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【アガルタ】土星くん、とっても丸いで賞を取る!?

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【アガルタ】土星くん、とっても丸いで賞を取る!?
【アガルタ】土星くん、とっても丸いで賞を取る!? 【アガルタ】土星くん、とっても丸いで賞を取る!?

リアクション


★飛び出す絵のパズルを組み立てながら、そういえばコーン・スーってなんだったかしらと首を傾げつつ、手土産片手に彼の悲鳴を聞きに行こう!★


「お祝い、か……アトリエの店主として私が出来ること……う〜〜〜ん、マッサージとか? いやいや」
 うんうんと悩んでいる九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が目にしているのは、彼女のローズのアトリエに回ってきた土星くん祝いについてのチラシだ。
 区ごとの企画をざっと眺めていき、やはり、と自分の店があるエヴァーロングの企画。御輿作成を手伝おうと決めた。
「お御輿作成をしてくれるお店のリストとお店のロゴステッカーをつくろうかな? あっそうだ。ニルヴァーナの人たちにも声かけてみよう」
 アガルタの人たちと良い関係は築けているみたいだが、やはりこういったイベントに参加するのはまた別の絆が出来るものだ。
「とりあえず参加の表明して……って、今日初会合? 急がないと」

 というわけで、ローズは御輿作成に参加表明した人たちとあいさつを交わしていた。ほとんどの人がエヴァーロングの人なので、顔見知りも多い。

「土星くんさん、何だか物凄い偉業を成したようで……私も精一杯頑張ります!」
「がんばるのはいいが……フレイはあまり張り切りすぎるなよ……うっ」
 ヤル気満々のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に、正直あまり張り切って欲しくない(何か騒動が起きそうで)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が少し胃の辺りを押さえた。彼らは店を代表して御輿作成の手伝いに来ていた。
 同じく御輿作成に来ているグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が、ベルクを気遣う。
「ベルク、どうした? 体調でも」
「いや、大丈夫だ。それより……デザインか」
 ベルクは深く答えず、話題を議題へと持っていく。一応原案はあるのだが、土星くんの形をした人形が上に乗っているだけというシンプルなもので、もう少し工夫が必要だった。
 様々な案が出て、ソレを文字に起こしていくがすこしイメージしずらい。
「……そうだ!」
 ローズは会議の様子を見て、何かを思いついたようだった。


「おう、お帰り。もう話し合い終わったのか?」
「うん、今日のところはとりあえず、ね」
 帰ってきた彼女を出迎えたのは食欲をそそる香りとシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)だった。ローズは彼に返事をしつつ、店の奥で静かに座っているヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)に駆け寄っていく。彼女の顔には、不自然なほどに綺麗な笑顔が浮かべられていた。
「ディエゴ先生〜いつも面白い漫画を描いてるね〜え?」
 明らかなゴマスリに、ディエゴことヴァンビーノは呆れた顔をした。
「面白い漫画、ねぇ。
 くだらないおべっか使ってんじゃあないよ。ロゼは僕の漫画なんか読んだことないくせにさ」
 ヴァンビーノの言葉に、ローズは「えへへ」と笑ってから「実は」頼みを口にした。頼みを聞いたヴァンビーノは少し悩んだ末に、頷く。

「話がまとまったところで、ちと味見してくんねーか?」
「わぁっこれって土星くん? かわいいねぇ」
 シンが2人の前に出したのは土星くんの形をしたカステラだ。鈴カステラの雰囲気があるものの、色や形にはかなりこだわっているらしく、まさしくミニ土星くんだ。
「美味しい……ねぇねぇ、マヨネーズないかな」
「あるけど、何に使うんだ?」
「え? かけて食べるんだよ?」
「カステラは蜂蜜かけて食べるのが一番だよ。マヨネーズとかおかしいだろ」
「へ、変だとっ? ばかな、マヨネーズは万能調味料なんだよ! それに蜂蜜かけたら甘すぎるでしょ?」
「そうか?」
「そうだよ! マヨネーズ丼食べてみなよ?世界変わるから」
「俺は料理人としてマヨネーズのその扱いは認められねーわ」

 いつの間にかマヨネーズと蜂蜜談義になっている2人に、ヴァンビーノが口を開く。
「あんたら何の話をしてんだよ。普通にカステラ食べろよ。
 蜂蜜もマヨネーズも身体に悪そうだ」
 冷静なツッコミだった。


 そして後日。再びデザインの会議が行われた。資料が置かれた机にはシンが作ったあのカステラが並べられていた。
 机の一角に腰を落ち着かせたヴァンビーノがスケッチブックに筆でさらさらと何かを描いていく。どうも出た案の御輿の絵を描いているようだ。さすが現役漫画家というべきか。驚くほどの速度でかき上げ、最後にサインを書く。
 すると、そのデザインがスケッチブックから飛び出した。立体的に現れた御輿にどよめきが走る。
 ローズの頼みごととは、デザインを話し合っている時、スケッチブックに【飛び出す筆】でそのデザインの御輿を描き、実体としての御輿を皆に見せることだった。
(実物を見ないと本当にそのデザインでいいかどうかわからないしね)

