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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・前編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・前編

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第5章 精神を乱す邪徒 Story1

 侵入者を迎え撃とうと待ち構えていたボコールは、突然の大雨に何事かと騒ぐ。
「はいはいー、ただの雨じゃありませんよーっと」
 それはレイン・オブ・ペネトレーションによる可視化の雨だった。
「ウフフ、女神様が遊んであげるわね♪」
 カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)はセイクリッドハウルの咆哮で、彼らの注意を自分へ向けさせる。
「ほら、近づけ。危ないぞ」
「いやねぇ、羽純。女神に対してその言葉ってなくない?」
「ウソを言う必要ないだろ?」
 膨れっ面をするカティヤに、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が失笑する。
「あ〜その顔、かわいくなぁーい」
「―…あはは。ホント、目立ちますね」
 相変わらずの騒ぎようを目にして、遠野 歌菜(とおの・かな)は乾いた笑いを漏らした。
「やだわ、歌菜ったら。控えめな女神じゃ、目立たないでしょー?」
 長い黒色の黒髪を後ろにやり、“当たり前よ♪”という態度をとった。
「ばーか。進入したってバレバレじゃんか」
「えぇ。私の姿を隠しちゃ、見ている人が残念がってしまうもの」
「見ている人って…どこの誰に向かっていっているんだか」
「もちろん仲間と、気に入らないけどついでにこいつらもってことかしらね」
 羽純のツッコミに対して、自信満々に言ってみせた。
「けっ、見たくねぇーよバァーカ」
「口の悪い人♪」
「3人だけでどーすんだってーの」
「あらら、他の人は?」
 きょろきょろと見回してみるが、パートナーの姿しか見当たらない。
「アンデット化して彷徨いなっ」
 ボコールは大気のトゲ縄を這わせ、カティヤたちを拘束しようとする。
「ここにいましたのね。ずいぶん探しましたわ」
 ビバーチェを連れたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、目深に被った帽子のつばを指で持ち上げ、可視化させられた者の姿を確認する。
「さぁビバーチェ、あなたの能力でわたくしたちを守りなさい」
「フフッ。始めて会った頃より、だいぶ成長したようね」
 エリシアの成長を喜び、彼女の頼みとあらばと鮮やかな赤い花びらを舞わせる。
「―……チィッ!!クローリス使いか。その鬱陶しい匂いを撒き散らすんじゃねぇ!!」
 カティヤたちに絡みつかせたトゲ縄の効力が無効化され怒声を上げた。
「ふぅ〜。わたくしたちにとっては、よいものですもの。止めるわけありませんわ」
 小ばかにしたようにクスクスと笑い、彼らの苦情を拒否する。
「おねーちゃん。携帯が鳴っているよ」
「こんな時に、何の用が…」
 やれやれと嘆息しつつも、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)からのメールを開いた。

 ―今日も任務ですか?―

 エリドゥ方面へ行くのって今日でしたっけ。
 遠征、長引きそうでしょうか。


 そうそう。
 クローゼットにしまってあった浴衣を出してみたんです。
 なんとなく、着てみようか…ということになって。
 妻と二人でミニファッションショーしちゃいました。
 まぁ場所は、自宅のリビングでしたけどね。
 懐かしい昔の蒼空学園制服や、イルミンスールなどの他校の制服とか着たり…。
 記念に、写真なんか撮ってみたりしちゃいましたね。

 あと、ツァンダに帰る日にちが合いそうでしたら。
 エリシアとノーンも、一緒にお祭りに行きませんか?

