リアクション
「あの子達はいつも通りだね。しかも今日は最初から痛い目に遭っているのかな?」 ◆ 目覚めた先の悪夢。 「……ん……ここは……キスミはまだ起きてないのか」 目覚めたヒスミは隣の椅子に座るキスミが目覚めていない事を確認した。それが幻覚によるものとも知らず。 「お前達はやり過ぎてしまったな。前に片割れが非常事態に陥って、失ってしまうかもしれない恐怖を味わったのに……懲りない奴らだ」 孝高がゆっくりとヒスミの前に姿を現す。 「ちょっ、これ現実だよな。来るなって、キスミ、キスミ、起きろって」 迫り来る恐怖にヒスミは青い顔でキスミに呼びかけるも全く反応が無い。 現実だと思う反面、暗い未来を見ているのかと半分感じているようであった。 近付く孝高は説教をしながらメキメキと巨熊化し、 「あの時、もう少し大人しくしていれば……そう思っても、もう遅い。せめてもの情けだ……二人一緒に、この時を終わらせてやろう」 ヒスミの前に立つと鋭き爪が生えた手を振り上げる。 「な、縄が……」 逃れられないヒスミは椅子をガタガタさせ精一杯の抵抗を試みるが、顔色は悪くなるばかり。 孝高は切り裂こうと手を振り下ろした。 「ちょっ、うぁぁぁぁ」 ヒスミはあまりの恐怖に目を閉じそのまま意識が旅立った。 ただのフリとも知らずに。 一方、キスミは。 「……やっと目が覚めたな。何か途中明るい未来が見られたな。ヒスミ、まだ起きてないのかよ」 キスミもまたヒスミと同じ行動を取っていた。 突然、『奈落の鉄鎖』によって完全に動きを封じられると同時に 「ふぉっ!?」 目の前に『地獄の天使』で影で出来た禍々しい翼を広げている孝明が現れた。 「双子。片割れを失う悲しみ、俺はわかるよ。あれはとても辛い……まるで身も心も引き裂かれる思いだ。君達も味わうか?」 そう言いつつ魔術師殺しの短剣をキスミにちらつかせる。 「い、いやぁ、味わいません。いりません」 真っ白い顔で恐怖のあまり丁寧な言葉で反応するキスミ。刃はゆっくりと頬を撫で切っ先を喉元に突きつける。刃の冷たさが恐怖を増幅する。 「……手を貸してやろ」 孝明は短剣を持つ手に力を入れた。キスミを貫こうと。 「おぁぁぁぁゎぁあぁ」 庇おうにもその手段が封じられているキスミはひたすら虚しい悲鳴を上げるばかり。 そして、意識を失った。 短剣が自分を切り裂く事は無いとも知らずに。 ■■■ 「……ま、今日はこれまでにしておくか」 孝高は獣人に戻り、ヒスミの幻覚を解除した。 「キュピ、ピキュピィ……?(孝明さん、双子ちゃん大丈夫……?)」 わたぼちゃんが双子の身を案じ孝明に訊ねた。 「わたぼちゃん、心配しなくてもいいよ。お兄ちゃん達は怖い夢を見ただけ……君が二人をケアしてあげてね」 孝明はわたぼちゃんに答えながら短剣を片付けてキスミの幻覚を解いた。 「ピキュキュ、ピキッキュ、ピキュピィ!(わかった、わたぼ、ヒスミお兄ちゃんとキスミお兄ちゃんと遊ぶ!)」 ケアを一緒に遊ぶ事だと思っているわたぼちゃんは元気に答え、双子の覚醒を待つのだった。 それからしばらく。 「双子ちゃん、目を覚ましたのだ。我もケアをするのだ」 薫が双子がゆっくりと目を開け、無事に現実に帰還した事を知らせた。 「……ちょ、お前」 「……現実、だよな」 ヒスミは孝高をキスミは孝明を怯えた目で見ていた。 それに対し 「おい、大丈夫か」 孝高は何事も無かったように双子を気遣う。 「その縄をほどいてあげよう」 孝明も笑みを浮かべながら孝高と同じように振る舞った。 まるで先ほどの出来事は暗い未来であったかのように。 「……」 双子は同時に頭を左右に振って熊親子の介入を拒む。 「我が縄をほどいてあげるのだ」 仕方が無いので薫が動き出した。 「……」 薫の親切に対して双子は大人しくしていた。 「双子ちゃん、安心するのだ。今は現実なのだ。でもやり過ぎると本当に、二人が見た『未来』が来ちゃうかもなのだ。双子ちゃん、どっちかがいなくなったら嫌だよね? だから程々にしよう? それに今は悪い魔術師の対策で大変な時なのだ。ね? 悪戯だけじゃなくて、他人を楽しませる事も考えてみるとか」 薫は二人の縄を解きながら優しく話しかけた。 「……助かった。だってそれじゃ、つまらねぇし」 「ありがとう。それに見たのって本当になるとは限らないって」 双子は薫に礼を言うも悪戯はどうにも外せないらしい。 「薬がお前達にその未来を見せたという事は無意識で感じている罪悪感によるものだと思うが。数多ある未来の一つである可能性もある。