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茨姫は秘密の部屋に

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茨姫は秘密の部屋に

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 地下の回廊を歩き続けていると、やがてジゼルらの前に先程と似た形状の百足モンスターが現れた。
「やっぱりジゼルを狙ってる――」
 グラキエスが起こした氷の嵐でジゼルの姿を隠している間、反対側から銃声が響いた。
 銃弾は別の契約者た放ったらしい植物に足を取られる百足の一対の触覚や体節を撃抜いていく。
「軍隊に合わせて珍しく銃なんて使ってみたけど、たまには悪く無いわね」
「でも百足の足を取るって骨折れるわ」
 魔法の銃弾が起こした硝煙を吹いて現れたのはエリス、そして植物を操っていたのはルカルカだ。
「天禰、俺の後ろへ下がれ」
 言いながら、考高は薫を守るように前に立ち、分身する事でエリス達が攻撃した百足の傷口から這い出てきた複数の幼虫を刻んでいく。
「気味が悪いな。だからあいつの軍門に下るなんて……まあ、天禰は何もわかっていないから別にいいか。
 天禰、俺がお前を守るから、心配するな」
 ここぞとばかりに主張する考高だったが、とうの薫は「ふええ?」と矢張り分かっていないようだった。
 その様子を呆れながら見ている尊は、大振りの剣を振るうのだが、このままでは埒が空かない。
「誰か一気にやっちまえてめー! このー!」
 声に次いで雷撃が既に死骸と化していた百足を襲い、幼虫はそれきり姿を現さなくなる。
 動かなくなった百足を踏み越えてジゼルらのもとへダリルが現れた。
「ジゼル、無事で良かった。
 何故地下にきた。理由も無くそんな事しないだろう」
「私は、皆が心配で……。
 ううん、全部が分からなくなって、どうなっちゃってもいいって思って――そしたらゲートが開いて……」
「アレクに聞いた通りだな」
「……うん」
「心配した」
 安堵を見せるダリルの表情を、ジゼルは見上げている。
「この先に、アレクがきている」
 地上を探索していたアレクらが地下へきた時、そこへ現れた姫星達とザカコに『調査の件について発見があった』と、ここへ連れて来られたのだとダリルは言う。
「皆、ごめんなさい。
 私ちゃんと、お兄ちゃんと話し合う。
 皆に向き合える様になりたいの」
 決意を口にしたジゼルの背中を押して、ユピリアが微笑む。
「いこっか?」
「うん」
 扉を開いたジゼルが目に飛び込んだのは、『本物』の妹を抱きしめるアレクの姿だった。 

* * *

「ここですアレクさん!」
「教団のものが吐いた『白い荊に縛られ眠り続ける乙女』
 ――『白荊の乙女』は恐らくこの娘で間違い無いでしょう」
 姫星に案内された祭壇で、契約者達は棺の中の少女を見下ろしている。
 そろぞれの分析を口にしている彼等の中で、一人ぴくりとも動かないアレクに、墓守姫は気がついた。
「ミスター?」
「どうしたよ」
 アレクの後ろから顔を出したカガチは、棺の少女を見て息を呑む。
 少女の姿に、真実を見つけたからだ。
「…………ミリツァ」
 茫然と立ち尽くしたままのアレクが呼んだ名前に答える様に、黒髪の少女はぱちりと金の瞳を開いて見せた。
 するとそれを合図に、棺の蓋が開き、色のついた液体がチューブの中へ排水されてゆく。
 口を開き完全に目を覚ました様子の少女に、アレクは手を伸ばし、彼女はその手を取って微笑むのだった。

「お兄ちゃん……きてくれたのね。
 やっぱりあなたは、私の王子様だわ」