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古城変死伝説に終止符を

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古城変死伝説に終止符を

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 地下道、入り口前。

「……聞いた入り口は確かここだ」
 優が地下道の入り口を開けようとした時、後続がやって来た。
「君達も貯蔵庫に行くのかい?」
 エオリアを引き連れたエースが現れた。
「あぁ、そのつもりだ……猫を連れて行くのか?」
 優はエースに答えながらエオリアの足元にいる猫に視線を向けた。何せ猫が好きなので気になっていたり。
「彼女は猫を連れているという事なので少しでも手助けになればと」
 エオリアは猫の頭を撫でながら答えた。
「きっと手助けになるわ。急ぎましょう」
 先行した人達とリリトが心配なため零は話を終わらせて皆を急かし、地下道への侵入が始まった。

 古城から少し離れた場所。ウルバス老夫妻達を含む皆との打ち合わせを終了して清掃組や貯蔵庫組が次々と侵入した後。

「さてと行くか」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は古城の入り口の方を見た。
「これで三度目という訳じゃな。今回は話を聞く事が出来るかもしれぬ」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)はリリトが眠っていた前回の事を思い出してた。
「とにかくあの子の説得です! と、言ってもどうすればいいのか……事実を伝えることも必要ですけど聞いてくれるかどうか」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)はリリトの説得に不安を抱いていた。この騒ぎが予定より遅く来たのはホリイのおかげだったりするのだ。だからこそ説得がどれほど難しいのかを知っている。
「確かに言葉だけの説得は無理かもしれません。何か事実を証明する物を見せた方がよいかもしれませんね」
 ブリジットがホリイの言葉にうなずいた。
「そこは問題無かろう。あの双子が真面目に仕事をしてくれたからのぅ」
 羽純が手に持つ三枚のクッキーと幾つかの記事を見せた。
「……そうですね。その古城事件の記事で犯人がいない事をすぐに理解してくれるでしょう」
 とブリジット。
 実はエリザベートから依頼を受けた際、甚五郎達は以前使用した体を抜けて中身だけで活動可能となる幽体離脱クッキーと説得の材料のためにと情報を頼んでいたのだ。エリザベートは校長の権限でクッキーの開発者である悪戯好きのロズフェルの双子に仕事をさせたのだ。急な事だったため材料があまりなくクッキーは三枚しか作る事が出来なかったが、効果は以前より割り増しとなっている。ちなみに作ったのは双子だが届けてくれたのは別の生徒であった。騒ぎの中行かせたら悪さをするだろうという校長の配慮である。
「説得は苦手だが、それだけ材料があれば何とかなるか」
 甚五郎は上手くいくだろうと考えていた。道具が揃っただけでなく他の仲間もいるから。
「いつもこれぐらい真面目ならいいんですがね」
 ブリジットは双子に対して呆れのため息をついた。双子には散々巻き込まれているので。
 その時、
「少し、いいかしら」
 夫を連れたハナエが声をかけてきた。
「はい。何かありましたか?」
 対応をしたのはブリジットだった。
「話すのか。あれが役に立つのかも分からないと言うのに」
「役に立ててくれるはずよ。以前ここに来てすぐに貯蔵庫にいる女の子を見て何とかしたいと助けになる何かを探してみたのよ。そしたら家族写真を見つけたの」
 ヴァルドーは不機嫌そうな顔だがハナエは気にせずに自分が知っている事を話し始めた。
「家族写真ですか。残っていたんですね」
 予想外の事に思わず声を上げるホリイ。リリトが亡くなったのはかなり前なので写真が残っているとは思いもしなかったのだ。
「……今の住人は掃除に気を遣う方ではありませんからね」
 ブリジットは控え目な言い方でオルナの掃除下手を指摘した。
「書斎にあったのだけど、幽霊でしょ。あまり目立つような事をしてここの住人に迷惑を掛けてはいけないし、知人の事が心配だったから何も出来なくて」
 ハナエは申し訳なさそうに教える事しか出来ない事情を話した。
「いいや、教えてくれるだけで十分だ。何とかするのは儂らの役目だ」
 自分達は事態打破のために来たのだからと甚五郎。
「家族の写真を見たらきっと楽しかった昔の事を思い出して悪い事をやめてくれるはずです!」
 ホリイは悲しい記事よりもずっと写真が役に立つだろうと考えていた。
 そして、甚五郎達は霊体化してハナエ達と共に古城に潜入する事になった。ただし、ブリジットと羽純は霊体化はしなかった。
「体の方はワタシがお守りしておきましょう」
「わらわはこのままでいよう。霊体では不便な事もあるからのぅ」
 ブリジットは空っぽになった肉体を守るために外に残り、羽純は道具持ちとして霊体にはならなかった。
 準備を整え、甚五郎達は古城に三度目の潜入を開始した。

