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リアクション
第6章 精神を乱す邪徒 Story2
白魔術の気を纏った結和は、祓魔の力を真っ白な布のように広げ、行動力を低下させたボコールに被せる。
「へっ、こんなもん。簡単に避けられるなー」
「(それはどうでしょうか?)」
ふざけた態度をとる彼らを囲むように、続け様に放った術を細長い紐状に変えて布を縛る。
「取り込んだ者を、開放してください…」
「はぁ?イヤだっつたらぁ〜」
「―…とても残念ですね」
静かに呟いて強く紐を縛り、器のほうへ祓魔の力を侵食させる。
わざとらしい悲鳴でも、僅かな哀れみを向けて息をつく。
「うぅ、むうー!(ゆーわ、気配が器から離れるよ!)」
エアリエルが離れていくと、ぴょんぴょん跳ねてロラが知らせる。
「ちくしょうぅ〜、逃すかぁあ。もっともっと刻んでいーんだぜぇええ!器がほしいなら、好きなだけ使えばいいさっ」
「戻ってはいけません…っ。(少し苦しいですが、我慢してください…)」
大気の魔性を狂気に走らせ、再憑依させようとするボコールから守ろうと灰色の重力で包んで止める。
「可哀想ですけど。体力さえ奪ってしまえば、しばらくは動けないでしょう」
「これで、終わりだと思うなよ!!」
能力を削がれた彼らは捨て台詞を吐き、地獄の天使の翼で逃走する。
「やつらが逃げてしまうっ」
「ちょっと羽純、私たちの本来の役目を忘れないで」
「くっ…分かっているけど……」
「外の人に知らせなきゃね。私たちはまだ、ここで引き付け役しなきゃだもの」
今にも追っていきそうな彼の腕を握り、“行っちゃいけない”と静かにかぶりを振った。
和輝から定期連絡をもらった歌菜は、エアリエルを失ったボコールが逃走したことを伝えた。
町のほうへ向かう様子は見られないようだったが、警戒はしておこうと告げられ、テレパシー伝達を終えた。
砂嵐に突入後、囮組みと救出組みに別れたセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は、突然のメールに携帯を潰しそうな勢いで握り締めた。
「パパーイったら。こんな時にメールなんか送らないでよ!」
プチッときたのか大きな声で怒鳴り、いったい何の用なのかメールを開いた。
件名:頑張って下さい
今回の状況はかなり厳しそうですね、時間もかかりそうだなと見て取れました。
とにかく無理せず、自分の出来ることを行ってきて下さいね、シシィ。
それと、あまり他の方々に迷惑をかけることは慎んで下さい。
部屋の片付けは最たるものですが、それ以外にも貴女が無茶をすることで。
余計なことに力を割かねばならない人が出ること、それを肝に銘じて下さいね。
さて、話は変わりますが…。
カレーの作り方ってどうすれば良かったのでしょう?
いつも作って貰っていたので分かりません、先ず何を準備すればよいのですか?
Alt
「はぁ?…パパーイって、ご飯の作り方知らなかったの?」
自分が未来から来る前に、普段から何を食べているのやらと、目を丸くして驚く。
「ゾディは食事に関しては無頓着よ。アタシが気をつけなかったら、珈琲が主食になる事なんてザラだったから…。サンドイッチ食べてればいい方よ」
「待って待って、パパーイってこの時代は…歳だったから…それってとってもまずいわよぉ!」
水よりはマシと思えど、コーヒーもただの飲み物。
今も元気に生きてるのが不思議でしかたない。
食事とは言い難い、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の生活に頭を抱えた。
「そ!…アタシが作っておいた冷凍カレーの場所、メールしておくから。アンタはレシピでも書いておくって上げて、セシル」
「…分かったわ…んっん〜わたしがこの時代に来た最大の理由が、今できたような気がするわ…すっごく不本意だけど」
「メシの心配してやる暇があったら、自分たちの心配をしたどうだ?」
のんきなものだと緒方 樹(おがた・いつき)は2人をキッと睨む。
「ごめんなさぁ〜い、タイチのお母さん。いいや、パパーイはほっとこ」
覚えてたらメールしてやればいいか、と携帯をバイブモードにして腰のポシェットにしまった。
「セシル、ガンガンつっこむんじゃないわよ」
