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理不尽世界のキリングタイム ―トラブルシューティング―

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理不尽世界のキリングタイム ―トラブルシューティング―

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第一章 まだ幕すら開いていないのにこの有様

「さて、これから愉しいキリングタイムが始まるわけですが、ここで貴方達に色々とお知らせする事があります」
 ななな――金元 ななな(かねもと・ななな)はそう言うと、何処からかスクリーンが現れる。
「貴方達には残機を与えた事は既にお話しましたが、その残機に関して解りやすいようにこのように表示されます」
 スクリーンに映し出されたのは小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)という名前。しかしその横には『(3/4)』という表示があった。
「この数が貴方達の残機です。小暮くごふんげふん……っと、彼は初期残機は4機でしたが、先程死んだ為に3機となりました。分母が初期残機数、分子が現残機数、という事になります。この現残機数が0の状態で死亡してしまった場合はGAMEOVERです。この表示は変動があった時等に表示されます。わかりましたか?」
 なななの言葉に、皆がうんうんと頷いた。
「ふむ、貴方達は優秀な容疑者なようですね」
 なななは満足そうに頷く。優秀な容疑者って何だ、と皆思っているだろうがそれを口にする者は誰もいない。この状況では口にできないだろう。
「では、もう一つお知らせが」
 そう言うと、なななは笑みを浮かべて言った。
「早速何名か、貴方達の中で爆死しました。GAMEOVERです」

