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学生たちの休日11

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学生たちの休日11

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ヒラニプラの休日



「ええっと、これは何?」
 部屋を掃除していたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、押し入れの中に隠されるようにおかれていた宝くじの山を発見して頭をかかえた。まさにそれは山であった。帯も解かれない連番のくじの束が、何百と重ねられて山積みになっている。
「何って、パラミタサマージャンボ宝くじよ、見て分からない?」
「宝、なんでこんなにたくさんの宝くじが我が家にあるのかって、私は聞いているのよ」
 しれっと言うセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に、セレアナ・ミアキスが詰め寄った。
「だって、この前、私って少尉に昇格したでしょ。もう、これって、イケイケの上り調子で、運気は絶好調で上り坂だと思うのよ。このチャンスを逃したら馬鹿じゃない? 絶対に、今宝くじを買えば当たるのよ。いつ買うの、今でしょ?」
「いや、ありえないから、それ。だいたい、どこにこんなお金があったのよ」
「ボーナスつぎ込んだ」
「ああ、今後の生活費が……」
 セレンフィリティ・シャーレットの言葉に、セレアナ・ミアキスががっくりと肩を落とした。
「それで、お願いがあるんだけれど」
 突然、セレンフィリティ・シャーレットが、セレアナ・ミアキスを拝んで頼みだした。
「何?」
「当選番号もう発表になっているのだけれど、一人で確かめに行く勇気がなくて……」
「これだけいっぺんに買う勇気があって、なんで確かめに行けないのよ、もう。どうせ外れているだろうけど、確認のために行くわよ、さあ」
 セレンフィリティ・シャーレットを急かすと、セレアナ・ミアキスは宝くじの山を二人で担いで、ヒラニプラ駅前の宝くじ売り場へとむかった。
「これはまたたくさん……当たるといいですね」
 売り場のおばちゃんが、一束ずつ当選番号チェック気にかけていく。
 だだだだっと凄い勢いでローラーによってセンサーを通された宝くじが、次々に等級順に整理されていった。当然、九割は外れである。定期的に、五等がぺぺぺぺっと、ホルダーにストックされていく。絶対当たる下一桁だが、もちろんこれだけでは大赤字必至である。
「あっ、当たった♪」
「四等じゃない……」
 たまにペッと吐き出される当たりくじにセレンフィリティ・シャーレットは喜ぶが、しょせんはまだ焼け石に水である。
 それでも、たまに当たりが出ると、それはそれでちょっと嬉しいものだと、思わずセレアナ・ミアキスも選別機をじっと見つめてしまう。
 ぺっ。
 また、当たりくじが吐き出された。例によって四等……。
「じゃないわ、これ何? 機械の故障?」
 ちょっと正確に状況を把握できない二人の目の前で、すっくと立ちあがった宝くじ売り場のおばちゃんが、やにわに手に取ったベルを大きく振って鳴らし始めた。
「おめでとうございます、二等賞大当たりです」
「本当に当たった!?」
 信じられないと、二人が自分の目で当選番号を確かめた。次の瞬間、二人でだきあって小躍りして飛びあがる。
「やったー、やっぱり私は今ついているのよ」
「はい、全部終わりましたよ。換金は、むかいの銀行で行ってください。おめでとうございます」
 慣れた様子で、おばちゃんが銀行を指し示した。
「すぐに手続きしましょう」
 わーい当たったあっと、まだ放心状態のセレンフィリティ・シャーレットを引きずって、セレアナ・ミアキスが銀行にむかった。そのまま、ぼーっとしているセレンフィリティ・シャーレットの代わりに、手続きを進めていく。
「全部終わったわよ」
 セレアナ・ミアキスのその言葉に、やっとセレンフィリティ・シャーレットが我に返った。
「あ、ありがとう。それで、私の札束の山は、どこ? どこ、どこ、どこ〜♪」
 早くみたいとばかりに、セレンフィリティ・シャーレットが周囲を見回した。
「はいこれ」
「なにこれ?」
 セレアナ・ミアキスに一冊の通帳を手渡されて、セレンフィリティ・シャーレットが小首をかしげた。
「セレンはすぐに無駄遣いするから、賞金は全額十年定期に預けたわ。ちなみに、解約は不可能よ」
「ええっ〜!!」
 セレアナ・ミアキスの言葉に、セレンフィリティ・シャーレットは通帳を握りしめたままその場にひっくり返った。

