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真冬の空と落ちたドラゴン

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真冬の空と落ちたドラゴン

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第三章
防衛作戦

 ドラゴンが砦に運び込まれて三十分が経過した。
 敵の数もさすがに減ってきた。
 砦から前方50メートルほど離れた位置に、大岩がある。その上でスコープを覗き、狙いを澄ますスナイパーが一人。
「こちら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。敵勢は大分数が減ってきた様子であります。発射!」
 携帯で呼びかけると同時、ずどん、と銃声が一発。
 迫ってくるイノシシ型モンスターの頭部に命中した。次弾装填、エイミング開始。
吹雪は今回、徹底して獣モンスターをヘッドショットで仕留めている。それはドラゴンに食べさせる食料のためで、撃たれた魔物は牽引部隊が現れて砦まで引っ張っていく算段だ。
「了解だ! おっらぁぁ!」
 吹雪の携帯のスピーカーから勇ましい男の声と一緒に、視界の片隅で小型の獣モンスターが宙を舞った。
「こちらハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)。このあたりの獣モンスターは一掃したぜ。
次のポイントへ向かう」
「了解であります。あなたのパートナーもいい感じに力が溜まってきているでありますよ」
 ちらり、と吹雪が岩の下を見ると、すでに熾天使化まで発動を終えている藍華 信(あいか・しん)が次のスキルをチャージしていた。
「合図をくれればいつでもぶっ放せるぜ」
 チャージしているのは滅技・龍気砲。溜めれば溜めるほど攻撃力が上がる破壊技だ。
 信の言葉に吹雪は頷くと、スナイピングはそのままに片手で携帯電話を別の人間へと掛けた。

「はい、医療班のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)よ」
 砦内、親ドラゴンの左足に包帯を巻いていたセレアナが器用に片手で携帯に出た。
「ええ。だいぶ落ち着いてきたわ。秘めたる可能性に、命のうねりに、使えるものは全部使ったってかんじ」
 親ドラゴンの冷え切った体温は、セレアナの命のうねりのおかげで体温低下を阻止し、今現在ようやく砦内の炎で体温が上がってきていた。
「子供のほうは、そうね、ドラゴンを連れて来てる人たちがいたから、そのおかげでだいぶ落ち着いているわ。まだちょっとおどおどしてるけど、いきなり噛みついたり火を吹きかけたり、ということはもうないでしょうね」
 片手と口でこれまた器用に包帯を結んだ。
「ええ。大丈夫よ、なんとかするわ」
 セレアナは、電話を切った。そしてすぐに違うところに電話を掛け、しかし携帯を耳から少し離した。
「セレアナ!? 何!?」
 と、つながると同時にスピーカーから元気な声がわんわんと響いた。

「大声出すなって? 無茶言わないで! こっちは今ボルテージが上がってるんだから!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はハイコド、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)と背中合わせで荒野の真ん中に、携帯を片手に立っていた。
「容体が回復してきた? いいじゃない! てことはそろそろアレをぶっ放す頃なのね? 食料足りてる?」
「シャーレットさん! 来ます!」
霜月の言葉に振り向けば、ゾンビモンスターと獣モンスターが大小合わせて6体、こちらに近づいてくる。
 途端、セレンフィリティが携帯を空へ放り投げた。
 スキル・ゴッドスピード。目にも留まらぬ速さでそれぞれのモンスターの背後に回り、一発ずつ銃弾をお見舞いする。そして元の位置へと戻り、落ちてくる携帯をキャッチ。
「あら、さすがの早業だわ」
 クコが繰り出しかけた足技を戻して感嘆する。
「え? もうそろそろ食料は大丈夫? 了解! じゃあこの辺の敵を一掃したらそっち帰るね!」
 と、一方的に電話を切った。
「だって」
「了解だぜ」
「了解です」
「分かったわ」
 ふと、四人が同じ方向を向いた。そこには体長1.2メートルほどの大きな狼型モンスターが二体、唸り声を上げている。
「大物はあいつで最後、ね」
「よぅし、狩りの時間だ。倍勇拳を四段掛けて、と」
「一発で仕留めるわよ!」
 セレンフィリティのコートがたなびき、その肢体が妖しく踊る。スキル・グラビティコントロール。重力のベクトルが変わり、二体の狼の重心バランスを崩した。
「行きます!」
 霜月の神速の居合いが炸裂。目にも留まらぬ早業が前足を数回斬り付ける。
 ダウンした狼を踏み台に、クコが大きくジャンプ。
「歯を食いしばりなさい!」
もう一匹の狼の頭に向かって、強烈なかかと落としを叩き込む。
 二体が完全に怯んだ。
「まっかせろぉ!」
 ハイコドの黒い義手が、髪が、ジャケットが、一匹の狼の如く素早く懐に潜り込む。
「逝ねやオラァ!」
 スキル・黒縄地獄。敵の急所を正確に突く一撃必殺の奥義。バランスを崩した狼に叩き込むことなど造作もなく、バランスを崩された狼に躱す術などない。
 胸に強打を打ち込まれた狼はそのまま後方へ吹っ飛び、岩に叩き付けられ、岩を砕き、30メートルほどぶっ飛んで動かなくなった。
「こちらハイコドだ。作戦通り、素早い奴らと大型の獣の駆逐、誘導に成功した」
 ハイコドが、電話を吹雪に繋いだ。
「信に伝えてくれ。思いっきりやれってよ」

「ふっふっふ、了解であります」
 悪い笑顔とともに、吹雪は電話を切った。
「藍華信砲撃隊長。主砲発射であります!」
「了解だ指揮官。おしまいにしようぜ!」
 信がにやりと笑う。
 滅技・龍気砲は攻撃範囲が非常に広い。密集している所に向かって撃てばほぼ全員に命中する。だから吹雪、信、ハイコド、セレンフィリティは、敵が密集しやすいように撃破、誘導を行っていた。食用に向いていそうな肉食獣は優先的に狩り、ゾンビ系モンスターとの戦闘は極力避けて体力、魔力を温存。結論として長期戦になりやすいものの、上手くいけば味方の被害も軽微で済む。
 作戦通り、信が大きなスキルを放つ。
「総員、散れええ! ぶっ放すぞぉぉ!」
 広い広い荒野を貫く一筋の光。遅れて、爆音と豪風が吹き荒れる。信の攻撃範囲内にいたすべての残存モンスターは吹き飛び、消滅していった。
 しばらくして、岩の上でスコープを覗いていた吹雪は、にやーりと笑う。
「キルゾーン及び周辺に敵影なし。我らの大勝利であります!」
 その後、荒野に勝利の歓声が響き渡った。