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花咲けお花見☆

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花咲けお花見☆

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花より恋

「これって……?」
 それは、モーベットがムティル達の元に行く少し前の出来事だった。
 梅見の準備をしていた北都は、クナイ・アヤシ(くない・あやし)と共にモーベットに手招きされた。
 何かなと行ってみると、いきなり手を取られ北都の右手とクナイの左手をリボンで結ばれてしまった。
「え、これは何?」
「折角のイベントだから、くっつくべきだろう。主は自分から動くタイプではないし、そこの守護天使はヘタレだからな」
「い、いやそういう事ではなくて、ですね……」
「それもそうかもしれないねぇ」
「えっ……」
「折角のホワイトデーイベントだしねえ」
「あ、そういう事ですね」
 モーベットは黙ったまま頷くと、どこかに行ってしまった。
 どうやら、『親切』の花言葉そのままの行動、らしい。
「で、ではこのままで……ん?」
 クナイは、北都の視線に気づく。
 サンドウィッチを見ている。
 クナイがそれに気づいてくれることも、折込済みで。
「こちらを、ご希望ですか?」
「うん」
 右手が動かせない北都に代わって、サンドウィッチを手に取る。
 そしてそのまま北都の口へ――
「はい、どうぞ」
「あーん」
 ぱくり。もぐもぐ。
 小さく動く北都の可愛い口元を眺めていたクナイは、ふと気付く。
「ああ、お口の端にタマゴが。今お取りしますね。――それとも、私の口で頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん? んーん、駄目……」
 北都はサンドウィッチを飲みこむと、ぺろりとタマゴを舐め取り、クナイの耳元に顔を近づけた。
(それは、部屋に帰ってから……ね)
(分かりました。後で沢山、いただきますからね)

   ◇◇◇

 白梅の下に、ピンク色のロングウェーブの髪が揺れる。
「えへへ……千百合ちゃん、いい香りねぇ」
 冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)の笑顔が零れる。
 もっとその笑顔を見ていたいけど、今日はそれだけじゃ足りないの。
「そお? 別に大した事ないんじゃない」
 あえて、出来る限り冷淡な声で冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は答える。
 それだけじゃない。ぷいとそっぽを向いてみる。
 それでも日奈々はくじけない。
 頭に咲くのはヤマユリ。
 花言葉は『飾らない愛』そして『人生の楽しみ』。
 その名に恥じない素直な愛情を千百合に見せる。
「え、あ、でもね。千百合ちゃんの方がもっといい香りですぅ」
 更なる笑顔で千百合を包み込むべく、彼女の腕にそっと自らの腕を絡める。
 甘えた様子で。
 千百合に甘えるのは、日奈々の人生の楽しみそのものなのだから。
 しかし。
「そんなの、くだらないね」
 千百合は即座に腕を振りほどく。
「え、えぅ、千百合ちゃん……千百合ちゃんがくだらなくっても、私、千百合ちゃんのこと愛してるんですぅ」
 さすがの日奈々の瞳にも、涙が浮かぶ。
(ああ、素敵……!)
 そんな日奈々を見て、千百合は心が浮き立つのを止めることができなかった。
 千百合の頭に咲いているのは、竜胆。
 花言葉は『悲しんでいるときのあなたが好き』。
 花言葉の中でもトップクラスのどうかしてるマイナス意味の花言葉。
(うぅう、悲しそうにしてるあの姿、たまらないよぉ……!)
 暫し、日奈々の涙を鑑賞する。
(……よし、これくらいでいいかな)
 千百合はふいに、涙ぐむ日奈々に寄り添った。
「ね、ぎゅってして、いい?」
「ち、千百合ちゃん! もちろんだよぅ……」
 ふいに甘えはじめる。
 竜胆には『あなたの哀しみに寄り添う』という意味もあるのだ。

