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平行世界からの贈り物

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平行世界からの贈り物
平行世界からの贈り物 平行世界からの贈り物

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 双子に招待を受けやって来た水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)嫌な予感を抱きつつも始まる映像を楽しむ事にした。

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 空京大学。医学部のとある研究室。

「ゆかり、どう? 博士論文進んでる?」
 白衣を着た友人の女医学生が現れ、同じく白衣を着たゆかりの隣に座った。
「……そこそこね。学会の準備もあるし、休む暇無いわ」
 博士課程に在籍する大学院生のゆかりは、ノートパソコンから顔を上げ、疲れたように溜息を吐き出しながら答えた。医学書が何冊も机に転がっている。
「でもゆかりはいいわよ。元々理系だから。私なんか文系だから大変よ。自分が望んだ事だけどね。ゆかりはどうして医者を目指してるの?」
 友人は肩をすくめた。現実のゆかりは文系である。
「子供の頃、近所の小児科医の女医さんに憧れて医者になりたいって言っていて」
 友人に医者を目指す理由を訊ねられ、ゆかりは少し手を止め、感慨深く幼き頃の過去を思い出した。
「へぇ〜、すごいなぁ」
 友人はひたすら感心するばかり。
「だから、忙しさに負けてられないの。未来をたぐり寄せるのは自分だから」
 そう友人に言うなりゆかりはまた論文作成に戻った。

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 鑑賞後。
「……平行世界では子供の頃の夢を叶えようとしているのね」
 ゆかりは両世界の自分について考えていた。
「…………(こっちでは、色々あって医学部ではなく法学部に入って人生の岐路にブチ当たって悩んで今は白衣ではなくて国軍の制服)」
 ゆかりはまとうものが違っていても
「……(でも後悔はしてはいない)」
 自分の選んだ道だから後悔などしていない。ちなみに本日は私服。
 そして、最後に
「……(どうか後悔をしないでね)」
 平行世界の自分も後悔の無い人生を送れるようにと心中で声をかけた。

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 とあるビーチ。

「とても似合ってるわ。まさにグラビアアイドルって感じ!」
 若手の女性スタッフが褒めている相手は、
「梨花さん、大袈裟」
 スタイル抜群で妖艶な四肢を大胆過ぎる水着で覆ったグラビアアイドルのマリエッタだった。
「羨ましいわ。さすがグラビアクイーンとして君臨しているだけはあるわ」
 まな板胸の女性は羨望の眼差しをマリエッタに注ぐのだった。
「梨花さんもカメラマンとして頑張ってるじゃない」
 マリエッタは苦笑を浮かべながら何度も組み親しくなった梨花を励ます。
「おかげさまで……あ、ゆかりも来たわ」
 梨花はお茶目にマリエッタに笑んだ後、もう一人のグラビアアイドルが来た。
「……この水着、大胆過ぎない?」
 マリエッタと同じく大胆過ぎる水着を着用したゆかりは頬を赤らめ、恥ずかしそうにしていた。
「全然そんな事無いわよ。とても似合ってる!」
 梨花はぐっと親指を突き立ててゆかりを励ます。
「そうよ。カーリー、とても似合ってる」
「……マリーは慣れたものね」
 自分を褒めるマリエッタにゆかりは溜息をつきつつマリエッタの堂々とした様子に感心していた。
 その時、
「さぁ、マリエッタ、ゆかり、写真集の撮影を始めるわよ」
 いつの間にやらカメラを構えた梨花が二人を呼んだ。
 そして、マリエッタとゆかりが色々と絡み合ったりした限界ギリギリな撮影が行われた。

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 鑑賞後。
「……グラビアクイーンって、歳は同じなのに……現実は……顔も身体もまだ中学生……はぁ、負けた……あまりにも残酷……」
 マリエッタが現実と平行世界の落差にへこんでいた。
「……はぁ、でも少しは救われた所もあったかな」
 ふとゆかりと一緒に撮影していた事を思い出し、ゆかりがいたから少し得したと元気を取り戻していた。

「どうぞ」
 『料理』を持つネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が自作し持参したお抹茶をベースに三盆糖とはちみつ、ゆずをベースとした純和風のお月見ドリンクを同席の
「貰うよ」
 好奇心で参加した下川 忍(しもかわ・しのぶ)
「団子に合いそうね」
「貰うわ」
 今回は説明を受けてから上映会に参加したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に振る舞った。大量に持参しているので無くなる心配は無用だ。
 少しして映像が流れ始めた。

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 百合園女学院、廊下。

「え、えと……書類を提出して……借りてた本を図書館に返して……あれ?」
 廊下を走るのは本を抱えた男の娘ネージュ。在籍は宦官科だが宦官の処置はしていない。そんなネージュは突然、足を止めて先ほどまで手元にあったはずの書類を探し始めた。現実とは違い気弱でドジっ子の上、思わず護りたくなるオーラをまとっている。
 困り中のネージュに手を差し伸べたのは
「……あら、どうしたの?」
 百合園の制服を着たお嬢様然としたセレンフィリティだった。現実の気分屋で大雑把で騒々しい様子は見られず、几帳面で細かい事によく気付く物静かで繊細な女性だった。
「……今日、提出の書類、どこかに……落としちゃって」
 ネージュはおどおどと話した。ちなみに今日一日でプリントを破いたり転倒時に本の下敷きになったり、お手洗いの際、踏み台から足を踏み外したりと周囲を心配させている。
「……これかしら?」
 セレンフィリティは几帳面に折り畳んだ書類を取り出した。先ほど廊下で拾い、名前が記載されていたので届けに行こうとしていたのだ。
「う、うん。それぼくの……あ、ありがとう」
 書類を受け取るなり礼を言ってネージュは廊下を急いだ。
 それを見送った後、
「……今夜はあの方と会う日。元気にしているかしら。もっと会う機会があれば、こんなにも苦しまずに済むのに」
 セレンフィリティは窓の外を見つめ、恋煩いの溜息を洩らしていた。

