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リアクション
6.たぶん、一番行きたくはない場所だろうに。
【ノース王国】
――難民キャンプ
腐臭汚臭にむせ返る惨状を目の当たりにする。いつかの光景の否ではない負傷者と屍体
の散乱した薄汚れたテント群。
気候は穏やかで暖かだが、それすらも肉の腐敗を促す。
グリーク国境側から長くえぐり舐められた地面。光熱で融解凝固した土がにわかに光沢感を発している。
戦いの跡。そして巻き込まれた人と人の営みが無残に骨と土だけを残している。
生きながらえた者もやつれ、瓦礫の上に座るものもいれば、地面にうずくまり蛆に食われているものまで居る。
「な、なんという事か……」
絶望的に死の蔓延する光景に膝を折ったのは『パラミタ十字教団』のキングだった。彼の見た美しい世界の傍らに佇む醜悪な惨状。それがこの世界を「約束された大地」と宣った者の心をズタズタに切り裂いた。
教団員もNSFのジョンたちも誰もが目を背けたくなる。
だが一人だけ違った。裾を汚し倒れ苦しむ子供の傍らに座る。アリスティアが痙攣する手を握る。
「破傷風を起こしている……誰か手を貸してください!」
しかし、教団の誰もがどうすることもできない。傷を塞ぐものも無ければ薬もない。
「僕らに任せて」
寄ってきたのは教団員ではなく清泉 北都(いずみ・ほくと)とリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)だった。
「リオンお願い」
「分かりました」
リオンが原因であろう腹部の裂傷に《キュアオール》を使い、毒素の中和と傷口の修復をする。
苦痛が遠のき、子供の呼吸と顔色が落ち着きを得る。しかし、病的疲労か体力的限界からか、そのまま寝てしまった。
リオンは子供を抱え上げ、テントの日陰に移動させた。
「ありがとうございます。私だけではどうすることもできませんでした」
「いえいえ……僕らにできる事があれば言ってください」
頭を下げるアリスティアに北都が答える。
「ですが、この人々の有様はほうっておけませんねぇ……炊き出しをして差し上げたいのですが、何分食材が……」
北都の後に戻ってきたリオンも続ける。
「治療するにも綺麗な布が欲しいです。列車から使えそうなシーツと食材を取ってきましょう」
「よろしくお願いします……」
北都とリオンが列車に戻って行くやいなや、アリスティアが他のけが人の診に行く。
献身的な彼女にシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)を頭に乗せたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が話しかけた。
「前にあった時とは随分と変わったね。アリスくん。手伝うわ」
「? ではそちらの方をお願いします」
と、右腕のない男の包帯を破いたローブで巻き直し、ケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)を漂わせるリカインに尋ねる。
「ところで、以前わたしとお会いしたことが有りますか?」
リカインは傍と思う。おかしなことを聞くものだと。
教団は彼女を「アリス」と呼んだ。アリスは以前に天御柱で機晶姫を操り暴れた人物に他ならない。あの時の容姿である金髪に碧眼はまさに酷似している。
ただしよく見ると……
(胸が違う……)
しかしあの時の彼女はなんというか、全体的に貧相な体型だった。ローブを外したアリスティアの姿はなんかムカツクけどそうじゃない。
「いいえ、人違いだったみたい。その娘にあなたがよく似ていたもので。性格とか胸と違うけど」
「そうなんですか、わたしと見間違えるような人なら、わたしも会ってみたいですねその人と……、さてここをお願いしてもいいですか? わたしはここで活動するためにも行きたところがあります」
そういってアリスティアが立ち上がると、キングが慌て始めた。
「どこへ行くのですクイーン!?」
「この国の役所でお話をしてきます。ここでわたしたちが活動してもいいように。ここはあなた方にもお願いします」
慌てるキングとNSFを置き去りに、アリスティアは街の方へと戻っていくのだった。
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