 古城、廊下。

 道中、敵対する前住人に襲われるも霊体となっている甚五郎は霊的な力が込められている霊断・黒ノ水で手加減した『抜刀術』で気絶させた。ホリイは『イナンナの加護』で降りかかる前住人達の攻撃を警戒して進んだ。

 あと少しで書斎に辿り着くという所で
「……あら」
 ハナエが疑問を含んだ声を上げた。
「どうかしましたか?」
 ホリイが何事かと訊ねた。
「この本よ。以前見かけたのは書斎だったはずなんだけど」
 ハナエは廊下に転がっている新しめの本を指さした。
「ここの主は掃除が随分苦手じゃから廊下に転がっていてもおかしくはなかろう」
 そう言いつつ唯一実体である羽純は本を拾い上げ、中身を確認し始めた。
 しばらくして羽純の手が止まった。
「見つかりましたか?」
「……これじゃな」
 訊ねるホリイに羽純はしおり代わりに使用していたと思われる古びた写真を取り出した。
「えぇ、それだわ」
 ハナエは写真を確かめてからうなずいた。
「裏書きもあるようじゃな。これも役に立つかもしれぬ。オルナが何も考えずにしおりに使ったのじゃろう」
 羽純は写真と違って本が真新しい事からそう推測をした。その推測は大当たりだったりする。
「早速、貯蔵庫に行くか」
 甚五郎が合図を出した時、
「あなた、私達も一緒に行きましょう」
 ハナエが隣のヴァルドーに言った。
「行ったとしても足手まといなるだけだ。何より相手はただの子供ではない」
 ヴァルドーは気難しい顔のまま厳しく言い放った。言葉とは裏腹にハナエを心配している事はヴァルドーを知る皆には明白な事である。
「あら、心配してくれているのかしら」
 夫の気持ちなどお見通しであるハナエは口元を綻ばせた。
 その時、
「……痛いよ……暗いよ……」
 ミエットが泣きながら姿を現した。ちょうどシオンと会った後である。
「ミエットちゃん」
「……思い出したのかもしれんのぅ」
 驚くホリイと様子から何が起きているのか察する羽純。
「ほらほら、泣かないで頂戴な、ハナエおばあちゃんよ」
 ハナエはミエットに駆け寄り、涙を拭いて手を握って笑いかけていた。まるで孫に接しているかのように。
「……悪いが、行ってくれ」
 ヴァルドーは甚五郎達に今の内に行って貰おうと急かした。ミエットの相手が終わったらまたハナエが行くと言いかねないので。
「そうだな。しかし……」
 甚五郎達はすぐには動けなかった。ウルバス老夫妻もミエットも幽霊なので危害を加えられる事は無いだろうが、それはあくまでも推測であって確かな事ではない。そのため置いてはいけない。

 その時、
「ここはあたし達に任せてくれていいわよ」
「ミエット、お母さんを連れて来たわ」
 クラーナと行動を共にしていたセレンフィリティとセレアナが登場した。
「ミエット!」
「……お母さん」
 クラーナは娘を見つけるなり駆け寄り、抱き締めた。
「あなたも無事だったのね。彼は見つかった?」
 ハナエはほっとするもオランドがいない事に気付き、安否を訊ねた。
「……はい。でも声をかけた途端どこかに行ってしまって」
 クラーナはミエットを抱き締めながら悲しそうに答えた。
「貯蔵庫に行くなら早く行ってさっさと終わらせて来て」
 セレンフィリティは再会を眺めている甚五郎達を急かした。
「あぁ。彼らの事を頼む」
 甚五郎はうなずき、ハナエ達の事一切をセレンフィリティ達に任せてホリイと羽純を引き連れて他の皆に教えたあの分かり難い地下道への入り口へ向かった。
「ミエットちゃん、戻って来たらお姉ちゃんと一緒に遊びましょう」
 ホリイはそう言ってミエットに手を振ってから行った。
「セレン、行くのはもう少し落ち着いてからの方が良さそうね」
「そうね」
 セレアナとセレンフィリティはミシュ母娘が落ち着くまでもうしばらくだけここにいた。
 しばらくして、セレンフィリティ達はウルバス老夫妻とミシュ母娘を連れて他の幽霊の説得に急いだ。クラーナと手を繋いでいるミエットは泣いてばかりだが、母親と再会したためか少し大人しくなっていた。