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リアクション
「どんな世界か楽しみだねー、ポチさん、一緒の席で見ようね」
「まー、平行世界でも僕の凄さは変わらないでしょうが、ペトラちゃんが見たいのならば仕方ありません。一緒に見てあげるのです」
完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)と獣人姿の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は仲良く二人並んで席に着いた。本日、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)が用事で来られないためペトラはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)達と共に行動している。
保護者達は
「……ポチとペトラちゃんが楽しそうで良かったですね」
フレンディスは仲良しなポチの助とペトラの様子を微笑ましそうに見守っていた。
「それより、お前の映像は見なくて良かったのか? いつもなら真っ先に見たがるだろ」
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は誘いを受けた際、リストに名前があるのにも関わらず辞退したフレンディスの不自然さが気になっていた。
「……そ、それは……見なくても問題がありませんから」
慌てたようにフレンディスは答えた。断った理由は、好奇心はあれどこれまでの経験からベルクと一緒の甘過ぎる世界だと予想し、嬉しくも皆に見られると考えただけで羞恥心全開になったからだ。
「……まぁ、フレイがいいなら別に構わねぇけど」
あまり追求しては恋人を困らせては悪いと思ったベルクはそれ以上は言わなかった。
それよりも気になるのは、
「鑑賞よりも俺は平行世界とやらを調べてぇが肝心のポチの奴があれじゃ仕方が無いよな」
平行世界についてだ。しかし、情報処理担当のポチの助が尻尾全開振り状態なのを知って調査を諦めるのだった。
「心配ありませんよ。調査をしていると聞きますし、すぐに何か分かりますよ」
フレンディスは鑑賞者の邪魔にならないよう調査をしている人々に目をやった。
「だな。しかし、気にはなるな。どこの誰がどのようにして膨大な人物データを入手したのか、そう軽々と平行世界とやらを渡る事が出来るのか。もしかしたら何らかの術式を構築させ魔術を発動させて……どちらにしろかなりの実力者でないと無理だな」
いずれ分かると知りつつも思索が止まらないベルク。
そこに
「今の段階では何も分かりませんね。後ほど調査結果を確認したいところですね」
同じく平行世界を気にしている舞花が話しに加わった。
「そうだな。しかし、こういう不可解な物はどうしても悪いものと考えてしまうよな」
ベルクは肩をすくめながら答えた。騒ぎと言えば悪事というのが定番なので。
「では、マスター上映会終了後、確認してみましょう」
フレンディスは。
「そうだな。とりあえず、今は平行世界のポチ達がどんなか見ておくか」
フレンディスの提案にベルクはうなずき、始まりだした映像に目を向けた。
「はい」
フレンディスも元気に返事をし、映像に目を向けた。
上映会後、知らされた調査結果にベルクはしっかりと耳を傾けていた。
■■■
公園、ベンチ。
「へへ、ポチさん。今日も遊んでくれてありがとー。僕が持って来たクッキー、どう? 美味しい?」
現実とは違いフードは被らず赤い目が隣に座るポチの助を見つめていた。
「……美味しいですよ。どうしてこんなに多く持って来たのですか」
現実よりに多少大人びいた雰囲気を持つ獣人姿のポチの助はペトラが持参した大量のクッキーを頬張りながら訊ねた。現実以上に押しが弱いためペトラの勢いにいつも負けて誘いを断る事が出来ない。
「大好きなポチさんに食べて欲しかったから♪ もしかして……本当は美味しくないの? それともお腹いっぱい?」
ペトラは愛らしく笑うも言葉尻に狂気がちらり。
それを悟ったのか
「……美味しくてまだ食べられるのです」
ポチの助は次々とクッキーを頬張っていく。こちらのペトラはヤンデレなのだ。それを恐れるポチの助が気を回しては苦労しているのだ。実際、満腹に近くお腹は苦しい。
「たくさん持って来てよかった」
ペトラは可愛い笑顔を浮かべるのだった。
「……」
クッキーを食べるポチの助はふと通りを歩く犬を発見し、思う事があるのか手が止まった。
その理由を知るペトラは、
「まだ悩んでいるの? 豆柴の姿が小さくて弱いのが恥ずかしいとか犬より狼や虎の方が強くて良かったのにとか。僕はどんなポチさんも好きだよ?」
元気に励ます。ポチの助は『犬獣人』にコンプレックスを持ち常に思い悩み獣人形態で居続けているのだ。
「……ペトラちゃん」
大好きなペトラに励まされるも思いを素直に言葉に出来ないポチの助。互いに恋愛感情は意識しているのだ。
「そうだ、僕が元気にしてあげるよ。だから勝負しよ! 負けたら勝った人の言う事を聞くんだ。ね?」
ペトラはぴょこんと立ち上がってポチの助の前に立ち、勝負を申し込む。当然断れないポチの助はそれに付き合う。
そして、
「容赦しないですよ」
「僕も全力で行くよ。 愛があればもう暴走なんてしないんだからさ!」
真剣勝負が始まった。しかし、ポチの助勝利で決着がつくかという所でポチの助はペトラの病みを察知し、負ける事を甘んじて受け入れたのだった。
勝利者ペトラのお願いは、
「あのね、僕のこと、ぎゅってして欲しいんだ。もちろん、犬モードじゃ駄目だよ。ちゃんと人モードで……ポチさんにぎゅってして貰ったらきっと幸せで……」
というものだった。
それを聞いたポチの助は
「……」
豆柴姿で脱兎の如く近くの草むらに逃げ込み隠れた。何か不都合があるといつも取る手段。
「むー、逃げないでよー。一度約束した事は破っちゃ駄目なんだよ」
ペトラは必死に逃げたポチの助を捜しに行った。
■■■
鑑賞後。
「……この映像……えっと……ペトラちゃん?」
ポチの助は自分の中にあるもやもやに激しく動揺し、 隣のペトラにどう話しかけようかと悩む。
「向こうの僕ってフード取っても大丈夫なんだ。でも……愛さえあればって、んー、わかるような、わからないような……」
ペトラも幸せなもやもやに胸が苦しくなった。そして、何だか恥ずかしくてポチの助の顔が見られない。
「……ふふ、可愛いですね。現実もそうなれば……」
フレンディスは微笑ましげに二人の様子を静かに眺めていた。
「……平行世界か、今とそれほど変わっていなかったな。ただあれは苦労するな」
ベルクは平行世界のポチの助を見て一言洩らした。苦労人であるためか見え隠れする苦労犬の兆候を感じ取っていた。
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