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学生たちの休日11

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学生たちの休日11

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    ★    ★    ★

『第一級戦闘態勢、これは訓練でも冗談でもありません、現在、オリュンポスパレスは、ベアド・ハーティオン、魂剛、迦具土、ダスティシンデレラにより攻撃を受けています。戦闘員は、速やか迎撃を行うように』
 オリュンポス・パレスの艦内放送で、天樹十六凪の声が響き渡る。
「唯斗兄さんが近くに来ているんですって。それは、お迎えに行かなくっちゃ」
 職業紫月唯斗の妹、及び、紫月唯斗の嫁宣言している紫月 結花(しづき・ゆいか)が、その放送を聞いて、スキップしながら飛空艇格納庫へとむかった。

    ★    ★    ★

「なんだかあわただしいなあ。ハデスったら、また何か変な遊びを思いついたのかな。まあ、いいや。デメテールには関係ないしー」
 オリュンポスパレスの内部をブラブラとうろついていたデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が、トレジャーセンスの命じるままに、一直線にキッチンへとむかった。
 ここに何かある。それは、デメテール・テスモポリスにとって、価値のある物だ。
「ラッキー。やった、プリン発見! 誰のかしらないけれど、いただきまーす!」
 お皿の上に、プリンをぷっちんすると、マジックではっきりと『ベリアルのもの』と書かれたプラスチックの容器をその場に残して、デメテール・テスモポリスが自分の部屋にむかった。
 プルプルするプリンを落とさないように進んで行く途中で中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)とすれ違い、軽く会釈を交わす。
 なんとか自室へ戻ったデメテール・テスモポリスは、スプーンを取り出すと誰はばかることなくプリンを食べ始めた。

    ★    ★    ★

 同様の放送を聞いた魔王 ベリアル(まおう・べりある)であったが、そんな命令などガン無視していた。
 そんな面倒なことよりも、おやつのプリンの方が大事だったのだ。
 だが、キッチンに行ってみると、その大事な物がなくなっていた
 床には、中身のなくなったプリンの容器だけが転がっていた。誰かが盗み食いしたのは明らかだ。
「僕のプリンを盗み食いなど、これは万死に値する。明らかな敵対行動だ、敵……、敵、そうかあ、僕のプリンを食べたのは、今パレスを襲っている奴らだな。いいだろう、死よりも恐ろしい目に遭わせてくれよう、プリンを食べたこと、後悔させてやる!!」
 そう叫ぶと、魔王ベリアルは、中願寺綾瀬と漆黒のドレスを追いたてるようにしてイコン格納庫へとむかった。
「ちょっと、ベリアル……」
「いいから、僕の復讐に手を貸せ!!」
 戸惑う中願寺綾瀬らを、問答無用でサタナエルのコックピットへ押し込んだ。
 ザナドゥ製の異形のイコンは、紫の翼持つ暗黒騎士というシルエットだが、その能力は未知数で、未だにその性能の一端も明らかにできてはいない代物だ。
「なんという調整だよ、ほとんどの機能が死んでるじゃん。ええい、こんなことなら魔界イコン検定一級を取得しておくんだったぜー」
 さすがに自分では調整できないので、魔王ベリアルが頭をかかえた。ザナドゥのイコンというだけで、前例のない特注品だ、正確な構造や調整は、作った物にしか分からないだろう。少なくとも、魔王ベリアルにはちんぷんかんぷんだ。かろうじて動くのはシャンバラ式の調整がされているからで、それが、真の力を押さえ込んでしまっているという矛盾をずっとかかえている。
「だが、しかし、そこらの雑魚イコンなど、小指で蹴散らしてやろうじゃん」
 少なくとも、プリン一個分の地獄は見せてやると、魔王ベリアルは出撃していった。

