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逸脱者達のキリングタイム

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第6章 選ばれたのは、ナラカのサプリメントでした

「このままですよ!? このままの視聴率維持してくださいよ!? いいですね絶対ですよ!?」
 最早フラグを建築しっぱなしの阿部Pである。
 さて、次こそは現れたのは泉空である。これに対し、歩み出たのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)
 先にリングに上がったのはさゆみ。手にはナラカPC(ノート式)を持って何やら操作をしている。
「……何をしているの?」
 不思議そうに泉空が首を傾げる。
「ああ、これね。旅の記録をブログに上げてるのよ。ナラカなんてそうそう来れる場所じゃないからね。こんな時でも使えるんだからナラカPCって便利よねー……よしっと」
 露骨なマーケティングをしつつ書き終わったのか、さゆみはナラカPCを閉じた。
「さて、始めましょうか」
「それ、しまわなくていいの?」
 泉空にナラカPCを指さされるが、さゆみは笑みを浮かべて首を横に振る。
「いいのよ。これは武器にもなるんだから」
「……成程」
 そう言うと泉空が構えを取る。それに対し、さゆみは笑みを浮かべたまま口を開くと歌い始める。それはおどろおどろしい歌――【恐れの歌】と【悲しみの歌】であった。
「……何、この歌?」
 歌を聞いていた泉空に、何やら不穏な感情が芽生えだす。
 動きを止めた泉空に、さゆみは一気に距離を詰め鼻の下を狙い頭突きを放つ。ぐち、という音が響き、泉空の上唇が切れたのか血が流れる。
「さぁいくわよ!」
 よろける泉空の懐に潜り込んださゆみは、そのまま肩に担ごうと抱え込む。このまま持ち上げれば水車落としの体勢になる。
「……甘い」
 だが泉空は素早くさゆみの頭を脇に抱え込むようにし、首に腕を回しフロントネックロックを極める。そのまま後ろに体重をかけ、倒れ込む。
「させないわよ!」
 しかし、倒れ込む瞬間泉空の身体を押してさゆみはフロントネックロックから逃れる。そのまま立ち上がったさゆみは泉空を踏み抜く勢いでストンピングを落とす。
 それを寝たまま泉空は避けると、さゆみの足を軸にして器用に旋回。背後に回りクラッチを極めると、即座にジャーマンで反り投げる。
 高速のジャーマンで叩きつけられたさゆみは受け身を取りきれず、ふらつきながらも立ち上がる。そのままグラウンドに押し倒すつもりか、タックルを狙うがあっさりと泉空に切られてしまう。
 そのまま泉空は背後に回り、柔道の片羽絞めのような形でさゆみの腕と首を固める。だが違うのは絞め上げるのではなく、ただ動けないように固めているようである。
「……あんまりやらない技だけど、仕方ない」
 固めたままさゆみを立ち上がらせると、泉空は一呼吸置き、そのままブリッジで後方に反り投げる。腕と首を固められ満足に受け身を取れず、ダイレクトにリングに叩きつけられるさゆみ。
 リングに大の字になり、これは危険な状態と判断され病院送りとなったのである。

 この敗北の結果により、視聴率は低下してしまうが10%に留まった。泉空への顔面の頭突きはウケたのが理由なようだ。
 スポンサーからは「もう少し商品を紹介してほしかった」という少々残念な結果に終わってしまったのであった。

※現在視聴率90%

綾原さゆみ 250P→200P(死亡一回目)


