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リアクション
また襖が開き、今度こそ目的の人物達が現れた。フレンディス達の知り合いを連れて。
「本日はお招きありがとうございます。このシュオン共々ご迷惑をお掛けしますね。途中でお会いしたので一緒にと思いまして」
調薬友愛会の会長ヨシノが仲間の他に連れて来たのはグラキエス達だった。温泉を楽しんだグラキエス達とばったり出会い事情を話すなり一緒に行くという流れになったのだ。
「来ていると聞いて様子を見に来た」
グラキエスは交流会よりもフレンディス達に会って一緒に楽しむ事を目的に来た。ただしウルディカとロアは別の目的があれど空気を読んで黙っている。
「丁度良い、上がれ」
ベルクは入り口に立っているグラキエス達を促した。丁度良いとは、彼らの事情にとってだ。ベルクもグラキエス達が抱える事情はよく理解しているから。
「お鍋もありますよ。後、先ほど買ったお土産も食べますか?」
フレンディスは嬉しい予想外の客に先ほど買って貰ったお土産を紙袋から取り出すのだった。
「フレイ、今食べたら土産の意味が無いだろ」
ベルクは呆れてツッコミを入れた。
「持ち帰る分は分けております故、心配ありません。あぁ、その前にお鍋が先でしたね」
天然のフレンディスはもう一つの紙袋を指さして言うもテーブルの鍋を思い出し、取り出した土産を戻した。ベルクは溜息をつくしかなかった。
まだ一組到着してはいないが、交流会が始まった。
「そうそう、魚竜の肝の件のお礼をみんなに言わないとだね。おかげで服用している間は、随分楽になったよ」
浴衣を着た全身包帯だらけのシュオンが交流初めに感謝を口にした。
「もしかして実験狂か。その包帯も実験でか?」
シュオンの口振りからベルクは以前、ヨシノから得た情報から実験狂であると知る。
「そうさ。効き目が予想以上であっという間に全身火傷になってさ。招待してくれたそこの人にここの温泉の効能を教えてくれて会長に誘って貰って来たんだ」
シュオンはカラカラと笑いながら酷い自分の状態を話した。以前のヨシノの言葉通り至って元気で明るい。
「……あの、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。先に温泉に入って少しマシになったし、駄目なら魔法薬でも作れば何とかなるかなと。こんなの持病みたいなものだから気にしなくて大丈夫さ」
心配するフレンディスにも陽気に答えるシュオン。
「大変さね。早速だけど……」
マリナレーゼはヨシノを労ってからこれまで得た情報を話した。グラキエス達の事情も含めて。
「やはり、彼らはそこまで進展していましたか。それに合点がいきました。つい最近、あのレシピについて発見した素材を渡すように内々に言われたんです。自分を薦めたのはそちらなのだからと付け加えられて」
ヨシノはつい最近の事を話し始めた。あのレシピとはグラキエス達が求める魔力を失わせる魔法薬だ。
「それで渡したのか」
一刻も早く情報が欲しいウルディカは訊ねた。空気を読んで黙ってはいたが、話題に上がれば口にしないわけにはいかない。
「渡しました。残念ですが、向こうの方がずっと腕が良いですから。何より一刻も早くと欲するあなた方のためにはそうするのが一番だと思いまして。向こうもそれは同じでしょう。依頼者の希望を叶えようとするのは」
ヨシノははっきりと答えた。依頼者の希望で薬を作るのは両方とも同じ。ただ違うのはヨシノ達は倫理に反する事はしないが、探求会は良薬も毒薬も関係なく作るという事。
「心遣いありがとうございます」
ロアは礼を言った。対立するヨシノ達の面目では無く自分達の事を優先してくれた事に。
「やっぱり、向こうは凄いね。実はさ、二つになる時探求会の方に行こうと思ったんだよね。でも見ての通り酷い状態だから体が耐えられるかなぁと思って諦めてさ。もう年中、体が痛いし。別にその事に後悔はないけどね。自業自得だから」
シュオンはあっけらかんに思った事を口にする。
「おいおい、いいのか」
ヨシノを目の前に言う言葉ではないと感じたベルクがツッコミを入れた。
「いいですよ。いつもこの調子ですから」
ヨシノはやんちゃな子供を見る眼差をシュオンに向けた。
「僕としては二つが元に戻って実験が出来なくなるのが残念かな。でもまぁ、こっちでも好き勝手やってるから元に戻っても同じか」
これまたシュオンは思った事を口にする。
その時、襖が開いて
「遅くなってごめんねーー、調薬探求会だよ! 会長が来られないから代理で来たクオンと黒亜だよ!」
11歳ぐらいの吸血鬼の少年と10代後半の暗そうなポータラカ人の女性が登場した。
「……探求会ですか」
ヨシノは軽く驚いた顔で少年達を迎えた。
「実はあたしが呼んださね。少しでも関係が修復出来ればと思って……ただ、事情を鑑みて黙っていた事は謝るさね」
