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学生たちの休日11

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学生たちの休日11

リアクション

 

    ★    ★    ★

ああ、ごめんね、起こしちゃった? ううん、悪い夢を見たんじゃないの。むしろその逆。私と優がね、ちっちゃな子供と歩いているの。三人手を繋いで……。どうしたの? もう、笑わなくったっていいじゃない
「いや、笑ってなんかいないよ、ちょっと嬉しかったんだ」
 にこにことしながら、神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)に言った。
 今日は、神代聖夜と陰陽の書刹那もデートに出かけてしまっていて、久々に自宅で夫婦水入らずだ。
「ねえ、優は産まれてくるこの子の名前はもう決めた?」
 ちょっとはにかみながら、自分のお腹を無意識になでながら神崎零が神崎優に訊ねた。
「ああ。もう決めてある。けど今は教えない。それは産まれたときのお楽しみだ」
「あ〜ずるい。じゃあ私も教えない♪」
 自信満々で隠しごとをする神崎優に、神崎零はその首に両腕を絡めてだきついていった。そのまま、口づけを交わす。
「どうしたんだ急に?」
 やっと唇が離れ、少し驚いたように神崎優が聞いた。
「だってこの子が産まれたら、もう優を独り占めできないもん。だから今のうちにいっぱい甘えるの」
 そう言うと、神崎零は、再び神崎優にだきついていった。

