天御柱学院

リアクション

　
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「なんだか、うやむやのうちに駆り出されてきたんだけど、鷽って要は鳥でしょ。とりあえず、害鳥は退治しないとねえ」
　てくてくと銀砂の上を歩きながらセレンフィリティ・シャーレット（せれんふぃりてぃ・しゃーれっと）がつぶやきました。相変わらずのビキニ姿ですが、見た目と違って強化装甲になっているので防御力は多分高いです。素肌の部分以外は。その上からは、愛用のコートを羽織っていますので、翻して歩く姿は結構格好いいのですが、やはりビキニなのでちょっと変態チックでもあります。
「鳥だから、焼けば死ぬわよねえ。焼く……焼き鳥……焼き鳥！　うふふふ、じゅるっ♪」
「ちょっと、今の最後のじゅるっはなんなの？　まさか……」
　食べる気じゃないでしょうねと、セレアナ・ミアキス（せれあな・みあきす）が聞きました。
　鷽が食べられるかどうかは知りませんが、あまり美味しそうには見えないのですが。なんだか、お腹を壊しそうです。
　ちなみに、セレアナ・ミアキスの方は、ロングコートの下にレオタード型のポータラカインナーを着ています。セレンフィリティ・シャーレットほどではないですが、結構エッチいです。たびたびセレンフィリティ・シャーレットからはお揃いのビキニにしろと迫られてはいるのですが、最後に残った良心がそれは何かを捨ててしまうことになるとずっと警告しているので、なんとかぎりぎりのところで踏みとどまっています。
「それにしても、いないじゃない。あたしの焼き鳥はどこだー！」
　もうほとんどセレンフィリティ・シャーレットの中では、鷽ではなくてただの焼き鳥になっています。そんなセレンフィリティ・シャーレットから数歩下がってついていくセレアナ・ミアキスでした。
「いたっ！」
　すかさず、セレンフィリティ・シャーレットが、見つけた鷽にむかってシュヴァルツとヴァイスの二丁拳銃で狙い撃ちました。
「ちょ、何をするのじゃ。我が輩は敵ではない！」
　いきなり狙い撃たれたアガレス・アンドレアルフスが叫びました。
「うるさい、鷽め、焼き鳥になれ！」
「セレン、それ鷽じゃないから！」
　あわてて、セレアナ・ミアキスがセレンフィリティ・シャーレットを止めました。
「お師匠様、ここは危険です。他の場所に行きましょう」
　空飛ぶ箒スパロウに乗ったリース・エンデルフィアが、アガレス・アンドレアルフスを拾って逃げていきました。
「一番危ないのは、リースじゃ！」
　思いっきりぶっ飛ばされたことをまだ根にもっていたアガレス・アンドレアルフスが叫びました。
「あたしの焼き鳥があ〜」
「だから、違うってば」
　どれだけ焼き鳥が食べたいんだと、セレアナ・ミアキスが溜め息をつきました。
　そのときです、どこかで真っ赤な光が、目映く輝きました。
「愛と正義と平等の名の下に！　革命的魔法少女レッドスター☆えりりん！」
　藤林　エリス（ふじばやし・えりす）が黒と赤のホルターネック型のセパレートのレオタードを着た魔法少女に変身していきました。
「アルティメットモード！」
　さらに、強化モードへと二段変身します。藤林エリスの足許に赤い星が現れて、クルクルと回転を始めました。露出の多かった魔法少女コスチュームが溢れ出るパワーに千切れ飛び、代わりに青と白を基調としたドレスが藤林エリスの身体をつつんでいきました。ドレスには、胸元に大きな花があしらわれています。手には白いガントレットをはめ、足には白いストッキングを穿き、青いハイヒールを履いています。
「人民の敵は粛清よ！」
　藤林エリスがポーズを決めました。
「はははは、なーにが鷽空間よ。そんな物があるなら、すべての者が真に平等な世界を見せてごらんなさいよ。鳥頭で、そんな物想像できるはずないけれどもね」
　そう言うと、藤林エリスがまじかる☆くらぶを高く掲げました。
「くらえ、シューティングスター。みんな平等に焼き鳥よ！！」
　どかどかと空から真っ赤に燃えた星形の物体が落ちてきて、藤林エリスの前にいた鷽たちに降り注ぎました。星の光が、鷽たちをこんがりと焼きます。
「しまった、先を越されたわ。これじゃ、鷽たちが焼き鳥に……」