マリナレーゼが両者を招待したのに黙っていた事を謝った。口にすれば、もしかしたら来ないのではと思ったからだ。何せ対立しているので。
「いえ、気にしていませんから。何となく来ると思っていましたし。おそらく向こうもそうだと思います。それにあなた方と密になる事は色々と重要ですから」
ヨシノは驚きが軽かった理由を話した。そして、来ていないシンリもまた同じ考えだろうと読んでいたり。実際はその通りではあるが。
その間、やって来たクオンは
「あーー、シュオン兄ちゃん!!」
シュオンを発見するなり嬉しそうに背中に抱き付いていた。
「クオンか」
シュオンも嬉しそうにクオンの頭を撫で撫で。
「シュオン兄ちゃん、体は大丈夫? 後で一緒に温泉に入ろうね!」
「あぁ、お土産も見に行こう」
仲良くやり取りをする二人。
「……二人……兄弟……似た者同士……魔法薬……多く作って……実験する」
黒亜がぼそぼそとこの場にいる皆に二人の関係を説明しながら懐から妙な瓶を取り出し、鍋に振りかけようとする。
「何を入れているさね。折角の鍋が台無しになるさ」
『薬学』を持つマリナレーゼは黒亜が持つ瓶の中身が劇物だと見抜き、腕を掴んで止めた。
「……私が調薬した薬……食べたら……死ぬ」
黒亜は一本調子でとんでもない事を口走った。
気付いたクオンが薬を取り上げ、
「ごめんね。ちょっと暗い性格でみんなが言うには頭がおかしいんだって。すぐに自分で調薬した薬をどこでも撒きたがるんだ。ここに来るまでにもあちこち道に撒いてた……でもきちんと僕が見事に片付けたから大丈夫だよ!」
にこやかに言った。
黒亜から腕を解放して
「……とりあえず、全員揃った所で改めて交流会を始めるさね。今晩はあたしの奢りで無礼講さね。楽しくやろうさねよー」
『資産家』を有しているマリナレーゼは気を取り直し奢りの形の交流会本番を告げた。
「……終わるまで気が抜けねぇな」
ベルクは溜息と共に自分達の椀に変な事をされないように警戒を始めた。
「グラキエス様の椀に毒物を入れられないようにしなければ」
調薬会など無関心なエルデネストが気に掛けるのはグラキエスの事。
そのグラキエスは、
「妖怪手作りのドッグフードか」
「そうなのですよ。この優秀な僕の舌で科学的に確かめてるのですよ!」
ドッグフードを食べるポチの助と戯れていた。
「……美味しいんだな」
グラキエスはポチの助の揺れる尻尾を見て笑んだ。
「ふふん、悪くは無いのですよ! この僕だからこそ分かる味ですけどね」
ポチの助は胸を反らしながら自慢げに言った。
「……」
にこやかに見守るエルデネストは内心グラキエスからポチの助を引き離したいと思っていたり。何せポチの助と犬猿の仲なので。
その時、
「……誰か外にいるみたいですね」
エルデネストは襖の外から小さな物音を聞きつけ、確認しに行った。
そして、戻って来たエルデネストは雌雄のシーサーを連れて戻って来た。
「む、シーサー! その……お前達は元気していたのですか?」
ポチの助が真っ先に反応した。
これを見たエルデネストはしめたとばかりに
「グラキエス様、再会を邪魔しては可哀想ですから私達は鍋を楽しみましょう。丁度、ご用意しましたので」
いつの間にか用意した具材がたっぷりと入った椀を差し出しながら鍋の方へとグラキエスの興味を向けさせる。
「……あぁ、ありがとう」
グラキエスは椀を受け取り、食べ始めた。効能が心地良く体に染み渡る。
そこに
「後で先ほどのお土産の饅頭も食べましょう。試食をしたらとても美味しかったんですよ!」
フレンディスが鍋を楽しみながらにこにことグラキエス達に話しかけた。
「妖怪製の饅頭、か。どんな味か興味があるな」
グラキエスは妖怪製というのが気になったのかちらりと土産が入っている紙袋を見た。
「是非、頂きましょう」
エルデネストは快い返事をした。何せ、フレンディスのおかげでますますグラキエスがポチの助から離れたので。
そのポチの助は
「……どうしたのですか、落ち着きがないのですよ」
落ち着き無く何かを捜す雌雄のシーサーに首を傾げていた。
「…………もしかして」
すぐに出会った時の事を思い出し理由に辿り着いたポチの助はソワソワし始めた。
なぜなら
「今日はいないのですよ」
シーサー達が捜していたのは花見の時に一緒にいたあの子だから。
その時、
「ポチ、そのシーサーさんは以前会ったシーサーさんですね」
シーサーに気付いたフレンディスがやって来た。
「そうなのですよ。お前達、僕のご主人様です。挨拶をするのですよ」
ポチの助はピンと背筋を伸ばし、フレンディスを紹介し始めた。
シーサー達はフレンディスに向かって仲良く挨拶をした。
「可愛いくてとても仲が良いですね……」
仲睦まじいシーサーの様子にフレンディスは羨望を抱き少しベルクを意識するのだった。