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リアクション
■最深部
「こいつぁすげぇな」
「ああ、こいつぁ本格的な再調査がいりますな……」
シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)とナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)は地下最下層の中枢部に足を踏み入れるなり、全く同じ意見を言っていた。
「……本当に、団長に報告しないとね」
指揮官であるルカルカ・ルー(るかるか・るー)も同様だ。
これだけの設備、再調査を行わねばなるまい。
「淵、熱源は?」
しかし、今の目的は探索ではない。
ルカルカは夏侯 淵(かこう・えん)に問いかけると、彼女はHC銃弐式の熱源感知を行っていた。
「反応アリだ、シャウラどうだ?」
探知された熱感知データをシャウラに見せると、それを元にハイドシーカーで生態探知を行う。
「探査チーム発見、けどモンスターが正面に居やがるな」
「モンスターが? 話は付けたって聞いたけどなんでなの?」
ルカルカは何故モンスターがここに居るのか考えるが、理由はわからない。
「きっと守ってくれてたんだと思うよ?」
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がそういうと、後方に控えていたティーはそうだというように頷いている。
「なら、こんなもんは必要ないな」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)はそう言って戦闘の構えを解き、モンスターの正面へとゆっくり歩いていく。
モンスターは垂の姿を捉えても襲い掛かる様子はなく、軽く吠えると一斉にその場から走り去って行った。
「ホントに守っててくれたのか」
「子供を助けてもらったお礼だと思うの。 どんな存在でも子供は大事だと思うから」
ノーンは御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が幸せそうに子供を抱き上げている姿を思い出す。
きっとモンスターでも人間でも子供を大切に思う気持ちは変わりないのだろう。
「おにーちゃんも頑張ってるしみんなも頑張らないとね!」
ぐっ、と握った拳を突き上げたノーンだが、いつの間にか瓦礫の撤去作業が始まっていることに気が付き、焦りながら駆け寄る。
シャウラの持ち込んだミニショベルカーを主力とし、この手の作業の専門家やソイルやドリルの助言の元に作業は順調に進んでいく。
30分も経った頃には作業は完了し、丁度入口を塞いでいた瓦礫だけが取り除かれ、探索チームの面々が救助チームに担がれるように運び出されている。
真っ先に彼らの元に駆け寄ったのはルカルカで、1人1人を抱きしめて「よく頑張ったね皆」と声をかけていた。
「お前ら……」
しかし、わなわなと腕を振るわせ、今にも叫びだしそうなのは垂だ。
「探索し終わった遺跡で新たな発見をしたお前達の気持ちもわからなくもないけど、発見したら先ず『報告に戻れ』!」
彼女から発せられたのは怒りの気持ちのこめられた叫び。
「先に何があるかわからない。 未知の場所へ挑むには、それなりの準備が必要なんだ」
怒りのままに言葉を並べる彼女だが、批判する者は誰もいない。
「勇敢と無謀は違うものだからな? 今回の出来事が良い例になっただろ? まぁ、今回の経験を活かして、これからもっと頑張れや!」
そして最後に紡がれたのは激励の言葉。
探索チームの面々はその言葉に俯きながらも返事を返していた。
「みんな無事だったし良かった。 ノーンが1曲歌っちゃうよ!」
突然の宣言だったが、周りから後で良いといわれ「ええー」と言いつつも笑うノーンと他のメンバー達。
「じゃあ、この後のワタシ達を占っちゃうよ!」
占い道具を取り出し、占いを始めるノーンだが、彼女を止める者は誰もいないようだ。
「……あれ、すぐ傍に危険?」
思っていた内容と異なる結果が出たノーンの言葉を聞いた瞬間、董 蓮華(ただす・れんげ)とスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は即座に銃を引き抜き後方の闇へと乱射する。
弾丸は闇へと消えずに途中で何かに当たり、弾け散る。
「襲撃なんてお見通し、命を取られたくなかったら武器を捨てて投降しなさい」
モンスターが既に敵ではないなら間違いなく野盗だろうと見越して降伏勧告を行うが、返事はない。
「へっへっへ、バレちゃあ正面から潰すしかねぇなぁ!」
下卑た笑いと共に、現れたのは鋼鉄の鎧を身にまとった男。
抜かせまいとばかりにルカルカが正面に飛び出し、ロイヤルドラゴンを呼び出して受け止める。
