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真冬の空と落ちたドラゴン

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真冬の空と落ちたドラゴン

リアクション

第一章
四面楚歌を破る希望

「目は開いているのにこちらを見ても反応が薄い。意識がもうろうとしているようだ。かなり衰弱しているな。低体温、呼吸も細い、脈拍は……ウロコが硬くて測れないな」
 エースは獣医を営んでいる。とはいえ、ドラゴンの手当ては初めてだ。知識としてドラゴンの体の仕組み等は得ているが、あくまで書物上のもの。どこまで通用するかは心もとない。
 彼の隣に、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)もやって来た。
「ぐるっと見てみたけど、傷の大半はひっかき傷、噛み傷みたいな裂傷。あと、その周りに火傷が見られるよ。特に両足と翼がひどいわ」
「了解だ、ミルディア君。おや、牙に血と一緒に何かついている。これは……ウロコか?このドラゴンのものとは色が違うな」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)もエースの後ろからひょいっと覗き込んだ。
「あ、本当だわ。戦った相手のものかしら。ということは、相手はもしかしてドラゴンなのかも。それに歯ぐきやウロコの下の肌の血色がよくないわね。ウチの患者さんだと、栄養不足のときこうなったり、肌荒れしたりするわ」
「栄養不足……食べ物が足りないということなのかな。どうしよ、食料なんて用意してないよ」
「とにかく、怪我の手当てと体を温めましょう。人の医術が通用すればいいけど……」
 獣医の知識や心得を持つ契約者たちが、ドラゴンの容体を冷静に分析。そして手際よく手当てを開始した。
 その頃、子ドラゴンは契約者数人に押さえつけられながら、大暴れしていた。
「シャー! シャー!」
 子と言えどさすがはドラゴンで、吠えるたび、跳ねるたびにもの凄い力が戦士たちを振り回す。もがくたびに一人ないし二人がすぽーんと飛んで行った。
 オートガードが効いているので蹴ったり噛まれたりしてもダメージは低いのだが、あくまで抑えられるのはダメージだけで、のけ反り、吹き飛び等は軽減できない。故に野放しにすれば非常に、治療の邪魔になる。
「やれやれね。私に任せて」
 と、事態を見守っていたヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が進み出た。
『静かにしなさい』
 ヘリワードのスキル、龍の咆哮が発動。これを使えばある程度、龍とのコンタクトが可能になる。
 なじみのある声に、子供は大きく反応を示した。びくっと身体を震わせ、声の主をきょろきょろと探す。やがてそれが目の前のヘリワードであることに気付くと、困惑の感情を見せた。
『今のあなたでは、私達には勝てないわ』
 やや威圧的に、ヘリワードは龍の言葉で言う。
『だからおとなしく、助けられていなさい』
 対し、子供のドラゴンは恨めしそうな呻き声と目つきでヘリワードを睨むものの、暴れることはしなくなった。
「ヘリワード、すごい。それに、やさしい」
「ふ、ふん。やさしくなんてないわよ。子供はこれくらい言っておいた方が後のためになるのよ。自然界で生きるのだから」
 ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)の言葉に、ヘリワードは少し慌てた様子を見せた。
 ランダムは敵意むき出しの視線を向けつつもおとなしくなった子のドラゴンに手を差し伸べた。が、子供はその手をアゴで払いのける。
「おまえ、怖いんだな」
 ランダムはスキル、適者生存を使う。
「知らない奴らばかり。うん、怖いよな。でも……」
 合わせて、歴戦の回復術も使う。子供ドラゴンの小さな傷たちがみるみる塞がっていく。
「知らない奴らすべてが、敵じゃないんだ」
 適者生存により、周囲の人間たちは敵ではなく、助けようとしてくれる者であると認識を植え付けた。
「そうよ。怖がらないで」
 と、親ドラゴンの診察をひとまず終えたローズも歩み寄った。
 スキル・降霊を使い、フラワシを召喚。特殊なスキル・フィールグッドインクを使い、子ドラゴンの小さな傷を別の生命に変換。甘い香りのする花へと変えた。
 突然地面から生えてきた花に子ドラゴンは少し驚いたが、何の変哲もない花と分かるとその匂いを嗅ぎ始めた。
「任せて。絶対にお母さんを助けるからね」
 この三人のコミュニケーションにより、子ドラゴンの警戒心をある程度緩和することに成功した。まだまだ敵意はむき出しで、親子に触ろうとするとひっかいたり噛みついたりしてくるものの、子供から襲ってくることはなくなった。
「さて、できましたわよ皆様! 簡単ではありますけれど、防柵と暖かいたき火付きの施設ですわ!」
 親ドラゴンの治療に当たっているミルディアのパートナー、和泉 真奈(いずみ・まな)が高らかに宣言。皆がそちらを振り向くと、声をそろえて一言。

「「すげえ!」」

 あらかじめ集めてもらった木材を利用し、可能な限り強固な柵を作り、その中央に枯れ木を集めて火を点けた。どうせならテントのようにしたかったのだが、布地が手に入らなかったようだ。余った木材は尖らせて壁の外側に設置し、壁に張り付きにくいようになっている。こんな短時間でこれだけの砦をつくったことに全員が絶賛した。
「まずはドラゴンの冷え切った身体を温めましょう。薬や包帯もある程度そろえてありますわ。治療に万が一でも失敗したら……分かってますよね?」
 うふふふ、と真奈の殺気めいた笑顔に、治療に当たっていた面々が引きつった笑顔を見せた。
「よ、よし、ドラゴンたちを運び込もう。あまり負荷がかからないように、サイコキネシスを使おう!」
 ランダムのパートナー堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が周りの皆に呼びかけた。
「サイコキネシス? なるほど、いい考えだね一寿。使える者たちは協力してくれ。手が空いている者は患部を手で支えてくれ」
 一寿のもう一人のパートナーヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)が頷きを一つしてそう言った。
 と、その時、前線の契約者たちをすり抜けた狼型モンスターが二体襲来。ヘリワードと、サイコキネシス発動のため集中していたヴォルフラムとに襲い掛かってくる。
「させないよ!」
 その脇から剣が一閃。一太刀で二体の狼モンスターを斬り伏せた。
 がしゃ、と剣を構えるのはヘリワードのパートナーリネン・エルフト(りねん・えるふと)
「防衛は任せて! ヘイリー、あんまり無茶なやり方しないでね!」
「り、リネンこそ、しくじって大怪我しないでよね」
「ふふふ、その時は私たちのところに来るといい。薬も包帯もそろっているということだからね」
 サイコキネシスが発動。ドラゴン親子の体がふわりと浮いた。
 しかし、子ドラゴンがこの未知の現象にパニックを起こす。周囲にいる契約者を殴る蹴る叩くしはじめ、運搬は難航を極めることになりそうだ。