早速だが、どんな未来か教えて貰おうか」 双子の覚醒を聞きつけデータ集めのためにダリルが馳せ参じた。 「……」 双子は仲良く未来の内容を記載し、ダリルに渡した。当然その場にいる皆内容を確認した。孝高や孝明が見せた幻覚も書かれてあったが、誰も双子に真実は教えなかった。 「……辛い未来を見たんだね。さっきも言ってたでしょ。未来の一つだと。気を付けたら悪い未来にはならないよ。いつも互いを大事にしてるんだから」 ローズが優しい言葉をかけた。 「 まぁ、ロゼの言葉真似するわけじゃねーが、何も考えずにやりゃあ台無しになっちまう、言っている意味わかるか?」 シンが言葉を重ねる。 「……それは分かるんだけどさ。なぁ、ヒスミ?」 「悪戯やめたらロズフェルの名が泣くし」 双子は分かりつつも妙な事を言い出す。悪戯は双子にとって呼吸のようなものなので我慢はし難いらしい。 「……未来は決まったものじゃない。一秒一秒の積み重ねで、少しでも変化が起きればすぐに違う道にそれる……この瞬間もそうだ。運命なんてそんなもんだ」 カンナが静かに諭すように言う。 「……」 双子は椅子に座ったまま静かに囲む人達を見回し、互いに顔を見合わせ何事かを考えている。見守る者達は希望は薄いが反省をしてくれたらと思うばかり。 「ピキュキュウ!(元気出して!)」 わたぼちゃんが双子に擦り寄って励ました。 「何言ってんのか分からねぇけど、励ましてくれてるんだよな」 とヒスミ。言葉は理解不能でも何となく気持ちは伝わる。 「ピキュウ、ピキュッピィ(双子のお兄ちゃん、わたぼと遊ぼうよ)」 わたぼちゃんは双子を遊びに誘う。 「わたぼちゃん、遊ぼうって言ってるよ。我もこの子を連れて来たのだ」 薫が双子のために通訳をした。 「そりゃ、もちろん遊ぶに決まってる」 「それって前連れていた奴だよな」 双子は大喜び。興味を向けるもふもふロボットと遊べるのだから。ついでにキスミは近くにいる真っ白なもふもふ生物に気付いた。双子がちーに出会うのは二度目である。一度目は正体不明の魔術師対策で侵入した遺跡だ。 「そうなのだ。白もこちゃんと呼んでるのだ」 薫はちーの愛称を教えた。白もこちゃんは二人の周囲を歩き、ふんふんと鼻を鳴らしていた。 「元気になってよかった。この子可愛いね」 美羽が元気になった双子にほっとしつつ可愛いもの好き故白もこちゃんの頭を撫でた。 「あーー、明るい未来に出てた」 「美女の片割れ!」 双子は美羽の姿に声を上げた。すぐに分からなかったのはこれが初対面だから。 「私が出てたの? さっきの工房で発明が成功したっていう」 まさかの事に驚き、美羽は聞き返した。 「そうだぞ。キスミ、これってあのチョコを作れっていうお告げじゃないか?」 「かもな。いつか挑戦してみるか。未来は積み重ねと言ってたしな」 双子は元気に新たな挑戦をしようと考える。 「それは私も楽しみかも」 甘い物が大好きな美羽は少し期待。 「やっぱり双子ちゃんは双子ちゃんなのだ」 薫は苦笑を浮かべ 「飽きない子達だね」 孝明は現金な事に感心して 「せめて大変な間は大人しくしろ」 孝高は呆れていた。他のみんなも同じく呆れていた。 この後、 「ピーキュ、ピキュキュ(わたぼ、面白いシャボン玉液を持ってきたよ)」 わたぼちゃんは魔法のシャボン液でわたげうさぎの形のシャボン玉を作ってみせた。 「すげぇ」 「オレ達もやらせてくれよ!」 双子は見るだけでなくシャボン玉を作らせて貰い、楽しんでいた。 他の皆は呆れつつもいつもの事なので何も言わなかった。 無事実験は終了した。アゾートは集まったデータを改めて分析し、実験によって見えた事をまとめて未来を体験する以外にダリルやザカコが提言した利用が出来るように改良する事も考えた。 しかし、その作業は後回しとなった。イルミンスールを騒がせる悪の権化たる正体不明の魔術師との対決が優先されるからだ。双子は変わらず悪戯をしているが、イルミンスールが抱える問題の解決に真面目に奔走するようになった。いつまで保つかは分からないが、皆の説教が効いた事は確かだった。アーデルハイトは双子達のように問題解決に携わる人達の指揮を執っていた。 とにもかくにも被験者の方々の未来に幸あれ! 担当マスターより▼担当マスター 夜月天音 ▼マスターコメント
本シナリオに参加して下さった皆様お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。 |
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