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リアクション
第9章 虚構の魔性
「ルカは、可視化のほうに専念するね」
「いいか、祓うことが今回の目的ではない」
十分引き離せたと思ったら、すぐ離れろとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が言う。
「しっかしなぁ、淵にはよい想定外だよな。オメガは先に侵入して、俺ら後からとか…そんなんじゃなかったか?」
応援が必要な危機的状況の場合、携帯で呼んでもらうんじゃなかったか、とカルキノスが首を傾げた。
「いろいろあったのだ!それも致し方ないことだ、カルキッ」
「んまぁ〜、一応…目的の保護は、陣たちがやってくれたしな。黒フードのやつらも、当分追ってこれねぇーだろ」
フレンディスたち相手では、簡単に追いつけそうにない。
目の前の相手だけに集中すればよい。
カルキノスはスペルブックを開き詠唱の準備をする。
「淵は足のほうを頼んだぞ」
「うむ…それはよいが」
オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)まで攻撃をくらわないか、不安そうに彼女を見る。
「俺の手を離すではないぞ」
「はい、淵さん」
「(い、いかん。意識してはいかんっ)」
単純に守るためなのだからと、高鳴る心を必死に落ち着かせようとする。
「ふーん、仲いいんだ?」
「だったら何だ…」
「ぐっちゃぐちゃにしてやりたいかも♪あーそうだ、あんたらの仲がー…ぽーんってなっちゃうかもなぁ。とか、言ってみる」
「そんなわけあるはずがっ」
と、思いつつおそるおそるオメガのほうを見てしまう。
「ばぁか、ばーかウソだってば」
クローリス使いがいるのに、わざわざ呪いは使わない…と思う、などという態度で小ばかにする。
「呪いじゃないみたいだね」
「う、うむ…」
魔術ではなかったとしても、心のどこかがもやっとした。
「そうやって精神を乱そうとしてくるんだよ」
フラワーハンドベルを鳴らし、淵の気分を落ち着かせる。
「俺としたことがっ」
「あはは、おもしろーい!おもしろいけどさぁー、こーするともっと楽しくなりそー」
ディアボロスは黒い月の輝きを強め、怒りの感情を呼び起こそうとする。
「―……っ。こんなものくらい続けるのは、ちとアレだぞ。…ダリルッ」
「魔力を削ぐしかない。カルキと淵は哀切の章を使え。俺は射程距離を広げる」
「ほいほい。んじゃ、やるか」
「(やはり長期戦は避けるべきか。俺が逃走の間を見極めないとな)」
白魔術の気を纏い、贖罪の章の効力をカルキノスと淵に与える。
淵が礫状に変化させた祓魔術に、光りの嵐を紛れさせてフェイクに使う。
「うあっ、なんかぶつかった!?って驚いてみる♪」
術をくらいながらも彼女は平気そうにヘラっと笑う。
「(ふぅーん。魔力を使う力を減退させる効果があるのか。まだいけるけど、さぁどうしようかな♪)」
退く様子を見せず、どれだけ力があるのかダリルたちの行動を観察する。
逃げるそぶりをしてもよかったが…。
オメガのニクシーによる水のバリアが破裂し、淵が励ましている様子を見ると壊したくなってくる。
「なーんかさ。ぐちゃぐちゃにしたいなぁ…って思わせるんだよね」
「(今…逃走しようが、こいつは追ってくるだろう。くっ、どうすれば…)」
闇ダメージを受けて苦しげに疲弊し始めたルカルカたちを見つつ、ダリルは必死に策を練る。
「淵、カルキ。俺がもういいと言うまで、唱え続けろ」
「といってもなぁ…」
「泣き言は却下だ」
「へいへーい。んなこと言ってねーよ」
「はははっ。熱いやつらだねー♪けどさぁ、それもめっちゃくちゃにしたくなっちゃったり」
「いたずらに消耗し続けるわけにもいきません。さて…」
ボコール相手ならシルキーの属性を、章に乗せて祓う術はある。
だが、これを退かせるためには、相応の考えがいりそうだ。
リトルフロイラインとカルキノスの2人で誘導し、淵の術を命中させにいけばよいか。
ダリルに小声で言い、術を行使する力を削ごうと提案する。
「それしかなさそうだな」
「なぁに、相談ごと?何々、聞かせてよー」
「へっ、イヤだ♪」
カルキノスは冗談交じりに言いつつ、祓魔術をフェイクとして使い、淵が術をあてるポイントへ誘導する。