「……次は誰?」
 唇の裂傷の血止めを終えた泉空がリングへと戻ると、そこには既に吹雪とイングラハムが上がっていた。
「……えっと、それはどうしたの?」
 泉空が眉を顰め、イングラハムを見る。
「み、みっちゃん……?」
 イングラハムは全身を震わせながら虚空を見つめて呟いていた。
「気にするなであります。慣れない事で疲れてたみたいだったので景気づけにナラカのサプリメントを大量に摂取させただけであります。こんなに元気であります」
 吹雪が横のイングラハムをちらりと見る。
「何故みっちゃんが……? 確か何年か前に死んだはずの……何故我を、我を呼ぶ……!? や、やめろ我を呼ぶな……! 我に近寄るなぁーッ!」
 イングラハムは何やら突然叫びだし、見えない敵と戦い始めた。
「……元気?」
「元気いっぱいであります。流石ナラカのサプリメントであります」
 吹雪がちらりと横のイングラハムを見る。何やら身体は毒々しい色になり、口からは泡を吹いたと思うと突然身体を硬直させ、倒れた。
「更に、このタコにナラカ調味料【七星唐辛子】をふんだんに使って適当に作った料理を食わせるであります」
 吹雪は何処からか取り出した鍋の中身を、無理矢理イングラハムに流し込む。すると、硬直していた身体がビクンビクンと痙攣を始める。
「お……おおお……おぼぼぼぼおぼぼぼぼおぼおぼぼぼあぼぁッ!?」
 そして突如、爆発四散した。リング上にイングラハムの肉片やら体液やらがまき散らされる。
「……流石ナラカ調味料であります」
 SAN値チェックが必要な光景を見て、吹雪が笑みを浮かべて呟く。
「くっくっく。これを食べれば貴様もあの蛸のようになるであります」
「……申し訳ないけど、私嫁の手料理で慣れてるんで」
 流石の泉空もこれにはノーサンキューの姿勢を見せる。
「そう遠慮しないでありますよ……っとそうそう、さっき戦って怪我もしたことでありますし、このナラカのサプリメントを飲むでありますよ!」
「断る」
 吹雪がナラカのサプリメントを投げつけようとするが、その手を泉空が掴んで止める。
「ぐぬぬ……人の好意は断らないでありますよ?」
「だが断る」
「さっきのタコを見たとおり、元気になるでありますよ?」
「けど断る」
「だったら料理を」
「しかし断る」
「仕方ない……目潰しぃッ!」
 一瞬諦めたと見せかけ、吹雪は二本指を立て目を狙って突いてくる。咄嗟に泉空は手を離し躱そうとするが、躱し切れず目尻から血が流れる。
「ちっ、外したでありますか……大人しく抉られれば良かったものを……」
 恐ろしい事を呟く吹雪は、即座に股間を蹴り上げてくる。なんて恐ろしい相手だ。
 だが泉空はそれを股を閉じて防ぐと、そのまま組み付き反り投げる。
「くっ……」
 背中から叩きつけられた吹雪はそのまま転がり、料理の入っていた鍋を引っ掴むと泉空へと向かっていく。
「ならばこいつを食うでありますよ!」
「そんなのいらない……私は嫁の手料理で手一杯……!」
 イングラハムの様に鍋の中身を口に流し込もうとする吹雪の手を、必死に泉空が止める。こちらも料理で苦労しているのである。
「えぇい大人しくするぅッ!?」
 膠着している時、吹雪がイングラハムの肉片で足を滑らせた。背中をしこたま打ち、吹雪は起き上がれない。
 手から離れ、宙を舞う鍋は、まるで嘘の様に吹雪の顔面へ真っ逆さま。中身を浴びるようにした吹雪の動きが止まる。
「こ……このりょ、料理……りょ、りょりょりょうりぃでぶぅッ!」
 そして、吹雪の身体も爆発四散する。肉片に血液やら、吹雪だった物がリングに飛び散った。
「……あーいむうぃーん」
 リング中央、返り血を浴びた泉空が手を挙げ呟いた。

 さて、こんなSAN値直葬の映像が流れたというのに、視聴率はと言うと何故か若干上がった。その数値5%。
 何でもあの爆殺料理やら血肉飛び散る映像が受けた様だ。流石ナラカと言うべきか。
 更にスポンサー達も大喜びで吹雪は敗北したというのに治療のマイナス分を引いても150Pと勝者並みのポイントが入ったのであった。
 ちなみに吹雪、イングラハムはその後名医の手により何故か元通りに復活できた。流石名医。

※現在視聴率95%

葛城吹雪 200P→350P(死亡一回目)
イングラハム・カニンガム 200Pから変わらず(演出で死んだという事で治療マイナス分無し)