    ★    ★    ★

「私たちが、コミュニティ世界すてき発見! として活動を開始して早一年。中には去っていった人たちもいるが、今でもここに足を運んでくれる人がいるのは嬉しい限りである」
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)が、離れに集まった面々を見回して言った。
「今日も皆集まってるねー。さすがに全員そろうことはなかなかないけど、ここに来れば誰かに会えるってのは、素敵なことだよね」
 うんうんと、シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)がうなずく。
「時間があると、いつの間にかこうしてレーン家の離れに寄るようになっていたな。もはや、ほとんど習慣だな」
 ソファーに座って、膝の上に載せたリタリエイター・アルヴァス(りたりえいたー・あるばす)の髪をのんびりとなでつけながら、玖純 飛都(くすみ・ひさと)が言った。隣にはアリア・ディスフェイト(ありあ・でぃすふぇいと)が座って、ぴとっと玖純飛都にひっついている。
「切っ掛けが何だったのか思い出せないくらいなじんでしまったが、一年半前には考えられないことだとあらためて思うよ」
 女の子たちに懐かれた玖純飛都が、感慨深げに言った。
「まあ、何か事件が起こることもなく、いつも通りにのんびりとした時間を過ごすだけの場所だけどな。あまり好き勝手をしすぎなければ、何でもありだろう」
 そう言うと、アルクラント・ジェニアスが、ひょいと隣のシルフィア・レーンを自分の方に引き寄せた。
「ちょっと、アル君。皆の前でこんな姿見せたらイメージ壊れちゃうでしょ。普段通りにカッコつけてればいいのに」
 これこれ、いきなり何をするかとシルフィア・レーンが言った。
「まあ、私の部屋は本宅の方にあるので、いつもここにいるというわけではないわけだ。だから、たまには、私たちの暑さをみんなに見せつけるのもよいだろう?」
「特別なことはしないんじゃなかったの?」
 そう言って、シルフィア・レーンが、アルクラント・ジェニアスの手をつまんでポイした。さすがに、ちょっとアルクラント・ジェニアスがしょんぼりしたように見える。
「あんまり残念そうな顔しないでよ。二人のときだったら別に止めないし、こっちからも甘えちゃうからさ」
 さすがに、シルフィア・レーンがアルクラント・ジェニアスに耳打ちする。
「で、なんの話だったな。そうそう、素敵とは何かと言うことだったな」
「そんな話をしていたの?」
 キッチンから、お土産に持ってきたゼリーを銘々分のお皿に移し替えて持ってきたオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)がアルクラント・ジェニアスに訊ねた。
「そういう話だ。私にとっては、そうだな、世界かな。シルフィアがいて、他のパートナーたちがいて、仲間がいる。それ以上に素敵なこと、あると思うか?」
「確かに、友人知人と何とはなく集まり、他愛ない話やら真面目な話やらしながら時間を過ごす自分など、想像したこともなかったな。地球を離れて、パラミタに来ることを選んでよかったと思っているよ」
 冷たいお茶を人数分のコップに次々に注いでいきながら、玖純飛都が言った。
「私にとっての素敵は、んー、ちょっと恥ずかしいけど、愛かな? 男女がどうのって言うのだけじゃなくて、大好きなお友達たちも含めた愛かな。みんなに楽しく過ごしてほしいってのもあるし」
 あまり言葉にはしにくいなあと、シルフィア・レーンが言った。
「そういえば、このソファーも、みんなで買いにいったんだよね」
 みんなの話を静かに聞いていたオデット・オディールが、あらためて今座っているソファーを見て言った。
 何か、庭の方から、トンカンと、大工仕事の音が聞こえてくる。
 深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)が何かしているようだが、テンポがいいので、小気味よいBGMと言うところだ。
「みんな仲良くベタベタするのはいいが、うーん、ちょっと夏だから暑いかのう。意外と出費もかさむし」
 思いっきりオデット・オディールにだきついてから、神凪 深月(かんなぎ・みづき)が言った。
「季節が変わって暑くなると、涼しい着物代や、夏ばてに勝つための精のつく食事とか、いろいろとお金がかかるからのう」
「そうなんですか……」
 玖純飛都の陰に隠れながら、アリア・ディスフェイトが言った。
「しかし……」
 ちらんと、神凪深月が、アリア・ディスフェイトの方を見た。
「アリアは、玖純にくっついてばかりだの。やはり、わらわのことは遊びだったのじゃな。よよよよよ……」
 なんともわざとらしく、神凪深月が着物の袖を涙に濡らした。
「そ、そんなこと、ないです」
 あわててアリア・ディスフェイトが、神凪深月にひっついた。神凪深月が、してやったりという顔になって満足する。
「さて、何か、さっぱりとした物が食べたいところじゃ」
 可愛らしい女の子とひっつくのは楽しいが、それでもやはり暑さはどうにもならないなと神凪深月がつぶやいた。
「流し素麺の用意ができたよー」
 頭に自らの分身とも言える黒猫を作り出して乗せた深夜・イロウメンドが、庭の方からみんなに声をかけた。見れば、庭にみごとな流し素麺の台ができあがっている。
「ナイスタイミングじゃ」
 思わず、神凪深月が、深夜・イロウメンドをハグして褒める。
「みんなで喧嘩にならないように、三つ作ってあるから、どんどん食べてよね」
 さっそく、一同が群がるように流し素麺にならんだ。
 二つに割った竹の水路を流れる水は涼やかで、そこに白い素麺がひとかたまりずつ流されていく。
ここが攻めどきなのじゃ
 神凪深月などは、もう食べ倒す気満々だ。やはり、さっぱりした料理も、夏には似合う。
狙うは、ここ
 箸を持ったリタリエイター・アルヴァスが、素早く流れてきた素麺をすくい取って食べた。
「負けないわよ。アル君も、どんどんすくって!」
 負けじと、シルフィア・レーンがアルクラント・ジェニアスを突いて素麺をすくい取る。
「うーん」
「どれ、オレがとってやろうか?」
 流れている素麺を睨みつけて唸っているリタリエイター・アルヴァスを見て、玖純飛都が言った。
「ああ、わしもお願いします、お願いします」
 あわててアリア・ディスフェイトも玖純飛都に頼み込む。
「大人気だね」
 それを見て、オデット・オディールが言った。
「さあ、おかわりはたくさんあるから、どんどん食べてね。食べきれなくても食べるんだよ」
 そう言って、深夜・イロウメンドがどんどん素麺を流していった。