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第五章 暗い未来・別れ


 イルミンスール魔法学校、寮。

「あ、あのナディムさん、おめでとうございます。無事にお姫様に再会出来て良かったです。少しの間、会えなくなるのは寂しいですけど」
 円卓にお菓子やジュースを並べ終えたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が紙コップ片手に円卓の前に立っているナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)に声をかけた。
 ナディムが捜し続けていた自国の姫が見つかり、送り届けるためにナディムが護衛としてティル・ナ・ノーグにある国へ帰国する事になった。そのお別れ会が本日なのだ。
「あぁ、ありがとうな……というかこれは」
 ナディムは持っている紙コップにリースからジュースを注いで貰いながら受け答えをする。なぜだかこれが現実ではないと感じると共に未来での状況を把握出来ていないナディム。
「えと、ナディムさんにお願いがあります。お姫様、平静を装って表面上は何も変わらないように見えますけど、きっと長い間悪魔さんに攫われて幽閉生活を強いられて辛い想いをされたと思いますから、お姫様が起きて国に着くまで傍にいて離れないであげて下さい」
 リースはこの場にいるもう一人の主人公に対して心配していた。
「あぁ、分かった。それで……姫さんは」
 ナディムはうなずき、リースに姫の居所を訊ねようとする。現実ではないと分かっていても姫を一人にすると後が怖いから。
 そこに
「ナディム、お姫様との再会おめでとう!」
 籠を持ったマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)が現れた。
「はい、ナディム! 帰りの道中に食べて貰おうと思って。きっとお腹空くだろうから」
 マーガレットはナディムに持っていた籠を渡した。
「……クッキーか。というか……」
 中身を確かめたナディムは眉を寄せた。なぜならマーガレットは料理下手だからだ。
「心配しなくても大丈夫よ。リースの2番目のお姉さんに作ってもらったから」
 マーガレットは少しだけ不機嫌気味にクッキーの安全性を伝えた。
「それなら安心だな」
 ナディムはほっと胸を撫で下ろした。
「もう、何よ。そうそう、お姫様って凄いね。攫って自分を魔鎧に変えちゃった悪魔を自力で倒して逃げ出したって。あたしもお姫様みたいに強い女の子になりたいなーなんて思ってるからお姫様に伝えておいてよ。護身術を教えて欲しがってたって」
 ナディムの様子に不満そうにした後、マーガレットは姫への伝言を伝えた。
「あぁ、伝えておくよ。それより聞きたい事が……」
 ナディムは今度こそはと姫の居場所を聞こうとするも
「あ、リース!」
 マーガレットはリースの所へ行ってしまい、聞けずじまいとなった。
「……姫さん、魔鎧に変えられたのか」
 ナディムは判明した今の状況を声に出して確認するも肝心の姫の居場所だけ分からないまま。

「……ふむ。何かを聞こうとしているようだな」
 少し離れた所にいた桐条 隆元(きりじょう・たかもと)がナディムの様子に気付き、声をかけに行った。
「ナディム、何か聞きたい事でもあるのか?」
「おお、たかもっちゃん。姫さんがどこにいるか知らないか?」
 ナディムはやって来た隆元に姫の居場所を訊ねた。
「それなら、ほら隣におるではないか」
 隆元はナディムの隣に鎮座する純白の鱗で設えた魔鎧を指し示しながら答えた。
「……これが姫さん? 白銀の鎧が」
 ナディムは隣を振り向き、白銀の鎧に目を向けた。先ほどまで気付かなかった事が不思議でならなかった。
「そうだが……」
「……姫さん、大丈夫か。出来たら話を」
 まだ何か言いたそうな隆元を気にする事無くナディムは姫に声をかける。いるのなら話したいと思って。
 そんなナディムの背後から
「おぬしの姫は生きたまま鱗を一枚一枚剥され、剥された鱗を己の魂が宿る鎧材料にされているそうだ」
 隆元の言葉が降りかかる。
「ちょ、どういう……」
 あまりにも残酷な内容にナディムは振り返り、隆元を問いただそうとするが出来なかった。ここで途切れてしまった。

■■■

「!!!」
 恐怖の未来に驚き飛び起きたナディムは素速く周囲を確認した。
「……あぁ、現実か」
 ナディムは慌ただしい周りの様子にほっと胸を撫で下ろした。

 リース達も覚醒し、体験した未来について話し始めた。
「紫色を選んだのにそれほど暗くなかったね」
 マーガレットはそれほど暗くなかった事に一言。
「で、でもお別れ会は寂しいですよ」
 寂しそうな顔をするリース。
「そうだな。しかし、おぬしにとっては……」
 隆元はリースにうなずきつつナディムの方に振り返った。
「……怖い未来だった。姫さんがあんな目に遭ってなきゃいいけど」
 ナディムは現実に戻ったというのに不安を顔に張り付かせていた。
「えと、ごめんなさい。最近、マーガレットとナディムさんが溜息ばかりで元気がなくて少しでも元気になればと思って……」
 リースは怖い思いをしたナディムの謝った。
「リース、謝るなよ。お前は悪くねぇんだから。気遣いは嬉しかったぜ」
「そうよ。今日はありがとう、リース」
 ナディムとマーガレットは自分達を元気付けようとしくれた優しいリースに礼を言った。
「……は、はい。あの、きっと大丈夫ですよ。必ず現実になるとは限らないそうですから」
 リースはナディムとマーガレットの言葉に胸を撫で下ろすも励ましは続けた。
「そうよ! 素敵な再会をしてるかもしれないじゃない」
 マーガレットも不安が少し残っているナディムを励ます。
「……素敵な再会か」
 ナディムはそう言うも見た事が脳裏から離れない様子。
「心積もりはしておいた方がよいかもしれぬ。善し悪しに関わらず未来とは分からぬもの」
 隆元はおもむろにリース達とは違う意見を口にした。
「……そうだな」
 ナディムは隆元の意見に静かにうなずいた。