 by 陽太

「はぁ〜…イチャイチャ夫婦に付き合えと?」
「むー。お祭り、いいなー。わたしもいきたーい」
「お仕事があるんですのよ、ノーン」
 めっ!とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の頭を撫でてかぶりを振った。
「あうぅう…」
 一瞬で祭りフラグがなくなり、残念そうに俯く。
「よゆーそうじゃねぇーの!?」
「そう急かさないで?私が相手してあ・げ・る♪」
 歌菜に加速してもらい、地獄の天使の翼で迫る相手よりも先にクローリス使いの前に立つ。
 咆哮で魔術を唱える魔を与えず、嬉々として攻める。
「おいカティヤ。強制憑依の離脱までさせる能力はないんだからな。そこを気づかれないようにしろよ」
「んもぅ、それくらい分かってるわ、羽純」
 取り込んだ魔性を救うまでに至らないとバレてしまえば、勢いづいた相手がさらに攻めてくる。
 カティヤもその辺りはちゃんと空気を呼んでいる。
「ともあれ、気を散らすくらいはできそうですよ。…ノーンさん、フラワーハンドベル使ってくれると嬉しいな」
「器のほうの力を、もっと減退させないと呼びかけられないよ?」
「能力を使いづらくする程度でもいいの、お願いね」
「はぁーい。ルルディちゃん、これに香りをちょうだい!」
 ルルディは淡く清楚な白色ドレスを風に揺らし、ノーンに小さく頷いて白い花びらの香りをフラワーハンドベルへ送る。
「んだぁ、それはぁあ」
「知る必要なんてないわっ」
 エアスライサーで肌を裂かれながら、花の魔性の召喚者であるノーンを守る。
「(カティヤさん、耐えてください…)」
 歌菜はマーシファル・レインをかき鳴らし、少女を懸命に守っているカティヤの傷を癒す。
「どーゆうこった。傷が治っていくぞ!」
「あの女のせいじゃねー?」
 どういうわけか女神と名乗るカティヤの傷が回復していく。
 何か特別な術でも使っているのだろうか。
 辺りを見回すと歌菜が、楽器らしきものを鳴らしていた。
 あの女を倒せばいいのか。
 そう思った別のボコールたちが歌菜に狙いを定め、風の刃で切り刻もうとする。
「―…んのやろうーっ!!」
 フレアソウルの炎を纏った羽純がボコールに掴みかかる。
「燃えちまいな」
「はっ!あの女、あんたの女かぁ?くくくっ、そんな乱れた感情で、魔道具がまともに使えるかねぇ〜」
「黙れっ」
「あんたから刻まれてみるかぁ!」
 からかうようにケラケラと笑い、風の刃をむちゃくちゃに放つ。
「うっ、ぁあああーー!?」
「崩れたな♪」
 エターナルソウルの行使が遅れた様子を見て愉快そうに言う。
「(遠野、そちらは囮だったか。状況を教えてくれ)」
「(和輝さんですか?羽純くんが魔法で切られてしまいました…。中位以上の章使いもいませんし、誰か…応援にきてほしいです。できれば、急ぎで…っ)」
「(了解した。2人ほど頼めそうだ。それまで引き続き囮を頼む)」
「(はい…)」
 涙声になりながらテレパシー会話を終え、膝をつく羽純へ目をやる。
「羽純くん!」
「俺のことはいい。歌菜は、歌菜の役目をしろ」
「で、でも…」
「クローリス使いをやられてしまったら、…あとはどうなるか分かるだろ」
 駆け寄ろうとする彼女を止め、自分の役目を果たせと告げた。
「ノーン、ハンドベルの効果はまだですの?」
「香りをもらえたよ、おねーちゃん」
 カララン、カラァン。
 フラワーハンドベルを鳴らしてボコールの気を乱そうとする。
「くっ…その不快な音…やめろ!!」
 ギロリと薄い緑色の瞳を向け、ノーンをターゲッティングした彼は大気を震わせ、少女目掛けてタービュランスを放つ。
「はわっ!?」
「避けて、ノーンさん!」
 エターナルソウルで加速させるが、魔法は逃走方向へ変えて少女の片足を貫く。
「ちぇ、腹にでも当たればよかったのに♪」
「あ…あなたたちという人はっ」
「歌菜、怒ってはいけないわ」
 怒りは魔道具の力に影響してしまうとカティヤが言う。
「ですけど、このままじゃ…」
 いいようにあしらわれる状況に、歌菜は悔しげに歯噛みする。
「あ、あの。加勢するように、和輝さんから言われたのですけど。え、えっと…歌菜さんたちのほうで、よかったですか…?」
 “囮組”へ参加してくれと伝えられ、騒ぎ声がするほうだろうと思い高峰 結和(たかみね・ゆうわ)はおどおどとした口調で声をかけた。
「は、はい!ありがとうございます…。う、うぅ…」
「あわわわっ!?ど、ど…どうしたんですか、歌菜さん」
 泣きながらしがみついてきた歌菜に驚き、何が何やら状況が分からず、彼女の顔を覗き込む。
「は、羽純さんが怪我をっ。そこまで行くのは、…相手の射程距離に入るのも同然ですね。ロラ、宝石の力を羽純さんに」
「うぅー!んぅー!!(はーい!いったん下がって!!)」
 ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)は時の宝石の力を彼に与え、ボコールの傍から離れるように言う。
「つまんないなぁー。もっと遊んでやろうかと思ったのに♪」
「あのやろう…」
「んぅう、ぅうー。(平常心でいなきゃ、いけないよ?)」
 ロラは羽純の身体中の傷を命のうねりで治してやる。
「ノーンさんも治しましょうか?」
「ううん、回復魔法使えるから大丈夫。わたしのことより、取り込まれちゃった魔性を開放しなきゃだよ」
「分かりました。(囮といっても、ほうっておいていいわけではないですし…)」
「歌菜、羽純はクローリス使いを守って。私は派手に暴れるから♪」
 結和の詠唱稼ぎをしようと咆哮でボコールを退かせる。
「(―…これですぐに効果が切れてしまいますね)」
 足場を崩してやればよいか。
 裁きの章やアシッドミストで砂を湿らせてようと試みたが、すぐに気化してしまう。
 期待通りの効果はなく、ならば足止めはどうだろうか。
 悔悟の章で体力を低下させ、ロラに反応を見てもらう。
 アークソウルの範囲にひっかかった気配の動きが、僅かに鈍ったことを結和に伝える。
 鈍らせてから哀切の章を使えばよさそうだ。
 そう判断した結和はスペルブックのページを捲った。