    ★    ★    ★

「相変わらず、警備態勢はザルね。私は端末からコンピュータに侵入して、ビッグバンブラストを撃てないようにするから、未来はそれを邪魔されないように警護してね」
 首尾よくオリュンポス・パレスの飛空艇発着庫の中に入り込んだ高天原鈿女が、夢宮未来に言った。
「うん、頑張るから、任せて♪」
 久々の戦闘に、張り切っている夢宮未来だ。
「早く、誰か邪魔しに来ないかなあ」
 何やら不穏当なことをつぶやいていると、紫月結花がオリュンポスの戦闘員たちを従えて現れた。
「あなたたち、何者ですか!」
「わーい、きたー♪」
 たまさか、高天原鈿女たちの進入してきた開けっ放しの飛空艇発着デッキへとむかう途中だった紫月結花を見て、夢宮未来が歓声をあげた。
「はっ、まさか、私が唯斗兄さんと会うことを阻むために、自称嫁共が使わした刺客……。だとすれば、容赦しません」
 自分に都合のいい勘違いをすると、紫月結花が夢宮未来を睨みつけた。紫月唯斗の好みからすれば、後ろにいるおばさんよりも、この若い女の方を先に始末するべきだろう。嫁という職業の女共は全て抹殺して、妹という職業の自分が最後には勝利するのだ。
お前たち、やっておしまい!
 問答無用で紫月唯斗が火球を放つ。
「そうはさせないよ。いっくぞー!
 夢宮未来が錬気の棍で火球を真正面から相殺すると、たちまち戦闘員たちと戦い始めた。
「ふがいない、お下がりなさい!」
 バタバタと夢宮未来に薙ぎ倒されていく戦闘員たちに憤慨して、紫月結花が前に出てきた。
「紫月流戦闘術を受けてくださいっ!」
「望むところよ!」
 巧みに棍を操って、夢宮未来が、紫月結花の攻撃を防いだ。防戦一方のようにも見えるが、紫月結花の方も、夢宮未来の守りを突破して有効打を与えることができない。その間に、高天原鈿女は、目立たぬように作業を進めていった。

    ★    ★    ★

「そこの、不気味イコン、大人しくプリンの恨みをくらえ!」
 オリュンポス・パレスへの攻撃を続けるコア・ハーティオンにむかって、出撃してきたサタナエルから、使い魔・黒鳥が放たれた。
「私は不気味な者ではない、正義の使者だ!」
 エアブラスターで、直前に迫った使い魔を吹き飛ばして消滅させて、コア・ハーティオンが言い返した。
「そのもじゃもじゃした頭でよく言うよ。どう見たって、魔界出身だろうが。大人しく、僕の軍門に降って、プリンを弁償しろ!」
 魔王ベリアルの言葉に、うんうんと中願寺綾瀬がうなずいた。魔鎧として中願寺綾瀬に装着されている漆黒のドレスも、動けはしないものの、声を出さずに同意する。
 まあ、頭部でユグドラシルの猛枝を触手のようにクネクネさせているベアド・ハーティオンは、新型のインテグラルだと言われても、知らない者は信じてしまうかもしれない。
「だが、断る! 私は、プリンではなく、正義のためにしか心を動かさない。謹んで、プリンは辞退する」
「食べただろうが!」
「知らぬ!」
 何やら的外れな会話を交わしつつ、ベアド・ハーティオンとサタナエルが激しく場所を入れ替えながら、射撃戦を繰り広げていった。スピードではベアド・ハーティオンの方が高いものの、サタナエルはそのトリッキーなワープ移動で翻弄する。
「プリン、プリン、プリ〜ン!!」
「あのー、ベリアル様、プリンって、何かあったのでございますか?」
 いいかげん、様子がおかしいだろうと、中願寺綾瀬が魔王ベリアルに訊ねた。
「僕のプリンを奴につまみ食いされたんだあ」
「でも、敵はあそこにずっといたし、それに、私たちは、プリンを嬉しそうに運んでいくデメテール様の姿を見ましたけれど」
「なんだってえ!?」
「あっ、でも、そのプリンが、ベリアル様の言っているプリンかは、分からない……」
「いや、昨日のうちにオリュンポス・パレスのプリンは全て僕が食べているんだ。あれは、秘蔵の最後の一個だったのに……」
 あわてて確証はないと言いなおす中願寺綾瀬に、ドきっぱりと魔王ベリアルが言い返した。
 そのときだ、突然、オリュンポス・パレスの上部で大きな爆発が起きた。迦具土からのロングレンジ攻撃だ。