　まだ塩もタレも串も用意していないと、セレンフィリティ・シャーレットが焦りました。
　ところが、その願いと煩悩と食欲が通じたのか、星の直撃をくらった鷽たちが、こんがりと串に刺されて焼かれた焼き鳥になってしまったのです。
「うそや〜きゃ〜」
　ねぎまとレバとハツとポンジリと手羽とつくねがキャーキャー言って逃げ回ります。
「逃げるな、待てー！」
　本能につき従って、セレンフィリティ・シャーレットが焼き鳥を追いかけ回しました。食べる気満々です。
「ちょっと、セレン、そんな物食べたらお腹壊すわよ」
　あわてて、セレアナ・ミアキスが相棒を止めようとしました。
「こ、これは……。こんな食べ物で人心を掌握しようなどとは……。許せないわ！」
　食べ物で人を釣るなんてサイテーっと、藤林エリスがどかどかと星を降り注がせました。
　むきになって星を落とす魔法少女、キャーキャー言いながら逃げ回る焼き鳥串、それを追いかける腹ぺこ少女、それを追いかける相棒と、すでにカオスです。
「お嬢さん方、この魔界ハンター貴仁が……。どれをどうやって助ければいいんだ……。混じりたくない……」
　モザイクに被われて何がなんだかよく分からなくなった生体要塞ル・リエーから逃げてきた鬼龍貴仁が、その様子を見て思いっきり躊躇しました。生体要塞ル・リエーを見てガリガリ削られた気力がまだ回復していないのかもしれません。
「まったく、食べ物になったんなら、大人しくしていなさい！」
　セレンフィリティ・シャーレットに群がろうとする鷽焼き鳥を、セレアナ・ミアキスがサイコキネシスで吹き飛ばしました。飛ばされた鷽焼き鳥が、ポンポンと爆発して分裂します。
「増えたわ」
　じゅるりと、セレンフィリティ・シャーレットが恍惚の笑みを浮かべました。
「びょーどー、びょーどー」
　群れとなった鷽焼き鳥が、藤林エリスに群がります。
「ちょっと、来ないでよ。服にタレがつくじゃな……」
　全身を鷽焼き鳥にたかられた藤林エリスが、たまらずサーチアンドデストロイで鷽焼き鳥を弾き飛ばしました。ところが、鷽焼き鳥にたかられた藤林エリスは、鷽焼き鳥と平等の巨大な焼き鳥の姿になってしまっていたのです。
「きゃー、何よ、これ！」
　ピョンピョン、クネクネと飛び跳ねながら、藤林エリスが叫びました。飛び跳ねる巨大焼き鳥に、走り回る小さな焼き鳥たち。シュールです。
「ほら、あんなの食べたら、あなたも焼き鳥になっちゃうわよ！」
　セレアナ・ミアキスが、今まさに鷽焼き鳥をつかみ取ろうとしていたセレンフィリティ・シャーレットの手から、サイコキネシスで鷽を弾き飛ばしました。
「うそびょーどー、うそびょーどー」
　その一瞬の隙を突いて、鷽焼き鳥たちが一斉にセレアナ・ミアキスに群がろうとしました。
「危ない！」
　一瞬早く、セレンフィリティ・シャーレットがポイントシフトでセレアナ・ミアキスをだきかかえて脱出しました。振り返り様に鷽焼き鳥を狙撃して倒します。
「あーあ、もったいない……。まあ、セレアナが無事でよかったわ。だって、セレアナが焼き鳥になったら、あたし美味しくいただきそうで……」
　セレアナ・ミアキスの肩に手をおきながら、セレンフィリティ・シャーレットが言いました。いろんな意味で危ない発言です。さすがに、セレアナ・ミアキスが後退りました。焼き鳥の姿だと、純粋に食べ物として食べられそうに感じたからです。
　そのときの勢いで、セレアナ・ミアキスのレオタードがびりびりに破けました。セレンフィリティ・シャーレットが掴んだままだったからです。壊し屋セレンの本領発揮でした。
「こんな所で、本領発揮しなくてもいいから！」
「いや、これはこれで美味しい……」
　あわてて両手で身体を隠すセレアナ・ミアキスに、セレンフィリティ・シャーレットが固唾を呑みます。
　そのとき、二人の背後で何かが噴き出しました。
「ふっ、お嬢さん方、俺に惚れちゃいけねえぜ……」
　鼻血の海の中で倒れたまま言う台詞ではありません。けれども、一気に失われていた鬼龍貴仁の気力が復活したようです。それとも、気力ではなくて煩悩でしょうか。
「ささ、お嬢様方、俺と魅惑のハーレムに……。あれっ？」
　タンと、勢いよく起きあがった鬼龍貴仁でしたが、すでにセレンフィリティ・シャーレットたちの姿はそこにはありませんでした。