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リアクション
バン、と大きな音を立てて牡丹がノートを閉じた。
「どうしたの?」
レナリィが首を傾げて問うが、牡丹は青ざめた顔で「なんでもありません」とだけしか言えなかった。
「あ、ちょーっとゴメン。これ借りていくねー」
そんな中、佳奈子は張り切ったように置いてあった台車を持っていった。
「エレノアーあったよー」
「これで運べそうね。さて、色々と外していかなきゃ」
「……重そうだね」
佳奈子が呟く。
佳奈子とエレノアが見ていた物は、テレビである。用務員が休憩中に観るのだろうか、普通よりも小さいサイズの物である。
「なあ、それどうするんだ?」
その様子を見た恭也が声をかけると、佳奈子が振り返った。
「ああこれ? ちょっと考えがあって持っていこうと思うんだけど、いいかな?」
「まあ別に構わないけど……何するんだ?」
恭也が尋ねると、佳奈子は「ちょっとねー」とだけ答えた。
「あ、持っていく前にテレビ観させてもらってもいいですか? 何か情報を得られるかもしれませんし」
牡丹が言うと、エレノアが少し考える仕草を見せる。
「……そうね、ニュースとかやってるかもしれないわ」
エレノアが頷くのを見て、佳奈子が「それじゃつけるよ」とテレビの電源を入れる。
「……何もやってないね」
「ずーっと砂嵐だね」
レナリィと佳奈子ががっかりしたように肩を落とす。
テレビからはザー、という音だけが響き、映像はノイズの砂嵐だけしか映し出されない。
時間の無駄と判断したのか「消すよ」と佳奈子がスイッチに手を伸ばす。
「――佳奈子、待って!」
慌ててエレノアが佳奈子を止める。
「どうしたの――あ!」
思わず佳奈子の手が止まった。
画面は先程の砂嵐ではなく、映像が映し出されていた。
映像は馬車が大破した様子であった。幾人もが怪我人であろう人を担架で運んだりするような後処理をする様子が映し出されている。
「これ……俺達の乗っていた馬車か?」
恭也がその映像を見て一人呟いた。
「多分そうだと思う」
空が頷いた。
映像はニュースのようであった。音声はノイズ混じりの為よく聞こえないが、映像のテロップなどから馬車の事故は相当大きなものだったというのがわかる。
続いて死亡者の名前がリストとなって映し出された。『御家族などの方は御連絡を』という文字も一緒にある。
『……続い……意識不明の重体の方を……』
ノイズ混じりの音声がそう告げた瞬間、プツリと映像が消えた。
「あ、あれ? 映らなくなったよ?」
佳奈子が首を傾げた直後、画面が切り替わったように映し出された。
それは何もない暗い廊下であった。リノリウムの床が、切れかかっているのか時折チラチラと点滅する電灯の頼りない光に照らしだされている。
その光景を、この場にいた者達は見覚えがあった。病院の廊下である。
その事に気付いた瞬間、ふと電灯が消えた。カメラは暗視機能も備えられているのか、画面は暗くなったが廊下の様子は映し出されている。
――そこには、先程はいなかったはずの怪人が立っていた。
白い長方体頭の巨体は画面を背にして、何かを引き摺っているようである。
それは人であった。入院着を纏った人は怪人に足首を持たれ、まるで物のように引き摺られている。
それに対しこの人物は一切抵抗しない。それどころかピクリとも動かない。
電灯の光が届かないせいかその人物の顔は見えない。生きているのか、それとも――
ふと、怪人が足を止めた。そして画面の方へゆっくりと振り返る。
その瞬間、また電灯が点く。だが今度は先程よりも早く電灯が消えた。
――映っていたのは、白い長方体頭のアップであった。
目や鼻は無いただの白い長方体は、まるでこちらを見ているかのように微動だにしない。
――まるで『そこにいたのか』と言っているような。
「ッ! 消せ!」
恭也が叫ぶと、慌てたように佳奈子がスイッチを消す。
「まさか……アレがさっきハデスが言ってた奴?」
考える様な仕草を見せエレノアが呟く
その呟きに誰も答えなかったが、誰もが同じ事を思っていた。
「……冗談じゃねーぞ全く」
恭也が大きなため息を吐いた。
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