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リアクション
■幕間:武道大会ソロ部門−中願寺VS高月−
「次の試合は顔の窺がい知れない注目のカードだぜ!」
「……さっきまでの疲れっぷりが嘘のようであるな。しかし本当に何者なのか」
解説席で猪川と馬場が出場者の紹介を始めた。
促されるように闘技場に二つの影が姿を現す。
「僕は飯綱君(いづなのきみ)、ただの参加者ですよ」
狐のお面で顔を隠した高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)がぺこりと頭を下げる。
一振りの剣を構えて相手を見据えた。
視線の先、眼帯で目を覆った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の姿がある。
背からは漆黒の翼が生え、同様に漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を身に纏っている。
黒で統一された服装に乳白金に輝く髪は映えて見えた。
「何はともあれ、お手柔らかにお願い致しますわ」
彼女は告げるとドレスの裾を摘み、優雅にお辞儀をする。
相対する二人を前に銅鑼が鳴り響いた。
戦いはすぐに膠着状態の様相を呈した。
「雷よ!」
高月が御札を手に印を結ぶと稲妻が降り注ぐ。
雷鳴が響き、光の奔流が中願寺を呑み込もうとする。
彼女は翼を羽ばたかせながら中空に身を置いて避けた。
一撃、二撃、三撃、と続けざまに放たれる雷撃をひらりひらりと躱し続ける。
「行きますわ」
呟くと彼女は身をひるがえし、高月との距離を縮めた。
炎を纏った槍で薙ぐ。
「間合いの内に入られては困りますよ」
彼は剣で槍を捌くと剣先で印を結んだ。
すると小さな光球が中願寺の周囲に展開する。
「これは……結界?」
「無理に出ようとすれば痛い目に遭いますよ」
高月は言うと両手に意識を集中した。
片手には炎が生まれ、片手には雷が生まれる。
「この一撃でとどめだ! 炎雷双極陣!」
炎と雷が螺旋状に束ねられ彼女に襲い掛かった。
中願寺の視界には光の奔流が迫る姿が見えていた。
「痛い目に遭うのはどちらかしら」
突如、彼女の周囲が黒く染まっていく。
闇が滲んでいくような光景であった。
光の奔流ごと高月自身も闇に姿を消してしまう。
音もない。急展開に観客席にも静寂が訪れた。
しばらくして視界が晴れる。
闘技台の上には傷ついた姿の二人があった。
互いにダメージを受けている様子だ。
「決め手に欠けるわね」
「それはお互い様です」
言い、距離をとろうと後方に跳んだ高月の視界が白に染まる。
中願寺の周囲で猛吹雪が巻き起こったのだ。
「――くっ!」
両の腕で吹雪を防ぎながら御札を手に印を結ぶ。
彼を守るように周囲で雷が落ちた。
だが相手からの反応はない。
(どこに消えた?)
そして気付いた。
天を仰ぐように見上げる。
そこには槍を手に急降下してくる中願寺の姿があった。
「これで終わりにしますわ」
「終わらせません」
高月の頭上、中願寺との間に黒い洞が生まれた。
それが危険だと判断したのだろう。
彼女は軌道を変えるとその場から離脱した。
このように互いに攻めきれない展開が長々と続くことになった。
互いの顔に疲労の色が窺がえるようになった頃、中願寺が口を開いた。
「……棄権致します。なんだか飽きてしまいましたわ」
「――え?」
会場内も『えっ?』で包まれた。
まだ続くであろうと思われていた試合が中願寺の一言であっけなく終わってしまったのだ。唖然とするのも仕方がないといえる。
彼女は試合を始める時と同様にドレスの裾を摘まんで頭を下げた。
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