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葦原島、妖怪大戦争

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葦原島、妖怪大戦争

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第一章 妖との戦い

 
 妖怪の山の麓では葦原藩の兵士達が妖怪と戦っていた。

 その中に、仁科 姫月(にしな・ひめき)成田 樹彦(なりた・たつひこ)の姿もあった。

「はぁ、モンスター退治ならやったことあるけど」
 手に持った剣【緑竜殺し】で小鬼を切り裂き、姫月が口を開く。
「まさか、妖怪退治まですることになるなんて」
「妖怪もモンスターも同じようなものじゃないか?」
 隣で戦う樹彦が【シュヴァルツ】【ヴァイス】で敵を撃ち抜きながら答えた。

「人を襲うって意味ならそうだけど、なんだろ、妖怪の方が現実味がないって言うか……」
 思考を巡らせる姫月に、棍棒を持った鬼が迫る。その両足を樹彦が正確に撃ち抜いた。
「考えるのは後だ。今は戦闘に集中しよう」
 二人の前には、未だ何体もの妖怪の姿が。姫月が剣を構え、敵を見据える。

「援護よろしく、兄貴」
 鬼の群れの中へ果敢に飛び込んでいく姫月。

 負ける心配などない。後ろに兄がついているのだから。

 緑竜殺しを振るい次々と鬼を切り伏せていく。隙を見て襲い掛かろうとする者には樹彦の銃弾が容赦なく浴びせられた。
 
 その時、蜘蛛妖怪の吐き出した糸が姫月の足に絡みついた。
「くっ!」
 足を引かれ地面に倒れる姫月に、鬼の棍棒が振り下ろされる。
「させるか」
 すかさず樹彦が銃を連射。腕に銃弾を受けた鬼は苦悶の声を上げその手から棍棒が滑り落ちた。
 姫月は足に絡みついた糸を剣で断ち切ると、蜘蛛妖怪へと飛びかかる。
「はあっ!!」
 緑竜殺しの一閃により蜘蛛妖怪は地面に倒れ伏した。

 だが、その後ろからまた別の妖怪が姿を現す。

「ったく、きりがないわね」
「これだけ大量の妖怪が一斉に人間を襲い始めたんだ。きっと指示を出している奴がいるんだろう。そいつをどうにかすれば良いんだろうが……それは山に向かった人達に任せよう」
「そうね。私達はこれ以上被害が出ないようここで食い止めましょ」


 麓で戦っている契約者は他にもいた。

 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は相方のマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)と共に妖怪達と戦っていた。
 一匹の鬼が棍棒を振り上げ襲ってくる。ゆかりは冷静に狙いを定め引き金を引いた。銃弾は鬼が振り上げた棍棒に命中し、棍棒は鬼の手を離れ宙を舞った。
 武器を失った鬼にマリエッタが雷術を放つ。強烈な電撃を受けた鬼は体が痺れ動けなくなる。

「うわああっ!!」

 突如聞こえた叫び声に驚いて目をやると、一人の兵士が倒れていた。急ぎ駆け寄るとそこは川で、良く見れば水中から緑色の手が伸び兵士の足を引っ張っている。
 懸命に兵士を引き上げようとする二人だが、水中から伸びた腕は強い力で兵士を水中に引きずり込む。
「水中では銃弾が届きません。どうすれば……!」
「雷術じゃ皆まとめて感電してしまうし……、それならっ」
 マリエッタは水中にいる敵へとヒプノシスをかける。すると兵士を引っ張っていた腕の力が弱まり、二人は足を掴んだ敵諸共兵士を陸に引き上げた。
 緑色の腕の正体は河童であった。河童は尚も兵士の足を引っ張るが、ゆかりが二丁拳銃の銃口を向けると大慌てで水中へと戻っていった。
「大丈夫ですか?」
 ゆかりが兵士を助け起こす。礼を述べる兵士。
 その時、マリエッタがハッと何かに気付く。

「カーリー!」

 彼女達を取り囲むように、何体もの大蜘蛛が姿を現していた。

「鬼に河童に蜘蛛……一体どれだけの妖怪が今人を襲っているのでしょうか」
 そう言って拳銃を構えるゆかり。
「ここって妖怪以外にも色々住んでいるんでしょう? それが全て敵になっていないことを祈るわ」
 マリエッタもまたハンドガンを構えた。二人は背中合わせになり全方位を警戒する。隣では助けた兵士も剣を構え妖怪を見据えていた。