「パワードスーツの類か!」
スティンガーが彼らの間等鎧を見るなりそう言い放つ。
見たことのない規格のスーツは古代時代の物だろうか。
「はっはー! 無駄無駄ぁー!」
スーツを身にまとう男は周囲から放たれる弾丸を弾き飛ばしながら、ルカルカのロイヤルドラゴンを殴り続ける。
「もう小型のイコンだな」
全身を包む装甲、まるでイコンのようだと淵は思うが1人だけならばどうにでもなる。
「1人ではどうしようもあるまい!」
ルカルカを助ける様に銃を撃とうとするが、自分の横に迫る殺気に気が付き、咄嗟に身をかわす。
淵の居た場所を野犬が牙を剥いて駆け抜けた。
「1人じゃねーんだな、これが。 俺達野盗は動物なんざお手の物さ!」
気が付くと周囲は野盗の集団と野犬の群れに囲まれている。
「探索チームは後方へ、私が護るわ!」
ルカルカがそういうと、探索チームを担ぎながら救助チームが壁を背にするように下がりだす。
一度防御を解除し、身を翻してパワードスーツの打撃を避けて守るべき彼らの正面に立ち、再びロイヤルドラゴンを呼び出して鉄壁の構えをとる。
「隙だらけだぜぇ!」
正面からパワードスーツの攻撃を受け止めるが、左右から迫る野犬や野盗に手が回らない。
このままでは護りきれない。 そう思った瞬間だった。
「やらせないよ!」
隙間を縫うように氷の華が盾となる様に咲き誇り、彼らの護った。
「無理しすぎ! ワタシ達だっているんだから!」
ルカルカの横で防御壁を生み出していたのはノーンだ。
「……ありがとう!」
これならば防御は問題ない、後は皆を信じるだけ。
「離れやがれ!」
淵が星祭りの銃を上に向けて放つと、光弾のシャワーが防御壁に群がる野盗や野犬に向けて降り注ぐ。
ルカルカとノーンを避けるように降り注いだ光弾は群がる野盗を撃ち抜いたが、パワードスーツには効果が薄いようだ。
怯まずに攻撃を続けようとする矢先、スーツの頭部へと続けて弾丸が撃ち込まれる。
「ちぃっ! 邪魔な奴らを先に片付けるか!」
「一番邪魔なのはそっちだぜ!」
シャウラとナオキが挑発するようにリズミカルな射撃を繰り返す。
挑発に乗ったようにパワードスーツをまとった男はこちらへ直進してくる。
「来たぜ!」
引き離せればこちらのものだと言わんばかりにナオキはニヤリと笑い、叫ぶ。
「団長の想いの為にも!」
スティンガーと分かれるように両サイドに展開した蓮華は相手の四肢を狙って放つ。
パワードスーツといえども体を支える四肢の間接は脆いはずだ。
「相変わらず団長一筋だねぇ」
反対側に向かったスティンガーも茶化してはいるが、同じように四肢を狙っている。
「だ、団長のためだけじゃないわっ。 皆は他を、こっちは抑えるわ!」
蓮華が団長のことを大切に思っているのは知っているが、焦る姿を見てつい笑えてしまう。
「わかってるよ!」
だが、それでも仲間の為であるのに変わりはないのだ。
「……そろそろ!」
関節を狙い続けるうちに、徐々に装甲にがたつきが出てきているのが見る様にわかる。
「そこだな!」
「外さねぇ!」
全く同時にシャウラとナオキは弾を放つ。
だが、弾丸は間接の横をすり抜ける。
「下手くそだなぁ!」
「どうかな?」
嘲笑うような野盗の言葉を気にせず、シャウラが笑い返すと同時に遺跡の装置にぶつかり、跳ね返った弾丸が両足の間接を撃ちぬいた。
関節にダメージを受けすぎた為か、たまらずその場に崩れこむ。
「こっちは念動弾だがな」
付け加える様にナオキもニヤリと笑うと、彼らの後ろから人影が飛び上がる。
「覚悟しろよ!」
倒れたパワードスーツ目がけて飛び上がったのは垂。
漆黒の装甲に包まれた右腕を大きく振りかぶり、落下の勢いに合わせて振り下ろす。
ぐしゃり、と装甲が潰れる音が響く。
多数の攻撃に晒されていた装甲はいとも簡単に砕け散り、慌てた野盗の1人はスーツから飛び出したがあっさりと取り押さえられた。
「っしゃぁ! 流石だ……おお!?」
垂の姿を見てガッツポーズをとったシャウラだが、突然地面が揺れ始めた事に驚き、素っ頓狂な声を上げる。
よく見ると床がどんどんとせり上がっている。
「このままじゃ潰れちまう、脱出するぜ!」
垂が脱出を皆に言うが、既に遅く入り口は床の下だ。
このまま天井に押しつぶされてしまうのか、誰もがそう思った時、天井が二つに割れた。
いや、開いたと言っていいだろう。
「もしかして、コレはレジスタンスがクーデターを起こす時の為の……?」
ルカルカは差し込む光に目を逸らしながら、この施設がレジスタンスの物であったことを思い出す。
来るべき日にこの本拠点を地上に上げ、一気に制圧を行う予定だったのだろう。
恐らくは先程のシャウラの弾丸がこの機能を起動させてしまったのだ。
しばらくすると、遺跡は完全に地上へ上がっていた。
そこで彼らはここにいるはずのない人物を見た。
そう、シャンバラ教導団団長、金鋭峰その人だ。