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無人島物語

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無人島物語

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『ダイパニック号』から海に放り出された参加者たちは、いつしか続々とこの島に流れ着いていた。運命にも導かれ、彼らは出会うのだ。
 そんな中、島の西側の入り江に流れ着いていたアレン・オルブライト(あれん・おるぶらいと)は、海で別れてしまったマスターたちをを探して海岸沿いを歩いていた。大事には至っていないとは思うが、大切な女の子たちばかりだ。男としてほうっておくわけには行かない。
「……ん?」
 そのアレンは、波打ち際に、見覚えのある狼が打ち上げられているのをみつけた。それは、海難事故で流されたアイテムの一つ。『賢狼』もまた、遭難していたのだ。
「これは……」
 すべてを悟ったアレンは、狼を助け上げると抱きかかえた。
 持ち主はわかっている。後は、彼女を探すのみだ。



 アレンのマスターの時見 のるん(ときみ・のるん)は同じ頃に無人島に辿り着いていた。
「大変な事件に遭遇したけど、ここまできたらもう大丈夫だよ。ご飯食べて、暖を取って、安心して休みましょ」
 彼女はパートナーたちを見つめながら言った。
 遊びに行っておいで、と父親からもらった『ダイパニック号』のチケット。くれた父親もまさかこんな事故に発展するとは思ってもいなかったろう。それ以上に、のるん本人だけでなく、パートナーたちまで一緒に巻き込まれてしまったのだ。元気を出すために、明るく笑顔を浮かべていた。
「点呼取るよっ。……小花」
「はい」
 橙 小花(ちぇん・しゃおふぁ)が返事をした。
「ジャンヌ」
「うん」
 これは、同じくパートナーのジャンヌ・ハミルトン(じゃんぬ・はみるとん)だ。
「アレン?」
 し〜ん。返事はなかった。のるんたちを探している頃だ。だが、そんなこと知らないのるんは、少し表情を曇らせる。だが、そんなこと知らないのるんは、少し表情を曇らせる。
「アレン……、どこ行っちゃったのかな?」
 だが、のるんはすぐに気を取り直した。彼もきっと無事だろう。
 それよりも、腹ごしらえが必要だった。遊ぶにしても、他の遭難者たちを探すにしても、沈没から何も食べていない状態は危険だった。
「……」
 ちょっと考えて、のるんは魚を取る事にした。以前TVのお笑い番組で見たことがあるのだ。泳いで遊びながら魚を取るのも楽しいだろう。
「私もお供いたします」
 小花が小さく手を上げる。
「ワタシもワタシも! 海潜って魚とるよ!」
「待ってください」
 早速海に飛び込もうとするジャンヌを、小花は引きとめた。少しモジモジしながらのるんに言う。
「その……、服はあまり着ていかないほうが、泳ぎやすいと思うのですが」
 小花はマーメードドレスを身にまとっていた。遭難して波にもまれて流されてきたので、美しいドレスがぐっしょりと台無しになってしまっていた。
「確かにそうね。のるんも、お洋服が濡れて身体にひっついていてちょっと気持ち悪いよ」
 着替えよっか……、とのるんが目で言うと、小花も頷く。
 のるんたちは死角になっている岩場の陰へと移動した。誰がどこで見ているかわからない、いやそれ以前に、恥じらいを持つことは乙女として当然だった。
「……」
 のるんは、衣装を脱いだ。日焼けしていない真っ白な肌が露になる。
 その時だった……!
「なにあれ?」
 のるんは、海にダンボール箱が浮いているのに気づいた。
「もう……。海にごみを捨てちゃ駄目じゃない。悪い人がいるなぁ……」
 のるんは、パートナーたちと協力してダンボール箱を引き上げた。
「何が入っているんでしょうか?」
 小花は好奇心もあいまって、開けてみた。
「ハァハァハァ……!」 
 ダンボール箱の中では、息遣いを荒くした葛城吹雪が膝を抱えて全裸待機していた。
 殺気を孕んだ目でのるんたちを見る。リア充じゃないのを見て取ると、吹雪はそのまま「うふふふふふ……」と声を出しながらまったりした雰囲気になった。少し疲れたので休もう。
「きゃーーーーーーっっ!?」
 小花は悲鳴を上げる。
ドレスを脱ぎ去り下着姿になっていた彼女はその場にぺたんと座り込むと身を震わせ、ぽろぽろと泣き始める。
 男の人に見られたりしたらどうしよう、と思っていたのだが、それ以上だった。変態さんだ。
「もう、お嫁にいけません」
「何者なの!?」 
 のるんも唖然とした。こんな大胆な覗きは初めてだった。変態さんは断固お断りである。
「ほーすけ、やっちゃって!」
 のるんは、『賢狼』の名を呼んだ。ほーすけというのがそうらしい。
 反応はなかった。今回のルール上、『賢狼』もアイテム扱いになるのだ。遭難の際、一緒に波に流されてしまったようだった。
「あ、あれ……?」
 のるんは、ちょっぴり涙目になった。これでは予定が違うじゃないか。 
「ほーすけなら、ここにいる」
 救出した『賢狼』を抱きかかえたアレンが颯爽と姿を現した。
「ようやく出会えたな。皆無事でよかった……」
「あ〜、アレンだ〜。ねえねえ、背中のチャックはずして」
 普段着慣れないドレスの背中のチャックを下ろすのに四苦八苦していたジャンヌが、ドレス半脱ぎのまま近寄ってくる。
「のるん、一つ言っておきたいのだが」
 女の子の裸に興味を示さないアレンがクールな口調で言った。
「キミはこれから、泳いで魚を取ろうなどと考えているのではないだろうね? 悪いことは言わない。そんな無謀で体力の無駄な捕獲方法はやめておいたほうがいい。大自然はそれほど甘くはないし、能天気な常識が通じる場所ではない。そもそも……」
「ばかああああああっっ!」
 のるんの、乙女の恥じらいパンチがアレンに炸裂していた。お約束展開で、遠慮などしている余裕はなかった。
『賢狼』も、よくわからないまま吹雪を海へと叩き落した。
「また会うでありますよ〜。ぶくぶく……」
 吹雪は海の中へと消えていった。
 だが、まだ死んでいない。こんなに簡単に収まるわけがなかった。
「誰か、ワタシのチャック外してよぅ〜」
 ジャンヌが大きな胸をむき出しにしたまま、どこかへ駆けていく。
 全く本当に……、酷い事態もあったもんだった。
 こうして少女たちは逆境の中で大きく成長していくのだ。