 飛びかかってくる大蜘蛛を二人は次々と撃ち落としていく。



 一方、山の奥地でも妖怪と戦う二人組がいた、

「鬼さんこちら〜。あ、天狗か」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が天狗達と戦っていた。その背には氷の翼が生えており、眼下では彼女に倒され地に落ちた天狗が何体も倒れていた。

「人間風情が、良くも好き勝手やってくれましたね!」

 そこに現れたのは黒髪黒羽の天狗。山伏のような法衣を纏っており、どうやら今まで倒してきた天狗よりも格上のようだ。
「あら、次は貴女が相手してくれるの? 私としては、早くそちらのお偉いさんと話をしたいんだけど」
 すると天狗は見下すように笑う。
「長が出るまでもありません、あなた達の相手はこの私です! さあ、遊んであげるから本気で掛かってきなさいな!!」
 天狗が持っていた葉っぱのうちわを振るうと、突如突風が吹き始める。

 祥子もまたうちわを一振りし風に乗ってそれを避ける。そのまま天狗へと近づこうとするのだが、天狗の周辺はより強い風が渦を巻いており、思うように近づけない。
「ほらほら、どうしたんです? そんなものですかぁ?」
 挑発する天狗。

「これはちょっと面倒ね……義弘、頼むわよ」
(りょうかいっ!)
 武器形態の宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)が元気良く返事をした。
 再び放たれた衝撃波を、祥子は眼下の樹木にポイントシフトして避ける。そしてそのまま木々の間に姿を消した。
「あいや、何処に行きました? まさか逃げたんですか?」
 辺りを見回す天狗。そして、木々の合間に祥子の姿を見つける。
 天狗は衝撃波を祥子へと放つ。しかし、衝撃波の命中した人影は突然空気に溶けるように消え失せた。
「おバカさん、こっちよ」
 振り向いた天狗の目の前には刀を構えた祥子の姿が。
 祥子が刀を一閃すると、天狗の翼の片方が切り落とされ、天狗は悲鳴を上げながら地上へ落ちていった。

 祥子が地面へ降り立つと、天狗は笑顔で話しかけてきた。
「いやはや、強いですね貴女! 私に手伝えることなら何でもしますから、どうか命ばかりはお助け願えませんかねぇ…?」
 先程とは一変したその態度に、祥子は呆れて溜息をついた。
「それじゃ、人間を攫ってる理由を聞かせてくれるかしら?」
「あいやや…私らは何も聞かされてないんですよ〜。あ、そういやうちの長と絡新婦が、人質がどうこうって話してたっけ……」
(えっ、人質!? 大変だ、早く助けないと!)
「既に救助に向かってる人達がいるらしいわ。そちらは任せて、私達はこれ以上被害が出ないようここで戦っていましょう」




 人が攫われたという話を聞き、多数の人間が救助へと赴いていた。

 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)もその一人である。
 彼女は化け狸の群れと遭遇していた。

「やめて! その子には手を出さないで!」
 化け狸は小さな子供を人質にとっていた。腕に抱えた子供の首筋に爪をあてがい、化け狸はニヤリと笑みを浮かべる。
「抵抗しないことじゃ。抵抗すれば、こやつの命は無い」
 化け狸の一匹が縄を手にアリアへ近づく。両腕を縛られても、彼女は一切の抵抗をしなかった。
 更に。

「きゃあっ!」
 力ずくで地面に転がされ、衣服をバラバラに引き裂かれる。
「ほほぅ、中々の上玉じゃな」
 くい、とアリアの顎を持ち上げ下卑た笑みを浮かべる化け狸。その腕に抱えられ涙ぐんでいた子供が、突然「キシシシ」と気味の悪い声を上げ腕から抜け出した。腰の辺りから生えた狸の尻尾を目にしたアリアはようやく騙されたことに気づく。
「絡新婦に渡すのは勿体無い。コレはわしらが頂くとするかのう」
 化け狸は手刀でアリアの首筋を強打する。そしてがっくりと項垂れたアリアを肩に担ぐと、巣へ向けて歩き出す。
「安心せい。巣に帰ったらたっぷりと可愛がってやるからのぉ」 
 高笑いする化け狸の声を最後に、アリアの意識は深い闇の底へと落ちていった。