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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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第4章 誰が町人を殺した?
「……」
 それからマリア達は、取り残された町人達が居ないか探し回ることにする。
 しかし、マリアはどうしてもすっきりしない表情で、ずっと歩いていた。
「ねえ、マリア。テンプルナイツって信者ノルマでもあるの?」
「え……?」
 藤林 エリス(ふじばやし・えりす)はマリアの気を紛らわせるようと、声をかけた。
「ノルマっていうものはありませんが、グランツ教を広め、信者をたくさん増やせと毎日言われます」
「ふーん……それとさ、あんたはどうして魔物の襲撃が人為的なものだって思ったの?」
 マリアはしばらく考え込むと、一枚の羊皮紙の手紙を取り出した。
 それは、信者による、司祭が魔物と話してるところを見たという手紙だった。
「魔物達と会話していたのが、司祭でないにしても誰かが会話してた可能性は高いから……」
「司祭に聞いてみたのそれ?」
「すっかり聞けないままでした」

 司祭は先ほどまで行動を一緒にしていたが、教会に信者が居るかもしれないと突然走り去ってしまったのだった。
「何にしてもその信者、隠蔽工作のために殺された可能性がたかいわけね」
 先ほどから神妙に考え込みながら、聞いていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が声を出した。
 その言葉にマリアは頷かざるえなかった。
 やはり、あの青年は私に情報を伝えたせいで死んでしまったかもしれないと……マリアは考えていた。

「犯人も大事だけど、今は残った町の人達を探さないとね!」
 マリアを励ますように小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言う。
 美羽はマリアを見かけるなり、町の人を助けるために手伝うと同行してくれていたのだった。

「あら? あの若くてかわいい青年を殺した犯人を捜してるの?」
 再び魔女の声が響くと、その姿を空に現した。
「あ、魔女さんだやっほ〜!」
 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)は、姿を現した魔女を見るなり飛び跳ねるようにして喜んだ。
「これ、ぜーんぶあなたがやったの? ちょっとサービスしすぎじゃない?」
「ふふ……そうかしら」
「でも、ちょっとサービスしすぎじゃないかなあ。
魔女なんだからもうちょっとミステリアスにひっそりしなくちゃ」
「ふふっ、なかなか面白いわねあなた」
 アスカの説得に魔女は気分がよさうに話し始めた。
 もしかすればこのまま引き下がってくれるかもしれないとおもったエリス達だったが
魔女は突然、空を指さした。
「子供達が!!」
 思わず、マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)は悲鳴を上げた。
 空は暗く、また紅蓮の色にうっすらと雲が照らされていた。
 しかし、よく見ればそこには4人組の子供達がゴブリンに囲まれている映像が映し出されていた。
 おそらく、魔女の魔法による投影だった。

「なぜ、次々と罪の無い人達を襲うんだ!」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が【日輪の槍】を構え、魔女に聞く。
 魔女はそれを鼻で笑って返した。
「さあ〜ね〜? ただ、楽しいからじゃ無い?」
「そんなことのためにっ――!」
 コハクは怒りにまかせ槍の先は魔女へと突き進める。が、魔女は瞬間移動しそれを避けられてしまう。

「おやおや、怒らせちゃったかしら〜? まあ……茶でもどう!」
 魔女はたすき掛けベルトにつけてあった試験管を取り出すと、中に入っている液体をコハクに向けて振りまいた。
 コハクに直撃こそはしないが、突如脱力感にコハクは襲われた。
「なっ……力が奪われて……いく!?」
「コハク!」
 攻撃する気力を失い、ゆっくりと地上へ降りてくるコハクに美羽は駆け寄った。
 ただ、目立った外傷などはなく。単に生気のようなものを吸われたようだった。

「ふんっ、そう簡単に私はやれないんだってんだ」
「あなた青年を殺した犯人を知ってるって言い方だったわね」
「ん? ああ、どうかしらね〜っ。でもそれどころじゃないみたいよ?」
 祥子の言葉に魔女は、にやりと笑みを浮かべた。
 魔女は片手でぱちんっと、指パッチンをならすと空に写しだされたゴブリン達は子供達へとゆっくりと歩み始める。
「何を!?」
「ふふ。あなた達にこの人達を助けられるかしら?」
「待てっ!!」
 マリアの制止の言葉などまったく聞こえないというように、魔女は再び姿を消してしまった。

