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逸脱者達のキリングタイム

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逸脱者達のキリングタイム

リアクション

「……駄目駄目、全くなってないよ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が呆れた様に首を横に振る。その視線の先にいるのは斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)のカップル。いちゃついているのだが、まだ状況に困惑しているのかぎこちなさが隠し切れていない。
「もっと恋愛って物をみせないと視聴率とれないよ!」
 美羽が腕を組み言う。
「うーん、でもどうするのさ? というか何しようか僕たち……」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が困った様に苦笑する。
 今回美羽達は、カメラマンとナレーションの短刀を希望したのであった。しかし阿部Pからは「いえ、スタッフはいるんで殺し合うか数字取る方向で動いてください」とあっさりと却下されてしまったのである。
 その際出されたテーマが【恋愛】。それで数字を取ろうと列車内をうろついているのだが、良いネタがないのだ。
 だが、美羽は何か思いついたように笑みを浮かべた。
「よし、これならいけるよ! っと丁度いいところに……おーいハデスさーん!」
 通りすがりのドクター・ハデス(どくたー・はです)に美羽が声をかける。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! で、何の用だ!?」
 何時もとは違いスポンサーのロゴなどが入り広告塔の役割を果たしている白衣を翻しつつ、恒例の口上を述べる。
「ちょーっと協力してほしくって。あ、コハクは阿部Pさんでも連れてきて」
 コハクは頷くと、偶々近くを通りかかった阿部Pを連れてくる。そして何やら美羽が阿部Pに話すと、頷いて了承する。
「……で、俺は何をすればいいんだ?」
「あ、そうそう。今から合図したらちょっと走ってもらえればいいんだ。そうだね、トイレに駆け込むような感じで。それでね……」
 美羽が事細かにハデスに指示をする。よく解らないがまぁいいか、とハデスは了承するのであった。

「それじゃ、始めるよ! ハデスさん!」
 合図を出すと、ハデスが走り出す。そこで美羽はマイクを取出し、ナレーションを入れるのであった。

――うー、トイレトイレ!
 今、トイレを目指して走る僕はどこにでもいる、ごく一般的な悪の秘密結社の大幹部。
 しいて違うところをを挙げるとすれば、男に興味があるってとこかな。名前はドクターハデス。


「……おい! なんだそのナレーション!?」
「いいからハデスさん続けて続けて!」
 そう言って美羽はハデスに走る様に指示する。

そんなわけで、僕は列車にあるトイレへとやってきたのであった。
 ふと見ると、ベンチ式の座席に一人のプロデューサー風の男が座っていたのであった。
――ウホッ! いい男……


「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!」
「ああもういいからハデスさん続けて続けて!」


 そう思っていると、突然その男は僕の見ている前でスーツのファスナーをあけはじめたのだ……!

「や ら な い か」

 そう言えばこの列車はハッテン場のトイレがある事で有名なところだった。
 イイ男に弱い僕は誘われるままホイホイとトイレについて行っちゃったのだ♪


「行くわけないだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ハデスさん五月蝿い! 阿部P! そのままやっちゃって!」
「いいのかい? 俺は地上の人間だって構わないで食っちまうソウルアベレイターなんだぜ?」
「構うわ! って何で俺を掴む!?」
 阿部Pはハデスを掴むと、そのままトイレに連れて行こうとする。
「それじゃあ、とことんよろこばせてやるからな」
「いやいい! 何で俺がこんな目に……アッー!
 トイレに連れ込まれたハデスの悲鳴が、列車中に木霊した。

 それから顔が艶々になった阿部Pが出てきたのは暫くしてから。その後抜け殻のようになったハデスがトイレから発見された。
「おお! いいじゃないですかいいじゃないですか! 視聴率上がってますよ! 喜びのコメントもほら!」
 そう言って阿部Pが美羽達にモニターを見せる。そこには『阿部P抱いて!』『歪みねぇな』『あの白衣の子……ほしいわぁ……』と、濃厚なコメントで溢れていた。
「ふふん、頑張った甲斐があったよ」
「僕たち大して何もしてないよね……」
 ドヤ顔の美羽に、コハクが呆れた様に呟く。
 しかし視聴率が上がったのは事実であり、これに対して美羽とコハクに150P、更に巻き込まれたハデスにもポイントが100P追加されたのであった。
 そしてハデスはそのまま名医に送られる羽目になった。それに対し視聴者からの回復が心配される声が溢れたという。

※現在視聴率50%

小鳥遊 美羽 150P→300P
コハク・ソーロッド 150P→300P
ドクター・ハデス 200P→300P


「おっと、そろそろかな……」
 阿部Pは車窓から外を眺めて呟くと、壁にかかっていたマイクを取る。スイッチを入れると、車内に備えてあるスピーカーから音が流れた。

『えーまもなくー護衛者ー護衛者ー。護衛者と戦う方は戦闘準備をお願いします』

 その言葉とほぼ同時に――列車の屋根で爆発が起こった。
 天井の一部が破片となり吹き飛び、穴が開くとそこからトレンチコート姿の金髪の女性、エルがバールのような物を手に持ち降りてきた。
「……成程、私が倒す相手と言うのは貴方達でしたか。まあ、やるというからには手加減はしませんが」
 エルはそう言って、バールのような物を突き付ける。
「……あれ? 護衛者って他に居なかったっけ?」
 ふと、美羽が首を傾げてそう言うと、他の者達からも「そういやそうだった」という声が上がる。
「ああ、彼らならもうそろそろ来るはずですよ」
 エルがそう言うのとほぼ同時にブレーキの音が鳴り響く。徐々に列車はスピードを落とし、やがて止まるとエルの後方にある扉が開く。
 その扉から、頭に紙袋をかぶった根暗モーフと、『ザ』と書かれた布袋をかぶったザ=コが平然と乗り込んできた。

「……な、なんだよぅ!? 普通に乗っちゃ悪いのかよ!?」
「俺達はそいつと違って走ってる列車に追いつくとか飛び乗るとかできねぇんだよ! いいじゃねぇかよぉ! 察してくれよぉ!」

 視線に耐え切れなくなったのか、逆切れ気味に根暗モーフとザ=コが吼える。
「はいはい、それではこれから戦闘開始になるんで皆さん後部車両に移動してくださいねー。そっちで撮影しますので」
 阿部Pがそう言いながら後部車両へ先導するのであった。