『何故!?』


 いきなりのリタイア出現には、流石の皆も動揺を隠せないようである。
「ちょ、ちょっと待て! いきなり死んだって一体何があったんだ!?」
 たまらず小暮が言うが、なななは少し困った表情を浮かべる。
「まあ色々と諸事情により、としか言えませんね。きっと彼らは契約者だったに違いないでしょう」
 なななはそう言って頷いたが『いきなり何の脈絡も無く死にました』なんて言われて一体誰が納得できるのだろうか。でも色々と事情があるのだ。そうとしか言えない。
「と、いうわけでお知らせは以上です。それでは……」
「質問なのだ」
 なななの言葉を遮り、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)(3/3)が口を挟んでくる。
「ななな――じゃないな。君は一体何者なのだ?」
「え? ……えっと」
 ななながどう答えたものか、と顎に指を当て考える仕草を見せるがリリは話す事を止めない。
「先程の小暮が一瞬の内に消し炭になり、そこから一部違わず再生させる。高等魔法でもなければこんなことはできないのだ。もしや……君が反逆者なのでは?」
 そう言って、リリがなななを指さす。が、
「えい」
なななが何処からか取り出したボタンを押すと、一瞬にしてリリは爆散する。
「り、リリぃーッ!?」
 ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)(3/3)が慌てて爆散地に駆け寄る。
「質問を許可していませんよ、容疑者リリ」
「な……き、貴様! 理不尽にも程があるだろ!」
「……待つのだ」
 今にも掴み掛らんララを、復活したリリ(2/3)が制する。
「し、しかしだな……」
「理不尽だろうとも、このルールに従うしかないのだよ。ななな、質問をしても?」
「許可しましょう」
 なななの言葉にリリは一つ頷くと、口を開く。
「反逆者を見逃した場合も反逆、ということは反逆者を暴く事は貢献したことになり、ランクが上がるのだろう?」
「まあ貢献にはなりますが……ランク?」
 ランクって何だろう。今回そんな話はしていないんだけど。
 なななが首を傾げるが、リリはそれに気が付かず、皆に向き直るなりこう言った。
「では地球人の諸君、持ち物検査の時間なのだ。結界装置を出し給え」
『も、持ち物検査!? しかも結界装置……だ……と……!?』
 突然のリリ宣言に、ざわ……ざわ……とどよめきが起きる。
「成程、その手が……!」
 ララが感心したように呟く。
「契約者ではない地球人であるならば、結界装置は必須品。持っていなければ行動できないのだよ。勿論リリは持っているのだ」
 そう言ってリリは堂々と【おもちゃのリモコン】を取出し、見せびらかす。
 成程。確かにあぶり出すにはいい手なのかもしれない。だが、
「さて、出せないとなると反逆者と見做し、処刑するしか――ッ!?」
なななの視線に気付いたのか、リリが振り返る。
「そんな事まで許可はしていませんよ、容疑者リリ?」
 ななながやんわりと窘める。要約すると『勝手な事してんじゃねぇぞ? 処刑されたいんか?』である。
「……先程処刑を行ったので今回は見逃しましょう。次はありませんよ?」
 処刑してもいいのだが、ここでGAMEOVERになっては面白くない。もっと足掻いてもらわないと。
「わ、わかったのだ……止めるのだ……」
 リリはコクコクと頷くと、そう言った。実際にいい手ではあるのだが、今は任務前。色々と拙いのである。進行的に考えて。流石に任務前に全滅とか、それはそれで面白いだろうが駄目だろう。
「お待ちくださいななな様! 提案があるのですがよろしいでしょうか!?」
 さて、となななが口を開こうとした所で、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)(2/2)が挙手。
「提案、ですか?」
 なななが言うと、九条は「はっ!」と敬礼するように背筋を正す。
「ななな様はその寛大なお心により我々容疑者に慈悲を与えてくださった! それは大変幸福な事です! このような試練を与えられて我々容疑者は疑いようも無く幸福です! しかしこの任務を完璧に幸福に達成する為に、我々の中で役割分担を決める必要があると思うのです! 勿論我々は完璧な容疑者です! しかしながら任務を更に完璧にこなす為には適切な人材に適切な役割を与える事が重要だと思うのです! 腕が立つ者は前衛が適所! これを拒否する者は我々の残機を減らす事を目論む反逆者に違いありません! ちなみに私は医学・薬学知識があるので中衛ポジションを立候補するであります! 医学・薬学とは何か!? 反逆者から幸福な市民の生命を守る為の知識であり、同時に反逆者の生命を的確に奪う知識であります! ななな様の御手を煩わせるのはこちらとしても大変心苦しいことでありますが、完璧に任務をこなす為! 完璧なななな様の完璧な采配を是非とも!」
 九条は跪き、まるでなななの靴を舐める勢いで捲し立てる。というより舐めてる。
「こ、こいつにはプライドという物が存在しないのか……!?」
 そんな九条を目の当たりにして、シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)(2/2)がわなわなと震えている。
「プライド? そんな物、生き残る為には不要よ! 強い権力者の前では跪き、ご機嫌を取るのが処世術と言う奴よ! その為だったら靴を舐めるのなんてわけないわ!」
「さ、流石伝説のガチクズと言われたローズ……! なんという外道……ッ!」
 シンが驚愕の表情を浮かべる。対して他の面々はドン引きである。
「ふむ、役割分担制ですか……確かに面白そ……面白そうではありますが、今回は見送らせていただきます」
「なん……だ……と……!?」
 なななの言葉に、九条が表情を凍りつかせる。
「……色々あるんですよ、色々と。申し訳ありませんがそれ以上は言えません」
 なななが遠くを見ると、九条も言葉を詰まらせた。

――本当は色々とやりたかったのだ。幸福になるお薬とか。

「……ん?」
 ふと、なななの視界に皆にばれないようにこっそりと扉へと向かうドクター・ハデス(どくたー・はです)(4/4)とヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)(4/4)の姿があった。どうやら一足先に向かうようである。
「ふむ」
 面白そうなので放っておくことにした。
「さて、それでは容疑者諸君。そろそろ任務へと向かいなさい。時間の浪費は反逆ですよ?」
 なななはハデス達が出ていくのを確認すると、皆を煽る様に言った。ついでに用途不明のスイッチを見せびらかした。
 すると危険を感じたのか、皆慌てて部屋を出ていく。
「……さて、どうなるかな?」
 誰もいなくなった部屋。ただ残ったスクリーンに、なななは目を向けた。

・残機変動リスト
リリ・スノーウォーカー(2/3)