リアクション
古城、食堂。
「リリトの目撃証言と以前、聞き込みで得た目撃証言から魔法使いさんはあの忌々しい魔術師である事が確定したのぅ」
開口一番は羽純の忌々しそうな言葉だった。リリトの目撃証言の他に迷惑効果が付加した石がばらまかれる事件で聞き込みをした男性の目撃証言を思い出していた。酔っぱらっていても一目で魔術師と分かるのならそれなりの格好をしているのだろうと魔法使いさんの裏付けに使用した。
「ただの幽霊の女の子があれほどまでの事が出来るのかな」
北都がもっともな疑問を口にした。
「会った時に妙な感じがした、ですね。そこに魔術師が何か介入している可能性があるような気がするのですが」
クナイが聞いたリリトの話に変死伝説の原因を感じていた。
「そうだな。妙な力をリリトが知らない間に与えて事件を起こさせたと考えるべきだろうな。以前、会った時に対策をしたおかげでその力の呪縛を緩めて前住人は記憶を思い出し始めおそらくリリトの説得が上手くいった事にも繋がるだろうな」
甚五郎が今回の事件の流れを推測と共にまとめた。
「私もその通りだと思います」
舞花は説得が成功した時の大泣きするリリトの姿を思い出していた。憑き物が落ちたようなあの感じは怨念から解放されただけでは無いような気がしていた。
「今までと似たような事だから驚きはしないが、この状況がただの放置なのか実験の最中か分からないのが困るね」
陽一は魔術師関連の全ての事件を思い返してから言った。状況はこれまでと同じなのだ。
「……それでリリトは自分やワタシ達とは違ってぼんやりとする姿だったと言っていたのよね。つまり幽霊でも実体でも無いという事かしら。それならどういう姿からしら? 幻? 何か別の存在? どちらにしろなかなか興味深い存在のようだけど」
どこぞの魔術師に興味を持つシオンも参加していた。
「そこが分からないよな。長生きなのは驚く事じゃねぇし」
ベルクもリリトのふわふわした証言に考えを巡らしていた。長命についてはこの世界では特筆する事ではない。
「現段階での共通事項はこのイルミンスールで発生している事だな。確認出来ている発生数が少ないため確定は出来ない上にそれが目的を持ってなのか気まぐれかも分からない」
ダリルは今現在で明確である共通点を挙げた。
「目的があったとしても人の手に余る事かもしれない、だよね」
とルカルカはティル・ナ・ノーグのとある森にいるフウラ祭司の私見を思い出した。
「……この名も無き旅団の手記に出ている魔術師も同一人物のようだね。今回の事件と類似している事に嫌な予感を感じる。ただ、手記の方は事件場所が書かれていないけど」
陽一は新たな手掛かりを挙げた。
「そうですね。一致しているのが事件の内容だけなのか、場所だけなのか、それとも両方なのか分かりませんからね。ただ、繰り返し行っているようでしたら、この手記が書かれた年代を起点にして奇妙な事件が無いか洗ってみてもいいかもしれません。先に起きた二つの騒ぎと似たものがあるかもしれません。何より……」
舞花が対策を立てる際の一つの例を挙げた。そうする事で肝心な事が分かる事もある。
「先に起こるかもしれない事件が分かるかもだね。そうだ、ルカが記憶を読み取ってみるよ。貯蔵庫では何も得られなかったけどこれなら何か得られるかも」
ルカルカが舞花の言葉を先回りした後、名案を思いついた。リリト説得成功後、入れ違いでフレンディス達とルカルカ達は貯蔵庫に何か痕跡は無いかと向かったが空振りに終わったのだ。
「……どうですか?」
フレンディスが『サイコメトリ』を使用したルカルカに訊ねた。
「……事件の事は分からなかったけど、手記を書く細い手に焦りとか恐れを感じたよ。仲間を失ったから悲しみとかあると思ったんだけど、それが全く無いよ。それよりオルナが魔法薬をかけたりとか散々な扱いをしている姿の方がはっきりと読み取れたよ。オルナの方が強烈なのか旅団がなるべく記憶に残らないようにしているのかは分からないけど」
読み取ったルカルカは肩をすくめながら答えた。魔術師については分からず、旅団の情報はほんの少しにオルナの情報はたっぷりだった。
「オルナさんの記憶が強烈なのは分かる気がするけど、旅団について少し読み取れたという事なら魔術師のように全く記憶を残さないようにとは考えていない気がするねぇ」
北都がルカルカの報告から旅団について少しだけ推測する。
「残念ですが、他の資料を探してみるしかありませんね。残っていればの話ですが」
ブリジットが当然の気がかりを口にした。
「……焦りと恐れはおそらく」
ベルクはルカルカが読み取った思いの発生源と思われる気掛かりの一文を頭に浮かべた。
「……手記のこの一文ですね」
ベルクと同じ考えの姫星が手記の最後のページに書かれた一文を示した。
「旅がこの人にとってただの物見遊山ではない感じがするのだけど。何かもっと別の意味をもっているような。それが仲間への悲しみを感じられなかった事に繋がるのかもしれないわ」
墓守姫は遺留品を隅々まで読み込み感じた事を言葉にした。