「お店のロゴステッカーを貼るとなると、ここらへんかな」
「これだと土星くんより周囲が派手すぎるな。もう少し装飾を減らして」

 それから会議はスムーズに進み、デザインが決まった。
 決まった後は、みんな笑顔でカステラを食べてエネルギー補給をし、さっそく準備に取り掛かっていった。



* * *



 御輿の作成が始まったのとほぼ同時刻、アガルトピア中央区を歩いていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が街のディスプレイを眺めていた。
「土星くんが総選挙で一位を取った?」
「そのお祝いで街が盛り上がっているってことね」
 2人は少し納得した。祭が行われているという情報がないにもかかわらず、街全体の雰囲気が祭が行われているかのようだったからだ。
 しかし
「……なんの総選挙なの?」
「さあ?」
 おめでとうという言葉が流れたあとは、『土星くんの歩み』と題されたカッコイイプロモ風の映像が続いており、なんの総選挙なのかには触れていない。
『土星くんってどんな人?』
『いつも明るいわよね。それで結構面倒見がいいみたい』
『そうそう、この前なんかうちの子らと遊んでくれてて……』
 などなど、街頭インタビューのあとにはお祝いについての情報が流された。

 区ごとに様々な催しを企画している内容をみて、セレンフィリティの目が輝いた。
「へぇ土星くんの巨大ケーキ? 面白そうね」
 輝いた彼女とは反対に、恐怖におののいたセレアナ。理由はセレンが【殺人兵器級料理人】だからである。
 料理を食べた人間が臨死体験をしても、作った本人は「あまりのおいしさに臨死体験すら引き起こすなんて……天才って罪よね」と、本気で思っている。
(せっかくの祝いの場なのに、そんな阿鼻叫喚を引き起こすわけには行かないわ)

「セレンの作るケーキは私以外の人に食べさせちゃ駄目よ。それより、こっちにしてみない?」
 もうセレンがこの楽しそうな話(お祝い)を放って置くわけがないと判断したセレアナは、なんとかケーキ作りだけは阻止しなくては、とグッズ作製をすすめてみた。
「あらそう? う〜〜〜ん、そうね。それも楽しいかもね」
「作成場所は……近いわね。じゃ、行きましょうか」
 見事にグッズ作製へと方向転換することに成功した。ありがとう、セレアナさん!

 グッズの中身だが、ゲームアプリを作ることにしたらしい。主なプログラミングはセレアナが行った。どんな内容にするかだが、セレンの要望を聞いたセレアナが引きつった笑みを浮かべた。
「パズどせ? それってパズザサのパクリじゃ」
「まあまあ、それは言いっこなしよ」
「……はぁ。どうなっても知らないから」

 まあ発案はアレかもしれないが、セレアナの努力のかいあって割とまともなゲームができあがった……が、そこで終わらない。セレンがこっそりとデータを書き換え、ゲームバランスをめちゃくちゃにしてしまったのだ。

(こっちの方が面白いわよね)

 こうしてプレイする方は面白イを感じる前に多大なる努力と苦労をともなうゲームが誕生した。

 そのゲームは当日、土星くんのイラストの入った露出度高めなキャンギャル衣装を身につけ(させられ)た2人が配布したという。



* * *



 そんな風にして始まった土星くんをお祝いわっしょい大作戦(!?)だが、全員が全員手伝えるわけではない。街の住民たちにもそれぞれ仕事があり、生活がある。
 荷物を抱えた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)もその一人だ。

「一位、ねぇ。何の一位なのやら?
 いや土星くんの事だからゲテモノ大食い大会かツッコミ大会の一位に違いない」
 御輿作成の様子を横目に見ながら、自分達の店へと戻っていく。今、店(リイムの隠れ家)を増改築中であり、新たなグッズも手配しなければならず、中々他に手が回らないのだ。

「とはいえ俺も何か……あとでリイムとコアトーに菓子折りを持っていかせるか」
 店を改装中は店長、副店長の出番はあまりない。それに愛らしい2人がねぎらえば、きっと癒されるはずだ。
「なんとか祭当日までにリイムとの写真が撮れる簡単なスタジオを作っておきたいし、コアトーのグッズも並べておきたいからな。俺はこちらに集中するとしよう」
 一応店長はリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)なので、挨拶するのも適任だろう。

 店へ帰ってくると、すでに手配していたグッズが届いていた。リイムとコアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)に差し入れを頼み、改築の音を聞きながら中身を確認していく。
「……っと、ん? 一つ足りないな。連絡を――」
「すみません、少しいいですか?」
 電話を取り出す前に業者に声をかけられ、質問に答えていく。中々、休む間も作れなさそうだ。
 しかし努力の甲斐あって、増築は無事、祭当日に間に合ったのだった。



* * *



 『影月』を営む辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)も、忙しさに身を投じていた。店の準備の手伝い――表に出ない裏方作業――はいつもどおりなのだが、今夜は『予約』が入っているのだ。