「ふふーん、スカスカだね。…むっ、またなんかぶつかった」
「皆、離れろ!」
注意が逸れた一瞬の隙をつきダリルが声を上げた。
「んー…。あー、逃げた。ふぅ、まぁいいや」
彼らの今の実力も見れたし、収穫はあったからそれでよしと追うのをやめた。
「あのガキの心臓取り損ねちゃったなぁー。あいつ、怒るかも。まぁ。ベースさえあれば、まだチャンスあるし。いいっか♪」
後は黒フードの連中に命令しておけばよいかと、ディアボロスは祭壇のほうへ戻った。
逃走に成功したダリルたちは、陣たちと合流してエリドゥの方角へ走る。
「それが例の赤い髪の子供か?」
リーズの腕の中にいる小さな子供の顔をダリルが見る。
「うん。怖がっちゃってるみたいでね。さっきから何も喋らないんだよ」
「心臓を取られそうになったんや、無理もないって」
「この子…女の子?」
腰まで伸びた赤い髪をルカルカが撫でる。
「さぁ〜、見た目だけだとそうかなーって思うけど」
声を聞いていないし、どっちだろうか…と首を傾げる。
「あなた、お名前は?」
「―…トラトラウキ」
「へぇー変わった名前ね。どこから来たの?」
覚えていないのか、子供は口を閉ざして答えなかった。
「わたしの…心臓……」
「取られなくってよかったね。もう大丈夫よ」
「心臓を…」
「えっと、無事だったのよね?」
ルカルカは同じワードを呟く子供を不思議そうに見つめる。
「あの子のは、わたしの」
「ん!?まだ、誰かいたの?」
「もしかして黒い髪のほうのことかも」
祭壇に横たわっていた同じ姿をした子供のことを、リーズがルカルカたちに話す。
「それが、動くと災厄をもたらすってことよね。その子のことを言っているのかな」
「わたしの…心臓を…」
「いや、いくら動かないからってそんなことしちゃったら…っ。話からして、この子なら害はないようだけど。それでも、それを取るってことは死なせるってことでしょ」
「死ぬけど、死なないこともある」
子供はかぶりを振ってそうじゃないと言う。
「え、え?よく分からないのだけど」
言葉の意味が理解できず、ルカルカは困惑する。
「ひょっとして、同一の存在であって、そうじゃないってことじゃ?」
「うーん、分からないーっ」
終夏の言葉にルカルカの頭の中がこんがらかがってしまう。
「この子のほうは、災厄をもたらさないから同一でもない。対となる存在だからこそ、心臓を得て同一となる…ってことかも。未覚醒らしいから、ありえると思うよ」
「心臓、わたしの…」
「ごめん、それは与えられない。辛いかもしれないけど、我慢しなきゃ」
求めることをやめても、発作的に欲することもあるだろう。
けれど、片方の身体が永遠に停止するかもしれない。
相手が災厄をもたらす者だとしても、それはできないとかぶりを振った。
「求める欲求を抑える辛さは、…俺にも分かる」
淵はオメガの魂が狙われていたことを思い出し、傍にいるのはほぼ不可能に近いのだとすぐに理解できた。
目の前にある水を飲まずに、我慢するのと同様のことなのだ。
「わたしの、…わたしの」
「(それはできないんだよ、大人しく寝ててね)」
砂嵐のほうへ手を伸ばす子供を、終夏がヒュプノスの声で眠らせる。
「和輝からテレパシーがきたよ!」
「定期連絡してるんだったよね」
「うん。ワタシたちの状況は知らせたけど…」
「―…けど?」
「町のほうへボコールが向かったみたいなんだ」
北都たちが残っているから、町の人々は守ってくれるはず。
ただ、その先が問題だった。
住人を人質に、取り戻した生贄の心臓を要求しにくる可能性があるということだ。
「ワタシたちがそこに行くのはマズイってことだね。和輝くんたちは、ディアボロスたちの監視を続けるらしいよ」
「万が一、取り戻しにくるかもしれないってことかな?」
「たぶんね…」
「追ってくる気配もないし、連絡を待つとしますかっと」
ディアボロスの姿も、追いかける気配もないとこを確認した陣が言う。
「俺たちが行ったら、わざわざ運んできたような感じになっちまうってことか…」
向こうからすればエサがやってきたことと同じ。
そう思いつつカルキノスはエリドゥの方向へ目をやった。
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