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 現在から数年後。
 ロイヤルガードが無用なシャンバラ泰平の時。

 とある家。

「ユフィ、上手ね」
 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)は自分の膝の上でお絵かきをする3歳の子猫のような少女に話しかけていた。
「うん! ねぇ、おやつはまだ?」
 ユフィことユーフェミア・アルギエバは褒められて嬉しいそうな顔をした後、キッチンにいるシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)に声をかけた。
「すぐに出来ますから。出来たらフルーツや生クリームで飾り付けるのを手伝って下さいね」
 シャーロットは冷たいおやつを作っていた。
「はーい!!」
 ユーフェミアは元気に返事をしてお絵かきに戻った。
「……すっかりセイニィもお母さんになって」
 シャーロットはセイニィ達の様子を見ながらつぶやいた。
 共に過ごす中、シャーロットのセイニィへの恋は成就しただけでなく皆に祝福を受けつつ結婚も果たす事が出来た。
「……平和になってあの子が生まれてセイニィが別の道を模索し始めてどうなるのか少し心配でしたが」
 結婚後、すぐに平和になり子供が生まれたのを切っ掛けにセイニィはロイヤルガードを引退し格闘家以外の道を模索し始めて今に至るのだ。母親業に勤しむセイニィの姿にシャーロットは安らぎを得ていた。
「おやつは冷やすだけですから。その間、ユフィ、どんな絵を描いたのか見せてくれませんか?」
 おやつを作り終えたシャーロットがユーフェミアに声をかけながら来た途端、
「……シャーロット、静かに」
 セイニィが人差し指を立てて注意をした。
「……眠ってしまったんですね。可愛い寝顔です。どんな夢を見ているんでしょうか」
 シャーロットは膝の上に座ったままセイニィに寄り添いながら気持ち良さそうに眠っている娘に笑みをこぼした。
 セイニィは娘を抱き抱え、寝室へ連れて行った。

 戻って来るなりセイニィは
「もう、朝からずっとあたしの後ろを付いて来てお手伝いしようとするし」
 ぶちぶちとユーフェミアについて言い始めた。
「ユフィは好奇心旺盛で生みの母の私よりもセイニィに懐いているから仕方が無いですよ」
 シャーロットは冷たい飲み物が入ったマグカップをセイニィに渡しながら言った。ユーフェミアは両親の事が大好きでよく甘えるのだが、より懐いているのがセイニィなのだ。
「……それに外に連れて行くと人懐こいから色んな人と仲良くしようとするし」
 セイニィはユーフェミアと買い物に出掛けた事を思い出す。人に会う度に元気に挨拶をして話しかけるのだ。
「平和で何も無いとは思いますが、気を付けるように教えないといけませんね。それ、ユフィが描いた絵ですね」
シャーロットもいささか心配するも床に転がっているお絵かき帳に目がいった。
「あたしとあなただって。上手だと思わない? 目が二つに口と鼻が一つずつ描かれてあるし髪の色も間違っていないし」
 セイニィはお絵かき帳を拾い上げ、シャーロットに渡した。
「……セイニィより私が少し小さく描かれているのが少しだけ寂しい気がするんですが」
 お絵かき帳を見たシャーロットはほんの少し切なくなった。
幼児が描いたものなのでらしき物体としか言えないが、セイニィらしき物体を先に大きく描いて空いたスペースにシャーロットらしき物体を描いていた。
「気のせいよ」
 セイニィは寂しそうなシャーロットの顔を見てちょっぴり優越感を感じていた。
「セイニィ、結婚する前に言ってましたよね。家族って分からないって。今はどうですか? 幸せですか?」
 ふとシャーロットは結婚する前にセイニィが言っていた事や自分が幸せに出来ているのか気になり問いかけた。
「……そうね、幸せなのかも。あなたとユフィといると楽しいから」
 少しだけ間を置いてからセイニィは彼女らしい素っ気ない言い方で答えた。
「そうですか。セイニィにそう言って貰えて嬉しいです」
 シャーロットは心底嬉しく思った。セイニィが幸せを感じている事こそシャーロットの幸せだから。

■■■

 覚醒後。
「……あの未来を引き寄せられるように頑張らないといけませんね」
 シャーロットはセイニィの幸せな未来の可能性を知り、とても満足していた。



 現在から数年後。
 何もかもが落ち着いた頃。

 桜の季節が訪れた妖怪の山、夜。

「ここの桜は本当に綺麗だね」
「そうね、本当に」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は宵闇に輝く桜、夜光桜を見上げながらこれまでの事を思い出していた。

「まさかこの面子で再び花見が出来ようとはな」
「そうだね。みんな色々あったよね。私はフリーターから正社員になったし、二人は結婚した」
 セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)は陽一の作った弁当を食べながら言った。数年前もこうして四人で花見を楽しんだのだ。違うのは皆の立場が少しだけ変わった事ぐらい。ただし、セレスティアーナは相変わらずの様子だが。
「引っ越しの準備は出来てるのか? 地球に行くとか聞いたぞ」
 セレスティアーナがおにぎりを頬張りながら訊ねた。
「理子さんの故郷の東京に」
「荷物もある程度、運び終わったし残るは別れの挨拶巡りぐらいかな。数週間したら行く予定だからこうしてゆっくり出来るのもあと少しかも」
 陽一と理子が順番に答えた。
 ふと
「ん? 雨……今夜は晴天だったはずだけど」
 陽一が頭上から冷たい物が降って来る事に気付いた。どうやら天気予報は当てにはならないらしい。
「……心配無いよ。ほら、傘を持って来ているから」
 ジークリンデがなぜだか持って来た傘を取り出した。
「一本だけ?」
 理子が至極当然の質問。傘と人数が合わないのは明らか。
「んー、私はあの屋根のあるお店に用事があるから」
「私もこんな雨に負けるほど弱くはない」
 ジークリンデとセレスティアーナは適当な事を言って陽一達を二人きりにするために行ってしまった。
「……もしかして」
「気を遣ってくれたのかもしれないね、理子さん」
 理子と陽一は二人の気遣いを気付き感謝し、陽一が傘を差して自分と理子を雨から守った。
「……雨って鬱陶しくて嫌なものだけど、今夜の雨はとても幸せなものね」
 理子は雨に打たれる夜光桜を見ていた。雨に当たり夜光桜の輝きは滲んで一層幻想的だった。
「あぁ、こうして愛する人と一緒に見上げると一層幸せだよ」
 陽一も夜光桜を見上げた。
 そうして寄り添う恋人は歌が上手な美少女妖怪、山姫の歌声に包まれた。

■■■

 覚醒後。
「……なかなか素敵な未来だったなぁ。あの双子は相変わらずみたいだけど」
 体験した未来に満足する陽一は双子の様子が気になりちらりと視線を走らせた。
見知った方々が双子に説教を食らわせている所であった。
「悪戯失敗すると結構落ち込むし前はやり過ぎたと思ったけど」
 以前の遺跡捜索時に双子のお仕置き組に参加しかなり落ち込ませたのでやり過ぎたと少々罪悪感を感じていたが、無用だったらしい。
「本当に凄い才能もあって人を助ける発明も沢山しているのにすぐに調子に乗って危険な状態を招くんだから。今だって正体不明の魔術師の対決の準備とかで忙しいのに」
 陽一は通常運転の双子の様子に呆れの溜息をつくと共に動物化する薬を作るも園児まで巻き込んだ喧嘩をした事や妙なお菓子を作り出したヴァイシャリーの親睦会の事などを思い出していた。