    ★    ★    ★

「誰か?」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)少佐であります』
「どうぞ、少佐」
 インターフォンから聞こえてきた声に、ジェイス・銀霞が答えた。
「失礼します」
 シャンバラ教導団寮の相談室に、ルカルカ・ルーがダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を伴って入ってくる。
「少佐に昇格したそうですね、おめでとうございます。それで、今日は何を相談したいのですか」
 さすがに、士官候補生の学生たちに対してとは誓う丁寧な言葉で、ジェイス・銀霞がルカルカ・ルーに訊ねた。
「その少佐のことなのですが、まだよく分からなくて。実際には、少佐とはどのような職務なのでしょうか。例えば、何かの軍議に出なければならないとか、特定の部下を指導しなければならないとか。少佐としての立場と、権利が知りたいのですが。それから、こちらのダリル・ガイザックですが、私のパートナーですが、同じ階級として扱われるのでしょうか?」
 ルカルカ・ルーが、現在疑問にだいていることをジェイス・銀霞に話した。
「なるほど。少佐になるというのも大変なことだな。まず簡潔に述べよう、基本的に少佐になったからと言って、待遇がややよくなる以外は今までと何ら変わりはない。特に、特別な権利は、平常時は皆無だと思っておくべきだな」
「えっ、じゃあ、なんのための少佐なんですか!?」
 ジェイス・銀霞の回答が、すぐにはのみ込めなくてルカルカ・ルーが聞き返した。
「まず、棍本的な認識の違いが発生している。少佐というものは、組織内の階級であって、役職ではない。役職ではないから、特別な権限も発生しない。これは重要なことだ。例えば、学校で言えば、少尉が一年生とすれば、少佐は四年生といったところか。学年が違っても、特別な権限などは発生しないだろう。要はそういうことだ。もちろん、上の階級の者は、下の階級の者から敬意を払われることになる。これは、礼節としてあたりまえのことだな。だが、階級を振りかざして、下の者を私利私欲に利用しようとする者は、愚か者であると言わざるをえない。組織としては、切り捨てるべきガンであるとも言えよう」
 きっぱりとジェイス・銀霞が言った。
「貴官が言う何かしらの権限と義務を負う立場は、階級ではなくて役職ということになる。これらは、司令部から辞令をもって任命されるものだ。それ以外ではありえん。例えば、私は寮監をしているが、寮の出来事に関しては、たとえ階級が上の者が相手であっても権限は上だ。正当な理由と手続きなしで寮則を破る者がいれば、たとえ大佐であろうと注意したり、場合によっては拘束することができる。つまりはそういうことだな」
「では、特別な職務に就いたり、自分の事務室をあてがわられたり、部隊の指揮をしたりとかは……」
「まったくない。それらは、何らかの役職を任命された場合のみ、その範囲内でそういう権限や義務を持つことになる。そうでない場合は、今まで通りの寮か自宅に住む形であるな。ただ、もちろん、待遇はよくなる。寮の場合は上級士官用の個室には移ってもらおう。また、作戦行動において、大型飛空艇での移動時などは、原則的に個室を与えられる。また、指揮権に関しては、階級に関係なく、部隊長が指揮権を有する。ただし、現場で部隊長が死亡したり負傷して指揮能力を失った場合、現場での最高階級の者が臨時で指揮権を行使することはありえる。それ以外では、軍規違反になるので注意したまえ」
 ジェイス・銀霞がきっちりと釘を刺した。基本的には、部隊の指揮官は最高位の者がつとめるのが普通であるが、特殊任務などでは専門の知識を持った者が指揮する場合があり、その場合は階級を無視して指揮官が選抜されることがある。特にパラミタのように、小部隊での行動が多い所では、よくある話である。この場合、階級が上だからと言って隊長を無視すれば、後で軍規に照らして罰されることになる。
「また、パートナーの扱いに関してだが、階級は個々人において与えられるものであるので、ダリル・ガイザックに関しては、正式に任命されない限りは少佐ではない。階級は元のままだ。ただし、貴官が何らかの職務に就いた場合、その権限内において副官などを任命するのは可能だ。もちろん、正式には司令部の許可が必要とはなるが、自分のブレーンなどの任命権は当然持っている。それによって、パートナーにも階級ではなく、役職が任じられ、それに従った権限と義務を有することができる。現在貴官らは、機甲科と情報科に所属しているようだな。だが、所属と役職とは別のものである。また、役職は、現行の編制においてのみ有効であり、部隊編制が変われば失効することもあることに留意したまえ。所属している科や部隊において、その時点で役職を任命されていない限りは、指揮権などの特定の権限は有していないので注意するように。当然、麾下にない異なる部隊の命令に関与することはできない。必要が生じれば、作戦ごとに新しく編制された部隊を割り当てられたり、指揮官に任命されるだろう。そこで初めて貴官の真価が問われるというわけだ。以上だ。退出したまえ」
「はっ」
 敬礼すると、ルカルカ・ルーはダリル・ガイザックを伴って退出していった。
「役職か。平時は、なかなかに縁遠いものかもしれないな。だが、俺はいつだって、ルカの副官だ。いつでも活躍できるようにそばにおいておいてくれ」
 ダリル・ガイザックが、そうルカルカ・ルーに告げた。
「ありがとう。いつだってダリルの立つ場所は私の横だ」
 ルカルカ・ルーはそう答えた。