「あぁ、俺もそう感じた。ただ魔術師とは別関係の可能性はあるが」
ベルクは墓守姫の意見に同意した。ただ、魔術師とはまた毛色が違うとは感じるが。
「……そうだな。事件についてもたまたま立ち寄ったという感じだったからな」
とダリル。手記の感じからダリルもベルクと同じ印象を受けたのだ。
「活動期間不明、団員の詳細不明という事は今いるかもしれないんだよね。不思議だね」
セイレムが名も無き旅団について正直な感想を口にした。
「あの魔術師だけでなく今度は名も無き旅団でありますか。謎ばかりが増えるでありますな!」
と吹雪。吹雪もまた正体不明の魔術師には何度か関わった事があるので現在大変な事になっている事はよく分かっているのだ。
「そうですね。いろいろ大変な事が増えましたね」
フレンディスは吹雪の言葉にうなずいた。
「ご主人様、どんなに大変な事が増えようともこのハイテク忍犬たる僕にお任せ下さい!」
フレンディスの隣にいるポチの助は可愛らしい顔に真剣な表情を浮かべた。
「ポチ、ありがとうございます」
フレンディスはポチの助に笑みながら礼を言った。頼りにされている事が嬉しいポチの助は激しく尻尾を振っていた。
「……まぁ、何とかなるよ、みんながいれば!」
ルカルカが明るく笑いながら集まった皆の顔を見回した。これまでにも何度も遭遇してはいるが何とかなったのだから次だって大丈夫だと信じている。
「今まで何とか解決して来ましたし、きっと大丈夫ですね」
舞花も力強くうなずいた。いるのは自分だけではないと。
「大丈夫だよ。リリトちゃんを助ける事が出来たんだから、どんなに大変でも心配無いよ!」
ノーンが力強くうなずき、集まったみんなの顔を見回した。
「そうそう。エリザベートにも報告しなきゃ」
ルカルカはノーンにうなずいた後、肝心な事を思い出した。
「……報告を聞いたらきっと何かしら動こうとするはずよ。手記についてもね」
シオンは大変だが面白い事になりそうだと軽く笑みを浮かべながらルカルカに答えた。
「……とりあえず、それ待ちという事になるか」
甚五郎の言葉で話し合いはとりあえず終了となった。
今までよりも魔術師についての情報を多く入手しながらも不明な事は多く名も無き旅団という意味不明な存在が現れたりと一進一退の状況となった。
深刻な話し合いがされている中、とある場所では老夫婦が緩やかな時間を楽しんでいた。
空京の外れ、ウルバス邸跡。
以前は大きな屋敷が建っていたと思われる場所にはエースとエオリアが植えた美しい花々が咲き乱れていた。
「……綺麗ね。石畳も少しだけ残っているみたい」
ハナエは花畑の中を歩き回って楽しむ中、自宅の一部である所々に残った石畳を発見していた。
「……」
ヴァルドーが視線を向けたのは見覚えのある立派な樹木だった。
「あら、この木、残っていたのね」
樹木を見ている事に気付いたハナエは駆け寄り、ヴァルドーの隣で樹木を見上げた。
「この下でよく読書をしたり話したりして過ごしたわよね」
ハナエは生前の楽しい日々を思い出していた。
「……あぁ」
楽しく思い出すハナエの隣でヴァルドーは一言無機質な声を上げるだけ。
それでもハナエは夫が昔を懐かしんでいると分かっていた。
「……本当に幸せね」
ハナエはヴァルドーには聞こえないように小さくつぶやいた。何やかんやと幽霊になってもこうして二人で過ごせて幸せだと。生前は忙しさの方が先に来ていたから。
「……行くぞ」
ヴァルドーは素っ気ない言葉を発し、ハナエに背を向け歩き始めた。
「えぇ」
ハナエは急いで追いつき、次の目的地を話した。
まだ幽霊老夫婦の旅行は続くのだった。その姿には悲しさではなく明るく微笑ましさがあった。
事件後、オルナはササカに付き添われ、迷惑を掛けた町の人へ謝罪巡りをしたそうだ。住人達は負傷者も出ずゴミ屋敷の騒ぎはよく知っているので呆れながらも許したそうだ。高額の処理費用が効果を発揮して当分の間古城は清潔だったそうだ。あくまでも当分の間だけで後はササカの保護者ぶりが光っていたという。
そして紫表紙の名も無き旅団の手記の提出とどこぞの魔術師の事を含め今回の騒ぎの顛末についてエリザベートに報告が行った。三度もイルミンスールで悪行が行われた事にさすがのエリザベートもお怒りだった。
「三度も同じ魔術師にしてやれるのは面白くないですぅ」
と言って本格的に何かをしなければと思い始めたそうだ。
シナリオ担当の夜月天音です。
参加者の皆様ありがとうございました。
皆様のおかげでごみと幽霊が無事に清掃完了となり今回で無事古城の変死伝説は解決となります。
無事に解決シナリオを書く事が出来てほっとしております。
ただ内容は、魔術師についての目撃証言と名も無き旅団なる存在の登場とさすがに三度も自分の庭で悪さをされたら我慢の限界という事でエリザベートが動くかもというものになっており、今後どうなる事やらですが。
まだまだ未熟ではありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。