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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:武道大会ソロ部門−高崎 トメVSウルスラグナ−

 次の出場者が姿を現すと会場内がどよめいた。
 ゲストとして解説席へ呼ばれた舞香と綾乃の両名も唖然としている。
「なかなかに鍛えられた良き肉体であるな」
 出場者の一人、高崎 トメ(たかさき・とめ)の水着姿を見ながら馬場は言った。
 彼女の隣には高崎 朋美(たかさき・ともみ)の姿もある。
 付き添いなのだろう。彼女は手入れしたばかりの銃器をトメに手渡していた。
「おばあちゃん、本当にその恰好で戦うの?」
 心配そうな声だ。
 トメはかんらかんらと笑うと朋美の髪をバサバサと力強く撫でた。
 髪が乱れて顔をしかめるがすぐに笑みへと変わる。
「無理せず頑張って」
「任せよし。れでぃらしゅう優雅に戦ってみせましょ」
 対戦相手、ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)がトメから目を逸らす。
 ため息を吐くと向き直った。
 その視線は鋭い。
「どのような相手であろうと我が手を抜くことはないのだよ」
「良い気迫おすなぁ」
 朋美が闘技台から降りると試合が始まった。

 ジャッ、という音とともに銃口がウルスラグナに向けられた。
(距離を詰めるのは容易いであろうが……)
 彼は思うが前へは出ない。
 相手の手の内を見ずに勝負を決めにゆくほどウルスラグナは若くはなかった。
 その容貌からは窺い知れないほどに彼の思慮は深い。
「先手を討たせてもらいますえ」
 トメは背負った大筒を落とした。
 包んでいた布が解かれ中身が露わになる。
「っ! それが本命か!?」
 ウルスラグナはそれが何かを理解すると槍を構えながら彼女の周囲を回るように動き、少しずつ距離を狭めていく。だが――
「こっちも本命どす」
 ドラムマガジンの付いた銃器を彼に向けて撃った。
 ダダダダダッ! と止むことなく銃弾の雨がウルスラグナに襲い掛かる。
「むうっ――」
 彼は手にしていた盾で攻撃を防ぐが見るからに動きが遅くなった。
 その隙にトメは足元に落とした『それ』こと機関銃を蹴り、ウルスラグナに照準を合わせた。
「見た目以上に危ないおばあちゃんね」
「はい、これはまいちゃんの分ね」
「ありがとう。とてもおいしいわよ♪」
「よかったー」
 機関銃による掃射が行われている様子を見ながら、舞香は綾乃の用意したお弁当に舌鼓を打った。その隣では馬場が真面目に解説をしているが、傍から見ればシュールな光景だ。
 そんな彼女たちの様子など意に介すことなく二人は試合を続けている。
 トメの攻勢が続くかと思われていたが変化が生じ始めていた。
 ジャリ、ジャリ、と薬莢を踏み締めながらウルスラグナは前へと歩む。

 彼に転機が訪れた。

 ガチンッ! という空音が耳に届く。
 トメの判断は早い。
 弾切れと認めるや否や、後方に下がりながら空のマガジンを破棄して腰に吊っていたドラムマガジンを装填した。カシャ、ガシャンと小気味よい音が鳴る。
 だがウルスラグナの判断も早かった。
「一撃必殺が我が信条。この一撃避けれるか?」
 空いた片手で槍の頭を押さえての突進だ。
 あれだけ槍を固定されては弾くのは至難であった。
 かといって全身全霊の一撃であろう貫通力を無効化できる要素はない。
「――どないしましょ……っ!」
 ちらりと、トメは転がっている機関銃に視線を送る。
(間に合うか微妙どすなあ)
 悩んでいる間にも身体は動いていた。
 彼女は迫りつつあるウルスラグナの方へと駆け出した。
 彼とトメの間には機関銃が転がっている。
「せいっ!!」
 眼前、槍が迫っている場面でトメは機関銃の端を力の限り踏み込んだ。
 ゴンッと重い音を立てて機関銃が起き上がる。
 位置はウルスラグナとトメの間だ。
 ――ガキイイインッ!
 重々しい音と振動が周囲に広がった。
 攻撃は防いだ。だがその勢いまでは殺し切ることができない。
 機関銃ごとトメは吹き飛ばされた。
「……かはっ」
 あまりの衝撃に息ができなかったのだろう。
 トメは転がったまま咳き込んだ。
「すとっぷ! すとーっぷ!!」
 朋美は駆け足でトメの元へ駆け寄ると抱え起こした。
 ごほごほと咳き込む彼女を背負いながら言う。
「無理しちゃダメって言ったのに……棄権するからね?」
「……コホッ、局地戦なら勝てる自信もありはりましたのになぁ……」
 トメは苦笑するとウルスラグナを見やった。
 彼も同じようにトメを見る。
「たしかに視界の悪い場所で戦っていたら結果は逆だったかもしれん。……良き仕合だったな。次の機会があればまたお手合わせ願おう」
 ウルスラグナが手を差し出した。
 トメも同じように手を伸ばす。
 握手を交わす二人を視界におさめながら馬場が口を開いた。
「勝機を見逃さずに攻めきった手腕は見事である。高崎選手も老いてなお輝く身のこなし、素晴らしかった!」
 観客の拍手に見送られながら朋美たちは医務室へと向かった。