    ★    ★    ★

「ああ、それは、中に食器が入ってるから、丁寧に運んでくださいませ」
 力に任せてどんどん引っ越し荷物を運ぼうとするジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)にむかって、フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)があわてて釘を刺した。
 新婚の二人は、新居への引っ越しの最中である。
 さすがに結婚したので、下士官用の宿舎にバラバラですむわけにもいかず、ましてや既婚者は独身寮からは追い出されるしきたりである。とはいえ、軍曹であるジェイコブ・バウアーでは、りっぱな上級士官用の住居というわけにもいかないので、手頃な既婚者用の官舎を申請して許可が下りたというところだ。
「そのソファーは、居間の窓のない壁にくっつけておいてくださいませ。そのタンスは、寝室の方です」
 テキパキとフィリシア・バウアーが指示を与えていくが、結構細かくて容赦がない。まったく、これではすでにジェイコブ・バウアーは完全に女房の尻に敷かれているという状態だ。まあ、誰の目にもそれは明らかなのではあるが。
「結婚すると、女は変わるものだなあ……以前よりも逞しくなったかな」
 なんだか顎でこき使われている割りには、まんざらでもなさそうにジェイコブ・バウアーがつぶやいた。
 さすがに鍛えた身体で荷物を運び終え、日没ごろにはなんとか家の中で落ち着けるようにはなった。もちろん、段ボール箱を開けて、フィリシア・バウアーが生活に必要な物を最優先で整理していったことが大きい。
「お疲れ様ですわ」
 お盆にビールとおツマミを載せて、フィリシア・バウアーがキッチンから戻ってきた。
「さすが、気が利く奥さんだ」
「ええ、あなたの奥さんですもの」
 そう言うと、フィリシア・バウアーがジェイコブ・バウアーとビールのグラスをコツンとぶつけて乾杯した。息の合った仕種で、鏡に映したようにビールをごくごくと飲む。
 なんだか、少し俺に似てきたかと、ちょっとジェイコブ・バウアーが思った。やっぱり、こうして結ばれたのは必然だったのかもしれない。これから、ますます似たもの夫婦になっていくのだろう。それとも、かかあ天下かなと、ジェイコブ・バウアーは密かに思った。