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リアクション
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、キロス一行を、経営する猫カフェ、【にゃんこカフェ】に招待した。
「団体割引で、サービスするわね」
「それは招待って言わねえよ」
リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の言葉に、キロスは、やっぱり俺が払うのかよ、と、しかし既に諦め顔である。
リリアは、地祇の子、もーりおんも連れて来ていた。
聞けばもーりおんは、聖地モーリオンから出たことが無いという。これは是非、と誘ったのだ。
「来てくれて嬉しいよ、もーりおん」
エースは、もーりおんをぎゅーと抱きしめる。
「後で他の店とかも一緒に見て回ろう」
「見て回る」
もーりおんは頷く。
「お茶をどうぞ」
客達にお茶と猫の玩具を貸し出しながら、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が、雅羅に声を掛けた。
「女性陣にはケーキをサービスしますので、よろしかったら別室でゆっくり猫達と愉しんでください」
ささやかではあるが、総選挙の入賞祝いも兼ねて。
ありがとう、と雅羅は礼を言った。
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、客の対応をパートナー達に任せて、奥のテーブルで新聞を読みながら、エースの淹れたハーブティーを飲んでいた。
新聞の上に猫が寝転んで来るのが困り物だがそれにも慣れて、撫でてやると気持ちよさそうにしている。
猫に興味の無い様子のキロスも、メシエと同じテーブルについてコーヒーを飲んでいたが、その頭には猫が乗っていた。
下ろしてもまた乗ってくるので、放っておいているのだ。
「その髪は既に猫達の格好の玩具かと。
その子は特に、人の頭にこう、ひしっとしがみつくのが密かに大好きな猫で」
エオリアが苦笑する。
「勝手にやってくれ」
キロスは既に投げやりな様子だ。
もーりおんは、ぱちぱちと瞬きをして店内を見渡した。
「猫を見るのは初めて?」
「初めて」
もーりおんは頷く。
「じゃあ、猫達と楽しく遊ぶコツを教えるよ。
自分も猫になったつもりで遊ぶ! これかな」
もーりおんは、目に留まった猫を抱き上げようと追いかけた。猫は逃げる。
追いかけるが、つかまらない。
足は速いし、さっと高い所に上ってしまう。
「ああ、その子は来たばかりで、まだ慣れてないのかな?
短毛種の猫達はちょこまかしてるけど、こっちの長毛種の猫達は、殆ど動かないから触れるよ」
エースは、窓際で日向ぼっこをしている猫達を指差す。
もーりおんは、とことこ歩み寄って撫でてみた。確かに、それしきのことでは全く動かない。
抱き上げる。にゃあ、と鳴いた。
「……ないた」
「うん。可愛いでしょ」
「かわいい」
こく、と頷く。
「こっちの子は、キャットシー」
角があり、翼がある、猫のような生き物を見せる。
「逃げないから、抱きしめても大丈夫だよ」
エースは、キャットシーを抱くもーりおんに言った。
「良い子かいたら、一緒にモーリオンに連れて行くのはどうかな。
長生きするし、いつも一緒なら寂しくないと思うし。
実は喋る、という噂もあるよ」
「……連れて行く……」
もーりおんは、ちらりと上を見上げた。
最初に追いかけて掴まらなかった黒猫は、今は猫タワーの上で丸くなっている。
「あの子が気になる?」
エースの問いに、こく、と頷いてから、もーりおんは抱いているキャットシーを見る。
「猫は災厄を祓うと言われているから、幸運を連れてきてくれるかもしれないわ。
キャットシーをモチーフにしたチャーム、エースが作ったのよ。
キャットシーをモチーフにした焼き菓子は、エオリアが作っているの。
テイクアウトも出来るから、お土産にもいいわよ」
リリアがもーりおんにお守りを見せる。
「猫の雑貨も色々揃えてるし、欲しいものがあったらあのお兄さんにねだってね」
と、にっこり笑ってキロスを指差す。
こく、と頷くものの、もーりおんは、じっと抱いているキャットシーを見つめていた。
にゃあ、とキャットシーが鳴く。
「もーりおんが気に入ったって。この子にする?」
「この子にする」
こく、ともーりおんは頷いた。
別室でのんびりしていた雅羅が出て来て、キロスに歩み寄った。声をひそめて訊ねる。
「それにしても、本当に散財させられてるみたいね。
随分豪遊してるみたいだけど、予算の方は大丈夫なの?」
「余計なお世話だ」
と答えるキロスの投げやりな口調からして、既に諦めの境地に達するような事態になっているのだろう。
「手持ちをオーバーするような事態になるのなら、少し貸す?」
「はあ?」
キロスは怪訝そうに雅羅を見る。
女に金を借りるとか奢って貰うとか、そんなことはプライドが許さないわけだが、雅羅は
「期限内に使わないと勿体無いでしょ」
と言った。
「まだあまり使ってないし、使い道も決まってないから、そのまま使ってくれてもいいし」
「…………お前なあ」
キロスは、はあ、と溜息をついて、手を出した。
「出せ」
「え?」
「券を出せ」
雅羅からひったくるように券を受け取りながら立ち上がり、メシエに
「連中には適当に言っとけ」
と言い捨てて、キロスは雅羅の手を引いて店を出て行く。
向かう先は、【お針子の店フィーロ】だ。
「おい! こいつに何か、見繕って仕立てろ!」
店に入るなりの言葉に、ハルカとオリヴィエ博士へのお土産の相談をしていて、丁度店にいた黒崎天音はきょとんとする。
「予算は50万日本円“以上”で!」
「……」
ふうん、と、天音はキロスとぽかんとしている雅羅の顔を見比べて、何となく、事情を察する。
「ツケ分には、利子が付くよ」
にこりと微笑んで囁いた。
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