴りかかる。
 拳は光の尾をひきながらペンの中に潜む者を襲う。
「ハワワァ」
「…大丈夫ですか?」
「マァ、問題ナイ」
「ほう。ならば私の相手もしてもらおうか」
「リオン、優しくしてあげてよね?」
 ぴたっと寄り添い、こそこそっとアニスが小声で言う。
「分かっている…」
 加減してあげて!と言うアニスのお陰で、何か物足りない気もするが、練習なのだから仕方ないか…とため息をつく。
「魔性、貴様は機械にも憑依するタイプか?」
「ン、イイヤ、違ウ」
「(ふむ…ならば、この強化した哀切の章だけでよいか)」
 哀切の章のページを開いたリオンは詠唱し、基本形態の光の嵐をペンに憑いた魔性に向かって放つ。
「まだ異形のままか、祓いきれなかったようだな」
「ミィイッ、ナンカ、脱力シテイクッポィ」
「ほう。SPや体力が減退していっているのか」
「祓えなかったから強化された効果が発動したのかな?」
「そのようだな。ただし、必ずというわけではないだろうが」
「魔性クン、平気?」
 アニスは異形のペンに駆け寄り、ちょこんと屈んだ。
「時間カカル、…ケド。ソノウチ、直ル」
「そっか、よかった!」
「―…そろそろ、私のペンから離れてもらえますか?」
「分カッタ」
「練習に付き合ってくれてありがとうございました」
 気配がする方へ笑みを向けると、レイカはペンを回収した。
「アニスも忘れていかないようにな」
「ありがとう、リオン」
 土に転がったままのペンをリオンに拾ってもらい受け取った。
「私はこれで失礼させてもらいますね」
「では私たちも出かけるとするか」
 自習を終えたレイカに続き、リオンたちも訓練場から退室した。