   ◇◇◇

 はらり、はらり。
 梅の花が散る様に。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の大きな瞳から、大粒の涙が零れた。
「ど……どうしちゃったのセレン!」
 驚いたのは恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 セレンフィリティの行動の大胆さとそれがもたらすとんでもない結果には、セレアナは慣れっこの筈だった。
 今日だって、彼女がホワイトデーのお菓子を手作りするというのを必死で阻止してきたばかり。
 だけど、これは想定外だ。
 というか反則だ。
 セレアナ手作りのクッキーを渡した途端、セレンフィリティは泣き出したのだから。
「ど、どうしちゃったの? どこか怪我とか……?」
「ううん。違うの」
 口を開いたセレンフィリティは、とてもとても穏やかな声をしていた。
 そして、頭には花。
 ルピナス。花言葉は『いつも幸せ』『貪欲』『安らぎ』『母性愛』『空想』。
「痛いとか、苦しいとか、悲しいとかじゃないの。すごく……すごく、幸せで」
 セレンフィリティは涙を拭く。
「涙って、悲しい時に流れるだけじゃなかったんだね」
「セレン……」
(いやいやいやいやいや、どうしちゃったの!?)
 その言葉に、いつも以上に動揺を隠せないセレアナ。
(キャラが、キャラが違う!)
 慌てて彼女の涙を拭いたりしながら、しかし、セレアナは思う。
(たまには、こんなセレンもいいかも……)
「ね、私のクッキー、食べてくれないの?」
「あ、うん、食べる」
 肩を寄せ合い、セレアナはセレンフィリティの口元へクッキーを運ぶ。
 さくり。
 さくさくり。
 クッキーがセレンフィリティの歯型を残す。
 食べ終わったセレンフィリティは、セレアナの肩を抱く。
 そしてそのまま、唇を合わせる。
 長い長い間――

   ◇◇◇

「え、ええと、梅が綺麗だね」
「うん(コハクの方が綺麗……)」
「このお弁当、美羽が作ってくれたんだね。美味しそうだね」
「うん(コハクの方が美味しそう……)」
「ええと、美羽?」
「うん(ああコハク……)」
 ガン見。
 まさにガン見。
 ただひたすらに恋人の顔を見つめ続ける小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は困惑するばかり。
 一体どうしたこうなっちゃったんだろう……
 会場に着くまでは、こうじゃなかった。
 二人で一緒に出かけたんだ。
 美羽は、早起きして作ったんだよーって嬉しそうにお弁当を見せてくれたっけ。
 だけど、会場に就いた途端、美羽の頭に花が咲いてそれから何だかおかしくなって。
 美羽の頭の花、あれは何だろう。
 心配そうに彼女に咲いた花を眺めるコハク。
 美羽の頭の花は、クレオメ。
 花言葉は『あなたの容姿に酔う』だったりする。
 そんなわけで、美羽はコハクから目が離せなくなった。
 コハクの方も、別の意味で美羽から目が離せない。
 既に花なんか見ている余裕はない。
 傍から見れば爆発物のラブラブカップルだ。
「ええと、美羽、お弁当食べないの?」
「うん(むしろコハクを……)」
「ほら、食べさせてあげるから。この卵焼き、おいしいよ。はい、あーん」
「うん(きゃーきゃーコハク大接近!)」
「次は、タコさんウインナーね。はい、あーん」
「うん(きゃーきゃーコハクがタコさん持って!)」
(ああもう、話しかけていないと居たたまれないよっ!)
 自分を見てくれるのは嬉しいが、こんな状況はさすがに照れくさい。
 そんあわけで、延々と中身のない会話が続く。
 そんなやりとりが、美羽の花が枯れるまで延々続いた。

   ◇◇◇

 白に負けないその白さ。
 白梅の中、一輪の白いツバキが揺れる。
 彩光 美紀(あやみつ・みき)の頭に咲いたツバキの花。
 花言葉は『申し分のない愛らしさ』。
 その名に恥じない美しさ愛らしさ満載の美紀に、傍らのセラフィー・ライト(せらふぃー・らいと)の心も燃え上がる。
(はあはあはあ美紀可愛いです美紀。あわよくば、この梅見の最中にあんな展開やこんな展開が……)
 セラフィーの頭にも花が咲いている。
 咲いているのはスグリ。
 花言葉は『期待』。
 美紀の愛らしさにやられて頭の中もお花畑なのか、彼女の頭にはもうそれだけしかない。
「あの、セラフィーさん」
「な、何ですか美紀さん」
 美紀は、手に持っていたお菓子やクレープをセラフィーに手渡した。
「これは?」
 も、もしやこれは美紀さんの手作りのアレコレ!? 私のために!?
 思わずテンションが上昇するセラフィーの期待を打ち砕くかのように、美紀は笑顔で説明する。
「あっちの、主催者さんやそのお友達の方々が配ってくれたのよ。美味しそうなお菓子ね」
「そ、そうですか……」
 一瞬落ち込むがしかし即座に次の期待に胸膨らませる。
 ここは、あーんしかないじゃないですか!
 しかし美紀にとってセラフィーは純粋に憧れの存在。今のところは。
 仲良くなりたいとは思っているものの、そんな親密な接触にまで思い至らない。
「美味しいわねー。このクレープも、んっ、中のクリームが美味しい……」
 唇についたクリームを舐める美紀。
(ふおおおお、美紀さんの舌が、舌がっ!)
 期待に延々と胸高鳴らすセラフィー。
 しかし、期待はいつまでも期待。
 彼女が行動に移さない限り、いつまでたっても期待のままだが……
 なんだかそれでも幸せそうだった。