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失われた絆 第3部 ~歪な命と明かされる事実~

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失われた絆 第3部 ~歪な命と明かされる事実~

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■激突、そして衝突 2



 同じ頃。
 青葉 旭(あおば・あきら)山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)の二人は、研究所の封鎖区画の入り口で、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)マネキ・ング(まねき・んぐ)ネメシス・マネキスキー(ねめしす・まねきすきー)が、こちらも矢張りあまり和やかではなさそうな空気を放ちながら向かい合っていた。
「いい加減に、そこを通すのだ!」
「キミたちが何をしようとしているのか判らない以上、オレたちはここを通すわけにはいかない」
 わめくマネキに、旭の声は頑として譲る気配が無い。
「我らはその後ろに用があるのだ」
「だから、その用は何かと聞いている」
 平行線なやりとりに、セリスとにゃん子は、はあ、と半ば諦めたように溜息をついた。


 この状況の原因は、少し前へと遡る。
「フフフ……教導団のポン引き共が、研究施設を荒らす前に我にとって必要なものは回収せねばなるまい……」
 不気味に呟いたのは、マネキだ。
「必要なもの……か。ここに、そんなものがあるのか?」
 疑わしそうなセリスの言葉に、極寒の目をマネキに向けながら、ネメシスが肩を竦めた。
「聞くだけ無駄ですよ。今のお母さんは、昨日の事ですら忘れてるアワビ脳です」
 教導団の到着より先に訪れていたセリス達は、「パラミタの生体に関する研究資料」を手に入れるために、勝手知ったるとばかりに施設内を歩き回るマネキについて、この封鎖区画へと辿り着いていたのだ。
 ただし、広くて顔をあわせこそしなかったものの、同じように封鎖区画へと辿り着いていたのは、セリス達だけではなかった。
「あははは……また……やっちゃった……」
 絶望的方向音痴であるさゆみや、入り口で時間を食った翠たちもまた、この封鎖地区内にいたのだ。
 セリス達とは離れた地点で、ほとんどパニックになりかけたさゆみを、アデリーヌは辛抱強く宥めた。
「落ち着いて。大丈夫、ここならきっと地図を呼び出すことも出来ますわ」
 そう言って見回した周囲には、何かの実験のために使われていたのであろう、様々な機材が並び、それと同時に記録を取っていたと思われる端末も、あちこちで見かけられる。その内どれほどがまだ生きているのかは判らないが、ここに来るまでそうしていたように、手当たり次第にデータを漁っていけばその内、出口の示された地図データを手に入れられる筈だ。
 そう思って、近くの端末へとアデリーヌが手を伸ばした、その時だ。
「待って、迂闊に触ったら危ないわ」
 高崎 朋美(たかさき・ともみ)が、伸ばされた手の間に割り込んだ。ウルスラーディがまるめこ……上手く立ち回ったこともあって、生駒たちと共に、教導団についてきた彼女達は、ついにこの場まで追いついてきたのである。帰り道を得ることが出来そうな期待と、先走って入ったことを咎められないかという不安とで顔を見合わせるさゆみたちを余所に、朋美は興味深そうに、二人が伸ばしかけていた端末へと顔を近づけた。
「一応、身の危険が無いかどうかは確認してからにしないと」
 慎重論を口にしながらも、その手は既に確認(物理)を行う気満々といった様子である。案の定、壊したりするんじゃなくって、秘密を、しくみを解き明かすのが技術者だよ、などとぶつぶつ言いながら、結局手当たりしだいといった様子で記憶媒介を引っ張り出し、さて次は、と手を伸ばしかけた、その時だ。
「これって何のスイッチかな?」
 と。好奇心の赴くままに、指を押し込んだのは生駒だ。
「こりゃ、そうやって直ぐホイホイと弄ってはいかんとあれほど……!」
 すぐさまジョージがそれを咎めたが、少しばかり遅かった。
「わわわ!?」
 何かの警報装置だったのか、それとも手順を間違えた、という警告あのか、ビィー、ビィーッと、けたたましいサイレンが、突如封鎖地区に鳴り響いた。
「きゃーっ!?」
「あ、待って、今走り回ったら危ないわ!」
 突然のサイレンに驚いて、パニックがピークになったさゆみが、思わず走り出したのに、アデリーヌが追いかけ、更にその後ろを朋美がウルスラーディと追いかけて、施設内を走り回ることとなったのだった。

 そして、そのサイレンは、侵入に気付かれたかと誤解して、撤退しようとするマネキと、調査中にサイレンを頼りに駆けつけた旭とを、激突させたのである。
「ここで何をしている」
 入星管理局の者として、所属を明らかにしようとしたのだろう。だが、その言葉に、殆ど条件反射のように「答える義理は無い!」とマネキは胸を張ったのだった。当然、それで旭が納得しよう筈も無い。
 そして結果として、先程のやり取りへと行き着いた、というわけである。
「いい加減に、そこを通すのだ!」
「キミたちが何をしようとしているのか判らない以上、オレたちはここを通すわけにはいかない」
 わめくマネキに、旭の声は頑として譲る気配が無い。
「我らはその後ろに用があるのだ」
「だから、その用は何かと聞いている」
 お互い譲る気配の無い会話に、にゃん子が息をついた。
「面倒くさいにゃあ……言えないようなことをしようとしてるんだろうから、さっさとご退場願ったら良いのにゃ」
 その言葉に、何を、とマネキがうっかり反論したのが、不味かった。
「アレは元々、我の物なのだ。取り返して何が悪いのだ!」
「あー……」
 セリスが頭をかいたが、もう遅い。火花が散った両者を見ながら、ネメシスは冷たい目で息をついた。
「全く……このアワビ脳」
 その後、マネキたちのすれ違い続ける舌戦は、セリスが見かねて撤退を決めるまで延々と平行線を辿ったのは、また別の話である。



 そうして、俄かに騒がしくなった気配に、北都はモニターから顔を上げた。
 裏道を通って先に調査を開始して暫く。ここまで、特に問題もなく目当てのデータが最もありそうな場所……実験室まで辿り着いていたのだが、やはり何事もなくはいかないか、と眉を寄せた。
「もしかして敵……モンスターでも現れたのかな」
「敵はニルヴァーナの魔物だけとは限らん」
 呟く北都に答えたのは、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)だ。
「遺跡に居たと言う謎の少年達かもしれんし……教導団になるかもしれん」
 その言葉に、北都は息をついた。
 教導団側の思惑のわからない以上、その可能性がゼロとは言えない。最悪の場合、情報の全てが機密扱いとされる可能性もないわけではない。
「考えたくは無いけど、エンジェルさんを助けられなくなるかもしれないからね」
 呟くように言った、その時だ。
「大丈夫、そんなことにはなりませんよ」
 真人の声が滑り込んだ。
「……どういうことだ?」
「教導団からは、協力的であれば黙認するとの言質を取ってます」
 咄嗟に身構え、北都を庇うように前へ出たモーベットに、真人は両手をあげて戦意が無いことを示した。

「エンジェルを助けるためであれば、ここは協力した方が得策ではないですか?」