リアクション
01 終わりの始まり 勇者と一部技官らがティル・ナ・ノーグへ出発したあと、国軍ではこれまで以上に気合の入る軍人たちであふれていた。 「よし、子供たちが帰ってくるまで、奴らが帰ってくる場所を守るのはオレたちです。絶対に守りますよ!」 ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)の上げた気炎が国軍中に伝播して、軍人たちは補給に整備に開発に、そして様々な調査にとそれぞれの役割を持って動き始めた。 「技術部隊は新装備のデータを提出してください! 各部隊長は自部隊の人数と装備の確認を! いつでも防衛戦ができるように準備をすすめてください。勇者が返ってきたときにすべてが手遅れでは困りますからね。子供や美人の女性が死んでいくのはもう御免です」 「美人ってつけるところが大尉らしいや」 「ちがいない!」 ルースの言葉に兵士たちが愛のあるツッコミを入れながらも、作業は進んでいく。そして、提出された一つの資料にルースは目を留める。 「ふむ……《オリジン》ねえ……だれか、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)呼んでこい」 少しだけ口調を変えて叫んだその言葉に、兵士は慌てて呼び出しのスイッチを押した。 相沢 洋(あいざわ・ひろし)はそんな喧騒の中で乃木坂 みと(のぎさか・みと)とエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)を呼び出す。 「新天地での行動を行う……。つまり補給はほとんどないな。とにかく根回ししてくれ。輸送可能な艦船への補給支援を国軍に要請する。後はエリスと共に機体改造を頼む。恐らく長期戦だ。それ相応の武装を頼む」 そして指示を飛ばすと執務室へとこもる。補給・改造・整備に対する計画を立案して書類化し、根回しの材料にするつもりだった。 実際にやるのは洋孝やエリス、みとたちだとしても、群体という組織では書類が何より重要である。そしてその書類仕事こそが、軍人にとっての最大の仕事であると同時に、ヘルガイア以上に厄介な敵となるのであった。 そしてリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はオペレータ席の端末のコンソールを必死に操作して、神話、伝承から最近の記録まであらゆるデータにアクセスし、勇者とは呼ばれていないが未知の敵勢力に呼応して現れた未知の協力者の存在を調べていた。 「勇者ってのはなんなんだろうねえ……」 そんなことを呟きながら次々とリンクを飛んでいくのだった。 そしてリカインのペット(?)キャロリーヌは生物であるがゆへのロボットと比較しての打たれ弱さを気にかけ、シミュレーターで黙々とトレーニングに励んでいた。 その境地は『当たらなければどうということはない』を目指すもので、ワイヤークローと仏斗羽素を利用した立体起動は巨大なロボットに立ち向かう狩人であった。 「……まさかスパイとして潜入させた姉妹が寝返るとは、Drキョウジ、この失態、どう責任をとるおつもりですか?」 ドクター・ハデス(どくたー・はです)が湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)に対していやみったらしく言う。 「必ずやこの手で姉妹たちを屠ることで……」 悔しそうな表情をしながらキョウジは告げる。 「よろしい、期待していましょう。くれぐれも総帥のご機嫌を損ねる事のないように」 「承知しています」 と、そのような感じでドクターキョウジはネフィリム三姉妹が国軍に確保されたことでヘルガイア内での立場がひどく悪化していた。このままでは粛清されるかもしれないと危機感を抱きつつ研究室に戻って量産型ネフィリム姉妹の調整にとりかかるのだった。 一方その三姉妹のエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)は初めて姉妹として一堂に会、顔を合わせていた。 「初対面で姉妹ってのもなぁんか変な感じだけど……なぁんか、そうでもないっていうか」 後頭部に手を当てながらセラフはそうぼやく。 「ボクたちはなんてことを……」 エクスは自責の念に半ば駆られる感じで表情を暗くしながらつぶやく。 「でも……もう、いいわよね……。解放されたのよ、私たち。なら好きに生きていいじゃない!できることなんて何もないわよ!!」 それに対してディミーアがそう言うと、それにリリー・アトモスフィアが頷いた。 「もう、何も危険なことも苦しいこともする必要ないよ。戦うのは私達に任せて」 「そうよぉ。作られた命だからって平和に平凡に生きたらダメってことはないわよ。もう自由なんだから、好きに生きるといいわ」 そしてそれにミレリア・ファーウェイが言葉を続ける。 「そう……よね」 そして、姉妹たちはつかの間の安寧を得ることになる。 「ブリジット……」 「なんでしょう?」 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の呼びかけにブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は振り返りながら用向きを尋ねる。 甚五郎はブリジットに国軍内部でのバロウズを標的にした模擬戦の手配を行うように支持すると、こんどは阿部 勇(あべ・いさむ)を呼び出して新型兵装の開発を指示した。 それから数日後ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が甚五郎に連絡を入れてきた。 「模擬戦の準備ができましたのですよ〜。明日開催します〜」 「了解した。ホリイは引き続き整備を続行してほしい」 「わかりました〜」 そんな感じで、模擬戦やら新兵器開発やら、整備やらで、国軍も平和だがそれなりに忙しかった。 |
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