 セレンフィリティと別れたネージュは
「……は、早くしないとお昼の時間、終わっちゃうよ……ああぁっ!?」
 急いでいたためスカートを何かに引っかけて困った事になってしまった。

 ネージュが往生している向こうから
「確かこの書類は今日のお昼まででしたね」
 書類提出に歩く男の娘忍がいた。現実での少し前の光景と似ているが口調や雰囲気が少し違っていた。
「……あれは」
 困り中のネージュを発見した忍は現場に向かった。

「ど、どうしよう」
 ネージュは裾がほつれたスカートを見つめ、困っていた。
「大丈夫ですよ」
 やって来た忍が優しく声をかけた。常備の小さなソーイング道具を取り出し、ほつれの修繕を始めた。現実では外見はともかく中身は熱血漢の男性だったのにこちらは女の子っぽい。
 しばらくして
「ほら、これでもう大丈夫ですよ! その書類は……」
 修繕が終了すると同時に忍はネージュが持つ書類に気付いた。
「提出しようと思って……でも」
 ネージュはおどおどと話すも気弱な性格から口ごもる。
「……ボクと同じ書類ですから一緒に持って行きますよ」
 放っておけない忍は自分が持つ書類を見せて言った。
「……で、でもさっき助けて貰ったばっかりだし……」
 助けて貰ったばかりでまた頼る事に心苦しく思うネージュ。
「気にしなくていいですよ」
「……えと、ありがとう」
 ネージュは優しい忍に書類提出を頼み、図書館に向かった。

 同日の薔薇の学舎、廊下。

「……今日でこんな生活は終わりにしよう」
 窓を一瞥し、覚悟を秘めた言葉を洩らしたのは薔薇の学舎の制服を着た青年だった。この青年こそセレアナである。
 立ち止まっていたセレアナは再び歩き始めた。

 同日、夜。空には星が瞬き、月明かりが照らすのは恋に苦しむ一組の恋人。

「……愛してるわ。どうして許してくれないのかしら。あなたはとてもいい人なのに」
 セレンフィリティはセレアナに寄り添いながら苦しそうに言った。
「仕方無いさ。セレンは地球でも十指に入る大富豪の一人娘。由緒正しい正真正銘の上流階級の住人なのだから」
 セレアナはセレンフィリティの肩を抱きながら寂しそうに言った。相思相愛の仲ながら許されぬ恋に苦しみ二人はこれまで何回も密会を重ねて来た。
「……そうね」
 セレンフィリティは悲しそうにうなずいた。それ以外しか言葉が出なかった。
 そんなセレンフィリティを見つめセレアナは、
「……何もかも捨てて遠い地に行かないか。苦労は多く必ず幸せにするとは言い切れないが」
 今日覚悟した事を口にした。
「……えぇ。あなたとずっと一緒にいられるのなら。あなたとならどんな苦労でも耐えられるわ」
 セレンフィリティは笑みを浮かべて答えた。今の生活よりも最愛の人と生きる事が一番の願いだから。
「セレン」
 望んだ返事にセレアナは感謝と愛を込めてセレンフィリティに口づけをした。

 月は恋人の明るい未来を照らし出すかの如く静かに輝いていた。

 ■■■

 鑑賞後。
「……あれが平行世界のあたし……あんなにドジっ子だったの?」
 ネージュは平行世界の自分に少し唖然。
「……あの子……平行世界だからか僕なのに違う感じだったな」
 と忍は現実とのギャップに苦笑。
 それから
「しかし、冗談にしては笑えないな。僕が他人から“女の子っぽい方が良かったんじゃね?”って思われかねない上にこれがもし“平行世界を知って欲しい”という善意で送りつけてきたなら尚更そうなりかねないしな」
 以前まで女装して百合園女学院に通っていた身としては何とも複雑な心境。
「ベタだったわね。セレン?」
 セレアナはありふれた恋愛映画のような展開に面食らいつつ苦笑した後、隣を窺った。セレンフィリティは俯き加減に黙っていた。
 しかし、すぐに気付き、
「……ただ、あまりにも両極端で、世界は不公平にできてると思って……だからせめて向こうの世界のあたしには幸せになってほしいと思って」
 と素直な思いを言葉にした。
 何せ、平行世界では生まれながらに環境も才能も恵まれているが現実では身元すら不明な上、物心ついた時には売春組織で徹底的に使われ、その時の過去が未だ苦しめているのだ。
「……きっとなるわ。性別はともかく中身は私と同じだから必ずセレンを幸せにしようとするはずよ」
 セレアナは言葉に迷わずはっきりとセレンフィリティを励ました。
「そうね」
 セレンフィリティは静かにうなずいた。