突入前にセシリアが口走っていたことを思い出し、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)が釘を刺すように言う。
「わ、分かってるわよっ。わたしに任せて、なんてこともしないし…」
彼に言われたことを脳内再生し、こくこくと頷いた。
セシリアは自分の力量くらい分かってる!と親指を立てた。
「もう1度言っておくわ。今までの祓魔師の授業で、アンタが暴走して状況悪くならなかったってことある?自信持って言える?」
「今言うことじゃないでしょ」
「だまらっしゃい。町1つ軽く潰しそうなやつが動かないように、重要な仕事をしているのよ」
「ん〜、だから分かってるってば!」
「…ってか、ツェツェ、お前オカ魔道書からフルぼっこにされてネエか?」
「あらん?セシルをいじめているワケじゃあないの筋肉ダルマちゃん」
「アアイヤイヤ、俺、いじめてるって一言も言ってねぇっすよ」
緒方 太壱(おがた・たいち)は片手をパタパタ振り、そんな意味じゃないと苦笑いをした。
暴走なんかしないかね、とセシリアは太壱と指切りげんまんする。
「とと様とと様、あに様、何だかあのお姉様と話している時、にっこりしてますよ!」
「どうしたのエキノ君…ああ、セシリア君とのことね」
「はいです!…とと様、ウチの考え、ばれました?…あ、こちらこそよろしくです、『あね様』!」
「え、うん?…とにかくよろしくね、エキノちゃん」
なぜ“あね様”と呼ばれたのか疑問に思いつつ、セシリアは微笑み返す。
彼女に聞こえないように、そっと緒方 章(おがた・あきら)が“いずれそうなると思うから”とエキノに耳打ちをした。
「あね様…それってえっと…うがぁ、親父ぃ!」
「うるさいわね。あいつらに気づかれたらどうするのよ」
会議で救出組みは無駄に騒ぐなと言われていたはず、とセシリアが彼らを睨む。
「はーい、ごめんごめん♪」
「さっきまでツェツェも大きな声出してたじゃねぇか…」
「これ位のちょっかいで、すぐ顔を赤くするようじゃ、魔性に手玉に取られるよ〜♪」
「こっ、この親父ッ。…ぃって〜〜」
ほぼ巻き込まれた形で、樹の鉄拳をくらい頭にたんこぶを作る。
「何見てんだ〜…」
たんこぶを摩りつつ、にんまりと笑みを浮かべているヴェルディーを睨む。
「あらん?このアタシが分からないと思ってるの?アンタたち2人の接近具合」
「は、はぁっ。知らねぇーって」
「へ、何が?」
なんのことかさっぱり分からず、きょとんとした顔でセシリアが首を傾げる。
「そいえばさ、お袋は『あるじぃぃ』と一緒に使い魔使いだよな!」
これ以上からかわれては、祓魔術を行使もしづらくなりそうだ…と感じた太壱は話題を変えようとする。
「エンドロアくん家の魔鎧は、アウレウス・アルゲンテウスくんだよ〜」
いい加減ちゃんと覚えてあげなよ?とため息をついた。
「…べつに『あるじぃぃ』で通じるから良いじゃん、な、ベルク!」
「俺に言われてもな」
「人を困らせるな、そして黙れ」
我慢の限界にきた樹は章と太壱の頭部を、祓魔銃のグリップで殴りつけた。
「どうして僕まで…。はい、ごめんなさいっ。…って樹ちゃん、エキノ君を使っていると、腰の祓魔銃は使えないけど、良いの?」
「聖杯は召喚する際に使用するものだ。呼び出した後は、脇にでも抱えておけばよい」
「あっ、そういうことなんだ?」
銃を使う時は木の聖杯を、脇に抱えておけば問題ないと告げられ、なるほどと手の平をぽんっと叩く。
「そういえばさ、太壱くん、なぜ宝石を持ってきたのかな?エレメンタルケイジがないと、使えないよ」
「うぇっ、そうだったのか!」
「まぁいいや。赤い髪の子供の救出…といきたいところだけど、どうしよっか樹ちゃん」
「―…はぁ〜。この状況では、サポートに回るしかなろう」
仮に、救出組が今回の対象を保護したとして、確実にそれを奪い返そうとしてくるはず。
ディアボロスが直接向かってくるか、手下らしき者どものいずれかだと告げる。
人手が足りないのなら、気を引きつける役割もありえるだろうと章たちに説明してやった。
「タイチのお母さん。目立つ行動は避けたほうがいいと、会議でも言ってましたからね」
「そういうことだ。私たちは…いや、言わないでおこう」
言うだけ切なくなってしまうから、“確実に目立って向かってくるだろう”と言いかけて止めた。
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