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リアクション
■幕の裏にて
「秩序ある行動を心がけてください!」
新たに発表された、ニルヴァーナの機晶姫研究施設。
その調査のために、急遽設営されたテントの中では、忙しなく書類に向かうトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の姿があった。
「やっぱり、そうなるか――……」
思わずついた溜息に、
その原因は、施設へ先行調査中の葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)から入った報告である。
できるだけ勝手に動かないで欲しい、と通達は出しているものの、自由な冒険者達がそれで止まる筈が無い、とはトマスもよく判っている。苦笑しながら、調査の指示書を再びぺらりとめくった。
細かく調査内容の徹底されたその指示書の通りに従うなら、冒険者達の存在が障害になる可能性は、かなり高いと言っていい。せめてもの対策として、行動計画書の提出を求めてみたが、当然のこと、律儀にそれを提出してくれるようなら、これほど心労も無いだろう。
「まぁ、僕らが言って止まるような人達じゃないからなあ」
思い出される親しい顔たちに、苦笑と共にトマスは溜息を吐き出した。それが重たくなる理由は他にもある。冒険者達だけならばいざ知らず、妨害をしてくる可能性があるとして、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)、ドクター・ハデス(どくたー・はです)の名もまた、それぞれ報告が上がってきているのだ。行動から考えて、冒険者達とひとくくりにしたくは無い所だが、調査の障害となるなら、教導団としては、対策を練らなければならない。
「ま、これも仕事だよね」
呟いた、その時だ。
「お仕事中、申し訳ないけど、ちょっといいかしら」
テントへ入って来たのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
「軍を中心とした作戦行動ではなく冒険者との共同作戦を希望しますっ!」
ルカルカは告げると両腕を組んだ。
既に先行している人がいる以上、取り締まりは難しい、と彼女は述べる。
「軍事機密もあるから情報規制もある程度は仕方ないと思うけど、徹底してするのは無理があるし反発もあるわ。それなら共同歩調である程度の自由行動は仕方がないと思うのだけど」
その方が軍としても得じゃない? と告げる彼女の言葉に、トマスは難しい顔だ。現場での監督をしてはいるものの、作戦そのものの権限を持っているわけではない。表情でそれを察したのだろう、ルカルカは視線を僅かにテントの奥へとやった。責任者、あるいはそれに繋がる通信装置なりがある、はずだ。
「責任者を御呼びなさい。私が交渉します」
――結果的に。
調査の主権は変わらず教導団であり、当初の指示に変更は無い、とのことだ。その上での但し書きとして、協力姿勢の認められる限りにおいて、それを取り締まる必要は無い、という旨の回答がった。侵入を認めはしないが、協力的である限りは放置で構わない、という内容で、黙認と言うのが近い、微妙な所だ。
「……と、いうわけだけど」
その結果に、真人は苦笑がちながら頷いた。
「敵対行為として排除、とならないだけで十分ですよ」
もとより、自由な冒険者と、規律を重んじる教導団とで完全に同調しろというのも難しい話なのだ。それでなくとも、お互いの目的が違っている以上、無駄な敵対行動はただの足の引っ張りあいでしかない。
「俺達はおまえ達の邪魔はしない。だから、おまえ達も俺達の行動を干渉しない……それでいいだろ?」
ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)が同調するのに「そうね」とルカルカは頷いた。
「もちろん……情報や物品の隠匿は絶対しないとも約束してくれたら、だけど」
笠置 生駒(かさぎ・いこま)たちが揃って勿論、と頷く中、トマスは肩を竦めた。
「じゃあ……とりあえず、この書類に必要事項を記入してもらえるかな」
いわゆる行動予定表と、同行するものについてはその同意書などなどの書類である。
教導団にとっては馴染みのあるそれだが、冒険者達の中にはそれに慣れていない者も勿論いる。
そんな彼らに手鳥足とりと必要事項やら書き方やらをレクチャーして回るトマスは、このテントの中では誰よりも功労者であった、と言えるだろう。
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