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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:武道大会ソロ部門−久瀬VSエヴァルト−

 銃弾がエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の頬をかすめた。
 一筋の赤い線が奔り血が滲んだ。
 エヴァルトは無造作に頬を擦り、血が付いた指を見つめる。
「模擬弾だよな?」
「もちろんですよ……当たったらそれなりに痛いですけどね」
 久瀬 稲荷(くぜ いなり)が銃を構え直した。
 互いに距離を取っている姿を見て馬場が口を開く。
「銃器による牽制、久瀬君は戦術的にオーソドックスな手段を取ってきのであるな」
 彼女の隣、ゲストとして呼ばれた紫月が続けた。
「かたや素手のエヴァルト選手は分が悪いと見るのが普通でしょうが……さきほどからの動きを見る限り、明らかにエヴァルト選手が優勢でしょう」
「うむ。相手の動きを先んじて読み、避けているように見受けられるな」
「ですが前に述べたとおりエヴァルト選手は無手。どのように攻めるかが注目――」
 紫月の言葉が終わらないうちにエヴァルトは動いた。
 久瀬が引金を引いた、その瞬間を狙っての行動だった。
「無手勝流、エヴァルト・マルトリッツ、推して参る!……ってな」
 彼は言うと前傾姿勢をとって前へと進む。
(早いですね――っ!?)
 迫るエヴァルトを見ながら久瀬は心の内で舌打ちをする。
 カチン、と引金の音がした。
 しかし発砲音は鳴らなかった。弾切れだ。
 装填する暇はない。
 久瀬は早々に判断すると銃を手放した。
(ここで武器を捨てるのかよ……コイツの左腕、継ぎ目があるな。義肢か?)
 エヴァルトは久瀬の腕に注意を払いながら鋭い一撃を放った。
 避けようと久瀬が身体を逸らす。だが避けきることはできない。
 打撃を肩で受ける。衝撃が骨を伝い、痺れが指の先まで奔った。
「ぐぁっ!」
 くぐもった声が漏れた。
 殴られた勢いで身体が後方へと押し出される。
 体勢を崩しながら久瀬は左手をエヴァルトへと向けた。
 手のひらから手首にかけてが開閉し、内側からバレルが展開される。
「何かあるだろうとは思っていた!」
 エヴァルトは言うと即座に後方に跳んだ。
 刹那、銃弾がいくつも跳ねる。
「思ったより反動がでかいですねえ……コレ」
 久瀬の義肢から硝煙が生まれ、バラバラと薬莢が辺りに散らばった。
 反動が強かったのだろう。上手く腕を動かせないらしく挙動が怪しかった。
 それを見逃すほどエヴァルトは甘くなかった。
「こいつで終わりだぜ!」
 離れた距離を一蹴りで縮め、手のひらを久瀬の胸に打ち込んだ。
 下から上へと打ち上げるような掌底は久瀬の身体を浮かせる。
 身体が後方に跳ね、受けた勢いそのままに久瀬は闘技台の上を転がった。
 彼は仰向けに寝転がりゲホッと咳き込んだ。
「……これは勝てる気がしませんね……そこそこ腕には自信があったんですが……」
 余程堪えているのだろう。
 久瀬は胸に手を当てたまま身体を丸めている。
「ちとやりすぎたか」
「いえ……まあ、これも……勝負ですから、ね」
 苦笑いをエヴァルトに向けた。
 倒れている久瀬に肩を貸すと、エヴァルトはそのまま連れ立って医務室へ向かった。

 司会席から声が届く。
「終わってみればあっけない幕切れとなったな」
「うむ。元々の実力差もあったが、久瀬選手の不調も敗因の理由であろうな」
「……ところでいつまで俺はここにいればいいんだ?」
「久瀬選手と交代の予定であったが……思ったよりもダメージが深そうだ。彼は医務室行きになるのでもうしばらく頼む」
 馬場の返答に紫月はため息を吐いた。