「あの映像……マリア、さっき通った噴水だよ!!」
「ええ。皆さん行きましょう!」
 先ほど子供達が襲われている映像を思い返す、美羽はその場所を覚えていた。
 マリア達はすぐにそこへ向かうのだった。

「うぇええええええええええんっ」
「こわいよぉ。おかあさん!!」
 マリア達が着くと、子供立ちは目の前に迫るゴブリン、さらには空を飛び回るファイヤーワイバーンに恐怖を感じ、泣き叫んでいた。

「そこまでだよ!」
「グルル?」
 子供達へ迫っていた6体のゴブリン達へ、美羽が声を上げると一斉にこちらへ振り向いた。
「一気にカタをつけましょう!」
 祥子が先陣を切り、【真空斬り】でゴブリン達だけにダメージを与える。
「子供たちには当てないように気を付けてください!」
「わかってる!」
 美羽はマリアに注意を促されると軽く頷いた。
 それを合図に、美羽は二丁拳銃で、マリアは1丁でゴブリン達を次々と狙い撃ち瀕死にさせていく。
 ゴブリン達を倒し終えると、美羽とマリアは素早く子供たちへ駆け寄り無事を確認した。
「大丈夫?」
「うわああああああああんっ、こわかったよおおおっ!!」
 泣きじゃくる子供たちを、マリアはなだめた。

「グオオオオオオオッ!」
「来るよ!」
「子供たちを安全なところに!!」
 空からワイバーンが炎を吐き出そうとするのを察知した美羽は、マリアに警告を発した。
 しかし、ワイバーンの炎が吐き出される前に【一騎当千】と【ブリザード】により、ワイバーンは口を凍らされてしまう。
 それを援護するように美羽とマリアは援護射撃するも、ワイバーンは逃げてしまった。

「逃げられた……わね」
 ふうとため息をつきながら、祥子は剣を鞘になおした。
「あの、推測なのですが。もしかしたら、司祭と魔女はグルなのではないでしょうか」
「え?」
 何かを思いついたようにマルクスは言った。
「あの魔女の言い方、まるで真犯人がいるという言い方でした。もしもそれが司祭ならいろいろ結びつきます」
「そうね」
「おねえちゃんたち」
 突然、先ほどまで泣いていた子供のうち、一人の少女が声をかけてきた。
 マリアはしゃがみこみ、「どうしたの?」と声をかけた。
「わたし、見たの。あのグランツのしさいさま、怪しい女の人と話をしてたの」
「怪しい女の人……それってまさか、三角の帽子をかぶった魔女みたいな人?」
 美羽の問いかけに女の子は小さくうなづいた。
 その答えはマリアにとって、まさに衝撃的で決定的な証拠となってしまった。
「マリア、大丈夫?」
「……」
 エリスの気遣いに答えられるず、ただその場に立ち尽くすことしかマリアはできなかった。
 マリアの頭の中ではこれから司祭を捕まえるしかないこと、それを否定したい自分の葛藤が繰り広げられていた

「マリア。これはグランツ教がどうとかいう問題じゃ無いわ。1人の悪人を裁く、裁かないの話なの。
法の裁きは万人に対して公正になされなければだめよ。国とか宗教とか関係なく、魔女であろうとも司祭であろうとも」
「事実の上で裁くために今は正しい証言を集める、それが無くなった人達、信者の人のためだと思うわよ」
 祥子は諭すように、マリアに話す。
「そうだよ、まだショックを受けるのは早いよ! ほら、もしかしたら何かまだ知らない事情だってあるかもしれないでしょ」
「そ……うですね。わかりました。死んだ信者の方のためにしっかりしないといけなかったですね」
 マリアは美羽の言葉を受け、ゆっくりと頷いた。
 司祭の潔白を晴らそうとする考えを捨て、マリアはこの事態を起こした悪党を裁こうという気持ちへと次第に変わっていくのだった。