「マスター刹那。少シ ヨロシイ デスカ?」
 そんな刹那に声をかけてきたのはイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)だ。両手に買い物袋を持っていた。買出しの帰りらしい。
「なんじゃ?」
「街デ土星クン一位オメデトウ祭ナルモノガ行ワレル、ソウデス」
「イブ。なあに? お祭?」
 ステージのリハーサルをしていたアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)が頭の上に『?』を乗せたような顔をした。
 イブが詳しく説明すると、土星くんという人物? が何かの賞で一位をとったとかで、そのお祝いを街全体でしよう、というものらしい。
 区ごとにいろいろな企画をし、店単位でも特別メニューや割引などを実施(任意)するようだ。
「ドウサレマスカ?」
「ふむ、そうじゃの」
 街や区でやっているのなら、全く参加しないわけにも行かない。ここで店を出した以上、付き合いというものがある。
「とりあえず、イブ。祝い用の垂れ幕作成と限定メニューを考えてくれんか?」
「分カリマシタ」
「せっちゃん、ボクはどうすればいい?」
「アルミナはイブが別作業に向かう分、店のことを頼む」
「分かった、がんばるよ」
 それから他にもいろいろと指示を飛ばした刹那は、自分の仕事へとも戻ろうと奥の部屋へと足を進め、ふと振り返る。

ところで土星くんって何じゃ?

 真顔で尋ねてきた刹那に、イブもまた真顔で――彼女の場合は常にだが――「サア?」と。アガルタに来たばかりのアルミナは当然のごとく知らない。
「その、土星くんというのは――」
 場の雰囲気に耐えかねた従業員が土星くんについて説明した。ちょうどグッズを持っていたということで、見せてもらう。その形には、刹那も見覚えがあった。
(ああ、以前雇い主が着ていたあの丸い……)
 納得できたので、心置きなく仕事に取り掛かる。イブは垂れ幕にする布の発注をするため電話を取り、その間に従業員達にメニューのアイデアを募っていた。
 ちなみにこの垂れ幕には、言葉のほかにイラストも描かれることになった。しかしイブが実物を見たことがなく、店員が見せたキーホルダーが大分痛んでいたため、若干顔つきが違った。
 なんというか……やたらと顔が濃かった(店員がキーホルダーのはげて色落ちした箇所をマジックで書き足したため)という。
「……限定メニューハ、釜飯ニ決定デイイデスカ?」
「はいっ!」
 メニューは形が土星くんっぽいということで釜飯に決まった。
「今回のステージはよく動くつもりだから、もう少し席の間隔をあけて」
 アルミナはアルミナでステージの準備に忙しい。

 さて、そんな2人と刹那の仕事は大分異なる。
 ならなにを、というと表に出ない仕事が主だ。たとえば店内で暴れている客、従業員や他の客に迷惑かける者を店の裏からこっそり【毒虫の群れ】の毒虫1匹を放ちしびれさせて店を守ったり、自身の本業であったりする。
 本業……つまり暗殺だ。
 予約が入ると、客に特殊なコインを送り、ソレを持っているものだけが奥の部屋へと入り依頼をする。今日はその予約が入っているので刹那はいつも以上に忙しいのだ。
 まあ、アガルタ内での仕事は受けていない。ギリギリの線引きだ。

「さて。わらわはわらわの仕事をするとするかの」


* * *


 そんな『影月』から少しはなれた場所にあった空き地、に新たな店ができていた。

 職人と思われる少々強面の男たちが見せの中でとんとんかんかんと何かを作っていた。
 店の名前は『萬鍛冶屋『鱠斬』アガルタ支店』という。名前の通り鍛冶屋で、店長は紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
 しかし鍛冶屋と言っても、刃物意外に金物を売ってたり軽食をとれたりする。オーダーメイド、砥ぎ代行等サービスの幅も広い。
 唯斗は順調に進んでいることに満足そうに頷いていた。そこへ職人の一人が駆け寄ってきて何かを手渡す。

「こんな感じでどうですか?」

 職人が唯斗に手渡したのは、土星くんの形をしていた。職人が作った土星くんの置物、なのだろうか? それにしては一部にスリットが入っているのが気になる。
 唯斗は、懐から取り出した刃物を……なんとそのスリットに差し入れた。そしてこする。
 ……どうもそれは土星くん型の研ぎ器らしい。姿が見事に再現されて愛らしい分、身体に入ったスリットに刃物を突き刺している光景というのは、中々にエグイ。
 数度砥いでから刃物を確認した彼は満足げに頷いた。

「お、綺麗に研げてるな」
「よかったです。では、これで」
「ああ、頼んだ」
 実は唯斗、この土星くん型砥ぎ器を祭中プレゼントしようと思っているのだ。

「ん〜だけどもう一工夫欲しいな……ああそうだ、声出るようにすると面白いか」
 スリットに刃物を入れると絶叫が聞こえるとかどうだろう。

 唯斗はそう考えた。……え?

 何はともあれ、本人から声をもらわなければならない。唯斗は録音機材を持って、店を出た。

 一体どんなものができあがるのだろう。見たいような見たくないような。