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王子様とプールと私

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【ヴァレリア、学習中】


 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は、海京ウォーターパークにある屋外プールの入り口で、呆然としていた。
 ピンク色の際どいビキニ姿のヴァレリアが己の左手を握っているから、ではない。そこら中にカップルが溢れているから、でもない。
 キロスとヴァレリアの前に、一般男性数名が立ち尽くしている。
「お兄さんたち、ボクたちといっぱい楽しいコトしよ?」
「ねぇ、貴方達。あたし達と遊ばないかしら?」
 キロスの目が点になっていたのは、神月 摩耶(こうづき・まや)クリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)たち、総勢七人が男性の集団を逆ナンをしている現場に出くわしたせいだった。
 ただナンパしているだけなら、キロスたちもスルーできていただろう。
「だめかなー? ボク、イイコトしたいんだけどなー……?」
 可愛い桃色のワンピースの水着を着た摩耶は、一人の男の腕に抱きついている。大きな胸を惜しみなく押し付ける。
「えっ、で、でもその」
「ほらぁ、遠慮なんてしちゃダメよ♪」
 赤いビキニを着たクリームヒルトも、男に胸を押し付けながら甘い吐息をかける。
「駄目だよ、主殿! あんな何処の馬の骨とも……って、穎殿!?」
 青いビキニ姿の翔月・オッフェンバッハ(かづき・おっふぇんばっは)が摩耶たちの逆ナンを身体を張って止めようとしたが、青のモノキニを着た董卓 仲穎(とうたく・ちゅうえい)がそれを横から押しとどめた。
「……ほら、翔月様もカタいコト申されずご一緒に楽しみましょう?」
 仲穎は翔月に囁いて、近くで固まっている一般男性陣の前へと連れて行った。
「そんなことしちゃ駄目だよぉ♪」
「翔月様もいぢめられるのはお好きでしょう♪ その辺はっきり分かるように、思う存分嬲って差し上げますからね……」
「ああっ♪ 拙者は、拙者はそんなつもりはぁ♪」

 仲穎に体を触られる翔月の様子をじっと見ていたのは、もちろんキロスや男性陣だけではない。
「現代のプールというのは、このようなことをする場なのですね……」
 ヴァレリアがポツリとこぼした呟きを聞きとったキロスは、咄嗟にヴァレリアの目を右手で覆い隠す。
(やっぱりこうなった!!!!!)
 キロスが呆然としていたのは、どのようにしてヴァレリアをこの場から連れ出すべきか、考えようとして思考が追いつかなかったからに他ならない。
「キロス様、前が見えませんわ」
「そりゃそうだ。いいか、この場所は教育上あまりよろしくないので移動するぞ」
「目隠しをしたまま、ですk「んゃぅぅ♪ き、気持ちよくなっちゃうよぉ♪」
 突然聞こえてきた声に思わず顔を上げたキロスは、摩耶とクリームヒルトに身体中を触られているミム・キューブ(みむ・きゅーぶ)を見留めた。
「ほら、ミムちゃんもお願いしよ♪」
「んぅ、抱っこすればいいのー?」
 スクール水着姿のミムは、戸惑う男に「4−1 みむ」と書かれた胸元のワッペンを押し付けるように抱きついた。
 そんなミムの後ろでは、ゴシック風の装飾が施されたビキニを着たリリンキッシュ・ヴィルチュア(りりんきっしゅ・びるちゅあ)が何やらブツブツと嘆いている。
「私としては、ずっと摩耶様と戯れていたく、ぴったりとくっついでいようと思っていたのですが……あぁ、そんな私では不服なのですか?!」
「あは、リリンちゃんったら心配しなくても大丈夫だよー。アンネちゃん、よろしくお相手したげてねぇ♪」
 摩耶に促されて、緑のビキニ姿のアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)がリリンに背から抱きついた。
「リリン様。落ち着いて下さいまし。他のお客様のご迷惑になりますわ。従者たるもの、主の希望は尊重しなければなりませんわ」
「……うぅ、確かに摩耶様のご意思は最優先ですが……きゃぅん!?」
「リリン様の良い香りがしますわ……♪」
「ぁぁ、あ、アンネ様ぁぁ……そ、そんないやらしい手つきでぇ……あぁぁ、お、お止めくださいなぁ……♪」
 はあはあと息を荒げるアンネと、全年齢対象のシナリオでは描写しがたい表情のリリンを見て、キロスは思考した。どちらにせよ、視覚的にも聴覚的にも、ヴァレリアの教育によろしくない、ということは確かである。
 とりあえずキロスは、ヴァレリアの耳と目を両手で塞ぐことにした。
「キロス様、耳がぼわっとしますわ」
「ほら、行くぞ」
「良く聞こえませんわ」
 耳を塞いだため、キロスの声もヴァレリアには良く聞こえなかったらしい。キロスはヴァレリアの耳から手を離す。
「だ・か・ら、行k「あんっ♪ 此処じゃ駄目よ♪ 後で思いっきり、ね? うふふふっ♪」
 クリームヒルトの声が聞こえた瞬間、キロスはまたヴァレリアの耳を塞ぐ。

「キロス様……」
 ヴァレリアがキロスの腕をそっとほどき、くるりとキロスと向き合った。
「わたくしも、あのようにしてデートにお誘いすべきでしたのね……」
 まさか、とキロスが思った瞬間には??その胸元にヴァレリアが顔を埋めていた。そして、ぐいぐいと胸を押し付けて来る。
「ちょ、ヴァレリア……」
 慌てて声を掛けたキロスは、……数秒の後、自身を見上げるヴァレリアの悲壮感溢れる表情を目の当たりにする。

「……キロス様。わたくし、当てられる胸がありませんでしたわ……どうしたらよろしいでしょう……」

(俺に聞くな!!!!!)
 キロスは内心で叫んだ。しかし、ヴァレリアは相変わらずの様子の7人をちらりと見やった。
「こうなりましたら、実地で学ぶしかありませんわね……!」
 つい数秒前までの悲しそうな表情はどこへやら、決意に満ちた表情に変わったヴァレリアは、摩耶たちの元へと駆けて行く。
「お、おい待て! あんまり変なこと覚えさせてユーフォリアたちのとこ帰すわけに行かねえんだよ!!」
 キロスの悲痛な叫びがその耳に届くより速く、ヴァレリアは7人の元に駆け寄っていた。
「あはっ♪ ボクたちの逆ナン見てたの?」
「ええ。是非、男性の方との接し方を学ばせて頂こうと思いまして」
 摩耶に頼み込むヴァレリアに、クリームヒルトが妖しく笑う。
「それじゃあ、あたし達がナンパの仕方、教えてあげようかしら?」
「是非お願い致しますわ!」
「それじゃあ、まずはこうやって身体をくっつけて??」

 それから数秒も立たないうちに、キロスにずるずると引きずられて連れ去られて行くヴァレリアの姿があったそうな。