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リアクション
★不正は許さず、悪も許さない……けど現実逃避したくなることだってあるよ!★
「……それでここを曲がると」
「なるほどな。この道につながってるってことか」
「話には聞いてましたが、全暗街は中々複雑な道になっていますね」
地図を片手に、確認するよう街を歩いているのは祭りの運営委員であるジョン・オーク(じょん・おーく)とドリル・ホール(どりる・ほーる)だ。2人は当日の交通整理役なため、こうして地理を頭に叩き込んでいる。
「やっぱり実際歩いてみるもんだな。地図だとこっちの方が近道なのに」
「人が多くて中々進めませんでしたからね。ここは当日も要注意した方が良さそうです」 真剣に話し合った後で、ジョンの口からため息が漏れた。
「交通整理役って……まあ、こういう役回りも必要ですよね。地味だけど」
「まあ、たしかに地味だけどな。誰かがやらないとな!
それに土星くんを喜ばせてやりたいもんだ、うんうん」
文句を言うジョンだが、別に不満があるわけではない。ドリルの口から出た今回の主賓の名に、そうですねと頷く。
「成功するといいですね。そのためにも裏に隠れて、汚職(?)とか不正とかおこらないようにしないと」
改めて自分達の役割の重要さを言い聞かせ、2人が再び街を歩き出そうとした時、見知った顔が前方から歩いてきた。彼らのパートナー、カル・カルカー(かる・かるかー)だ。
『お祭り騒ぎは歓迎だけど、騒ぎが過ぎてもめごとが起きたりしないように注意をはらおう。
僕たちは教導団員として、秩序を守らないといけない』
そう言って運営側に回ったカルの手には地図らしきメモ。キョロキョロしているのを見るに、何かを探しているらしい。
「カル? こんなところでどうしたんです?」
「え? あ、ちょうどいいところに。実は――」
少し前、運営本部。
経理の仕事をしている夏侯 惇(かこう・とん)がカルを呼んだ。
彼もまた「お祭り企画、か。地域の活性化にも役立ついい企画だとおもうぞ」と快く裏方に回ってくれた一人だが、とある資料を睨んでいる姿は何か問題が起きたことを示していた。
「ちと怪しい資金の動きがあってな、直接行って確認して来てくれんか?」
「それはいいけど、いったいどんな奴らが……って、オリュンポスっ? ええい、資金の返済を請求し、応じなければ差し押さえだ!」
目が燃え出したカルに惇はオリュンポスがいると思われる大体の場所――詳細な位置は巧妙に隠されていた――が書かれたメモを渡した。
そしてその一件は彼に任せ、また他の書類を手に取る。
「……まったく。どうしてこれだけの事をするのに、ここまでかかるのだ? 却下だ! それでこっちは……む、一緒に仕入れる、か。ふむふむ、これは問題なさそうだな」
ブツブツ呟きながら、惇は仕事へと戻っていった。
そして件のオリュンポスだが、無事にその場所は発見された。
「……まさかこんな掘っ立て小屋がそうだったとは思わなかった」
掘っ立て小屋の中は、改築したのか見た目とは違い整えられていた。指令部からはあまり資金が降りなかったはずだが、いったいどこから手に入れたのか。
(まあ少しと言っても、結構な額だけど)
元の請求額が額なだけに、かなりの資金が流れていた。
「よし、一斉に踏み込むぞ!」
「分かりました」
「おおっ準備できてるぞ」
こうして突撃したカルたちは、流用された資金、装飾品や家具などを差し押さえていく。中に仕掛けられた巧妙な罠に引っかかりそうになりながらも、真っ赤な差し押さえの紙があちこちに貼っていった。
とりあえず、不正資金の件はなんとかなりそうだ。
* * *
そしてこちらはエヴァーロング。
本番用の御輿が出来上がっていく様子に、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は簡単の息を吐き出した。
「中々本格的だな。職人が結集して作っているとは聞いていたが……土星くんが巨大化したらあんな感じになりそうだ」
そんなセリスがいるのは、御輿の練習場所だ。御輿はかなり大きく、そして重たい。本番を成功させるためにも、同じぐらいの重さ、大きさの御輿で練習しておく必要があった。
セリスも担ぎ手としてここにおり、練習にやってきたのだが……いつの間にか同じく練習に来たはずのパートナーたちが傍にいない。
「セリスのダンナ、どうかしたよ?」
見学にきていた巨大な軍手……もとい、軍手型のゆる族である御手洗 ジョウジ(みたらい・じょうじ)がセリスに声をかけてきた。ジョウジは珍しく(?)、セリスの周囲にいる中で最もまともだ。見た目こそは少々変わっているが。
「いや、マネキや三六九の姿を見なかったか?」
「ああ。その2人なら……あそこだ」
「え?」
ジョウジがなんだそんなことか、と指差した先にはたしかにマネキ・ング(まねき・んぐ)、願仏路 三六九(がんぶつじ・みろく)の2人がいた。いたが、セリスはいないことにしたかった。
どうしてか、というと……なぜか2人は練習用の御輿に乗っていたからだ。マネキにいたっては、皇帝の玉座まで設置してそこに偉そうに座っている。
Q:何故あなたたちは御輿に乗っているのですか?
【マネキの言い分】
「何故我が、御輿に乗っているのかだと……?
我は、招き猫だ。飾り気のごとく縁起物が御輿に乗っていても全く問題ないのだよ」
手を招くように動かしながらふふん、とマネキは鼻を鳴らした。そして傍においていた土星くんぬいぐるみを自慢げに見せた。
「それにこの【土星くんぬいぐるみ】があれば我の正当性は明らか……いや、むしろありがたみすら感じて、アガルタの愚民どもは泣いて我を奉りお布施をするに違いない!」
「いや。この祭は土星くんを祝うもので」
「さえ愚民どもよ! はやく担ぐといい! 優しい我は練習にも付き合ってやろうではないか」
「……あー、これはダメだな」
A:マネキさんだから
【三六九の言い分】
「なぜ乗っているか? ンフフフ……そんなことも分からないとは、まだまだですねぇ。
ンフフフ。土星くんが、ワタシへの信心ランキング1位を獲得したそうですよ」
「それは……初耳だな」
三六九は視線を遠いところ……それはそれは遠いところへと飛ばすセリスに、やれやれとやや大げさに首を振る。なぜかは良く分からないが、仕草や喋り方が少しカマっぽい気がする。
「つまり、これは、このアガルタで衆生救済している神であるワタシが、その清い行いを評して、ワタシを奉るこの御輿に自ら乗って、各区へと教えを説いて回らねばならないということですっ!」
「……ソーデスネ」
A:三六九さんだから
非常に困ったことになった。担ぎ手が減っただけでなく、余計な重量が増えた。顔を覆うセリスの肩を、ジョウジが優しく叩く。
「セリスのダンナ。手が足りないなら俺も手伝ってやるぜ!」
「え? しかし」
「何、遠慮はいらない。困ったときは、助け合いの精神……だろ?」
「ジョウジっ! すまない。助かる」
「いいってことよ」
さすができる男(手)。頼りになる。
セリスとジョウジが2人の分以上の働きをし、なんとか御輿の担ぎ手を補充できたのだった。
……当日はどうなるやら。
こうして、いろいろなハプニングが起きつつも、なんとか祭当日までに全ての準備は整えられたのだった。
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